都会育ちの若者に、地方移住はできるのか? 仕事、趣味、人とのつながり...「住みたい田舎No.1」の西条市なら大丈夫!
東京を離れ、地方で暮らしてみたいと思い始めた。
コロナ禍の影響で、いろんなイベントがオンラインに置き換わり、仕事もリモートワーク。基本的に自宅に居続ける日々が続いているJタウンネットのI記者、20代男性。
とはいえ、仕事に住まい――生活の基盤があるのは東京だ。離れてしまうのには、結構勇気がいる。
もし地方に移住したとして、生活を営んでいくことって、ぼくにできるんだろうか......?
そんな疑問に答えてくれそうな街を、幸運なことに知っている。愛媛県西条市だ。
月刊誌「田舎暮らしの本」(宝島社)2月号に掲載された「2022年版第10回 住みたい田舎ベストランキング」の「若者世代部門」で、3年連続1位を獲得。市の魅力や移住サポート情報を発信する公式サイト「LOVE SAIJO」では、「コロナ禍でも移住者が増加傾向にあり、その約8割を若者世代が占めています」と紹介されている。
移住してきた若者たちは、西条でどんなふうに暮らしているのか。西条市の人々とオンラインでつながり、その実態を聞いてみることにした。
地方から、東京の会社で働く
まず話を聞いたのは、東京のアパレルメーカーに所属し、西条市でリモートワークを行う近藤優依(39)さん。コンピューターを使って、スポーツウェアをデザインしている。
西条市に移住してきたのは20年6月のこと。それ以前は東京に住んでいて、今と同じ仕事をしていた。
遠方からのリモートワークって、東京で働くのと比べて大変なのではないだろうか。
そう思った筆者だったが、優依さんは西条で働くメリットは大きい、と語る。
「すごく実務的な話ですけど、パソコンで仕事をしていても眼が疲れないんですよ(笑)。休憩するときに、仕事場兼自宅から見える山や海をボーッと眺められるからですかね」
優依さんはフリーカメラマンの夫・信也さんが西条市出身という縁で、東京の世田谷区から7歳と4歳の子供と4人で移住。「空き家バンク」で家を探し、市の中心部から車で30分程度の距離にある丹原(たんばら)地区の古民家(築約100年!)で暮らしている。
ちなみに西条市の「空き家バンク」サイトを覗くと、いくつもの戸建てが売り・貸し出され、2~3LDKで月額4万円台の物件も見つかる(筆者が以前、東京23区で住んでいたアパートの賃貸は1Rで6万台だった......)。
「東京に住んでいた頃もリモートワークをすることが多かったのですが、家が狭かったんですよ。ほぼワンルームのマンションの1室で、夫と隣り合わせ。
今みたいに自分が好きな音楽をかけながら仕事をしたり、ましてや外の景色を眺めてリフレッシュ...なんてことはできなかったですね」
家の広さは「心の広さ」と話す優依さん。古民家には部屋が何個もあり、おまけに庭付き。
仕事に行き詰まったら、家庭菜園の手入れや薪ストーブ用の薪割りをして「気持ちのいい忙しさ」を味わっているという。
「東京ではただ黙々と仕事をしているだけ。おまけに人も多くて、特に電車は混んでます。
比べて今の生活は、とにかく静かで落ち着いていますね。仕事が辛くなったら、ちょっと外に出て庭の手入れをしよう、自然豊かな景色を見てみよう、そういうことがすぐできます。
以前のようにデザインで悩んでパソコンの前で『ウゥッ』と頭を抱えることも減りました笑」
いいこと尽くしの移住生活。仕事で不便なことはないのだろうか。
「ほとんどないですね。東京に会社があるので、他の社員と会って話すことができないのですが、オンライン上でやりとりできますし。それにコロナ禍でなければ、(愛媛の)松山空港から飛行機1本で東京に行けますし」
地方に移住しても、仕事で困ることはほとんどないよう。
東京の自宅か電話やメール、ウェブ会議ツールで取材し、キーボードを叩いて記事を書いている筆者。ぶっちゃけ、パソコンとネットワーク環境があれば、どこでだって仕事はできそう......と常々思ってはいたのだが、本当に何の問題もなく......それどころか、今よりものびのびと働けそうな気がしてきた。
心強い先輩移住者たちにアレコレ聞いた
せっかく移住するんだったら、心機一転、仕事も全く新しいことに挑戦してみたい!
そんな風に考えている人ももちろんいるだろう。
そこで西条市で「新たな働き方」に挑戦してきた移住者や地元民にも話を聞いてみることにした。
そんな彼らが集まるのは、西条市内の商店街にあるコワーキングスペース「サカエマチHOLIC」だ。
ここは仕事場としてだけでなく、「地元住民と移住者をつなぐ場所」としても機能している。今回4人の移住者や地元民に話を聞くことができた。
東京都出身の高田裕明(39)さんは、元々オフィス用品メーカーの営業やPR系の会社を起業し、その後フリーランスとして就職支援などを行っていた。
新たな仕事を地方で見つけるため18年3月、妻と娘と西条市に移住。それから3年間、西条市で起業を志すメンバー(起業家)を育成するプロジェクト「Next Commons Lab(ネクストコモンズラボ)西条」(以下、NCL西条)のコーディネーターに着任し、起業サポートも行っていた。
そして現在は、ベトナムのサンドイッチ「バインミー」を販売するキッチンカーや西条のやさいを全国に届ける「西条やさい便」の運営者として活躍中だ。
そんな高田さんに移住者向けの「西条市での新しい仕事の見つけ方」を聞いてみた。
「起業するしないに関わらず、3年位のスケールで仕事観を考えるのが良いと思います。仮に移住1年目でなにかしようと思っても、知り合いも少ないので助けてくれる人は多くないですよね。まず1年間は西条で元の職種と似た仕事をしたり、元々やっていた仕事をフリーで受けたりする間に、自分に何ができるのか、今どういう状況なのかを確認するといいです」
とにかく1年目はお金を蓄え、同時に地方で自分ができることを探すのがベスト。そしてコワーキングスペースといった場所で色んな人と出会い、様々な職種の人と話し合うことで仕事が生まれるケースもあるとのこと。高田さんは、キャリアカウンセラーもしているため「自分の武器が少ないと思う人がいたら、西条に来てくれれば是非僕が話を聞いて、魅力を引き出しますよ!」と笑顔で語った。
2017年9月、結婚を機に夫の職場である西条にやってきた柴崎志保(32)さんもまた、様々な人と出会ってみることを大切にしている。
「たとえば、今私たちが集まっているサカエマチHOLICに来れば、移住の先輩から『どんな仕事があるのか』や仕事の探し方、働き方など色んな話を聞けます。そういう情報を集められれば、移住後の不安も払拭できるし、将来のイメージが膨らむんじゃないかなって」
柴崎さんは、移住前に採用コンサルティングの仕事をしていた経験を活かし、市内企業の人材課題を解決するために様々な取り組みを行う「まちの人事部」の立ち上げに貢献。21年からは中小企業の人材採用や入社後の研修、カウンセリングを行う個人事業も始め、活躍中だ。サカエマチHOLICを頻繁に利用し、オンライン研修の場所として活用したり、異なるバックグラウンドを持つ人々と仕事の情報共有を行ったりしているという。
「初めて来た土地に頼れる人が居たほうが、新しい仕事はやりやすい。知り合いを作るっていう意味でも、何らかのコミュニティに所属して顔を出すことは大事だと思います」(柴崎さん)
「0からの仕事」にも、「人とのつながり」が重要
ゆかりのなかった場所で、やったことのない仕事をする――そんな途方もないチャレンジを可能にするのもまた、「人とのつながり」だ。
NCL西条の起業メンバーとして19年にIターン就職した田村裕太郎さん(26)は新潟県出身で、約3年前まで東京の不動産会社で働いていた。彼は今、市内の宿泊施設「石鎚ふれあいの里」で所長を務めている。
「東京の大学で1年間留年してしまい、ふと自転車で日本を旅したんです。出身の新潟にある限界集落に行く機会があり、そこで地方の魅力と衰退を感じました。
将来は地方創生に関わりたいなと思いつつも、大学卒業後は不動産会社に入社。仕事の関係でコワーキングスペースに行く機会があり、そこでNCL西条が募集するプロジェクトを発見したんです」
そのプロジェクトが「石鎚ふれあいの里」を引き継ぐことだった。
とはいえ田村さんは宿泊施設の運営は全くの未経験。そこで前任者から仕事を学び、その後ふれあいの里を運営する会社を立ち上げた。
いずれ地方に行くと決めていたため移住への不安はなかったが、社会人経験が少なく起業は初めて。コーディネーターである高田さんのアドバイスを受けながら、進んでいった。
そして今でも月に数回、高田さんとミーティングを行い、自身の働き方や会社の運営方法を説明し、フィードバックを貰っているという。
「0ベースで仕事をする場合、やっぱり人と人との繋がりは大切ですね」(田村さん)
そんな移住者たちの話にコクコクと頷くのは、西条市出身の木村真一(38)さんだ。
「移住者と地元の人のコミュニティって大切だなって思います。移住者から刺激を受けて、自分の仕事観が変わることもたくさんありますね」(木村さん)
元々医療関係の仕事をしていた木村さんは、現在父の農業の手伝いをしながら、主夫として家事にも従事している。コワーキングスペースで高田さんと知り合い、そこから「新たな仕事」が生まれたと明かす。
「高田さんが行っている『西条やさい便』サービスで、自分の畑で採れたさといもを全国に届けているんです。移住してきた人は、ずっと西条で暮らしている私とは変わった視点を持っていて、関わる中で仕事に楽しさを盛り込みたいなと思うようになりました」
移住者同士だけでなく、移住者と地元民同士の深い関わりを見ることができた。全く新しい仕事に挑戦するにしても、西条ではのびのびと、そして楽しく暮らせそうだ。
では本格的に移住するには、どうすればいいのだろう?
そんな疑問を、西条市の移住推進課にぶつけてみた。
仕事の見つけ方、人とのつながり方、ぜ~んぶ市がサポートします
西条市が移住者に人気のワケ――。1つには、「移住推進課」による移住希望者への「過剰な」サポートが関係していることは以前お伝えした通りだ(詳しくは、「至れり尽くせりってレベルじゃない... 『住みたい田舎NO.1』愛媛・西条市には、日本一親身な移住コンサルタントがいた」をご覧あれ)。
筆者の質問に答えてくれたのは、そんな移住推進課の副課長・石川浩二さんだ。ぼんやりとでも「移住」というワードが頭に浮かんだら、市の公式サイト「LOVE SAIJO」を見てほしいと語る。
その言葉に従いサイトを覗いてみると、移住に関わる情報がびっくりするくらいのてんこ盛りで「移住までのステップ」というコンテンツを見れば、移住までの具体的なイメージを持つことができる。
移住推進課への移住相談は、問い合わせフォームや電話から可能。主に「住まい」と「仕事」についての相談が多いという。
仕事に関して言えば、今までやってきたような仕事を続けたいのか、0から始めたいのかなどをヒアリングした上で、市内の企業情報を提供したり、働いている人を紹介したり......。そう、実際に西条で生活している先輩に会うこともできちゃうのだ!
また、職員がコンシェルジュとして市内を案内する「無料アテンドサービス」や移住希望者ひと組ごとのリクエストに合わせてカスタマイズできる「1泊2日の無料体験ツアー」は、移住後の暮らしを味わえるため、移住推進課イチオシのサービスだという。
もちろん、趣味に関する相談だって聞いてくれる。
せっかくなので筆者も、超個人的に「西条でやってみたいこと」について、石川さんに質問してみた。
記者:西条に移住したら、海辺で釣りをしたり、山にキャンプに行ったりしたいんですけど、良い場所を教えてもらえたりって......できますか?
石川さん:(記者と)同世代で釣りをしている釣り仲間やキャンパーに会わせますよ!
まさか釣り人やキャンパーまで紹介してもらえるとは......! どうして西条市は色んな人を集めることができるのだろう。
「西条市は人と人の『つながり』を大事にしています。移住希望者のために人を探す中で、どんどん関係性が広がるんです。
移住希望者のリクエストで、私たち職員の知見も広がりそれが西条市に還元できています」
筆者はこれまで何度も西条市を取材しているが、そのたびに人の温かさに気づかされる。
移住の先輩や西条のことならなんでも知ってる市役所職員もいるし、安心して新しい一歩を踏み出せそうだ。
最後に、この記事を読んでちょっとでも西条への移住に興味をもった人へ。西条市は「えひめオンライン移住フェア」に参加していて、3月5日にはどんなことでも聞ける「市町なんでも相談」を予定。参加費無料なので、ぜひこちらからご予約を!
<企画編集・Jタウンネット>