<東京暮らし(6)>ビーチクリーンボランティア
<文 中島早苗(東京新聞情報紙「暮らすめいと」編集長)>
東京やその近郊でも、海岸などのゴミを拾う「ビーチクリーン」と呼ばれるボランティアイベントが広がりを見せている。
ゴミを拾う活動は川岸や街中などでも行われており、、自治体や企業が定期的に募集、主催する大規模なものから個人レベルまで、イベントのスタイルはさまざまだ。
もう今年の回は終わってしまったが、東京新聞でも、十年以上続いている「隅田川クリーン大作戦」の報道、告知をしている。
近年、マイクロプラスチックの生物やヒトの体内に与える悪影響が取り沙汰され、世界的な対策が始まっているが、特にプラスチック製のゴミは波や紫外線にさらされて粉々になる前に減らしていきたいものだ。
今回は、2018年11月に神奈川の稲村ヶ崎で私が参加したビーチクリーンイベントと、主催のNPOについて書いてみたいと思う。
障がいのある人とない人が一緒に
主催したNPO法人「NK LOVE」は、障がいのある人とその家族が、生き生きと暮らせる社会づくりを目指して活動をしている。具体的な活動内容にはチャリティショップの運営や、今回のビーチクリーンなどのボランティア活動、障がい者の雇用の場づくりなどが含まれ、いずれも「障がいのある人とない人が一緒になっての活動」を目標に掲げている。
理事長の加古理惠さんは、自身のお子さんに知的障がいがあることから、約4年前に「NK LOVE」を立ち上げた。
加古さんはアパレル企業に勤務、夫が経営する会社の拠点をロンドンに移したのを機に、ロンドンに駐在。そこで生まれた娘さんに、成長するにつれ、知的障がいがあることがわかる。
やがて日本に帰国、東京・原宿で自分たちのアパレル企業を設立、娘さんと暮らし始めたが、日本で障がい児を育てる苦労に直面する。
加古さんは言う。
「私自身、障がい児(者)と接するのは、娘を授かって初めての経験でした。障がいといっても『身体』と『知的』では大きく異なり、私の娘は『知的障がい者』です。娘は、障がいゆえに、自分での判断能力が乏しく、それが生きることを難しくしていると思います。頑張ればできること、訓練してできるようになったことがありますが、継続的にやり続けることが必要で、長い時間それに接しないと残念ながらヘタになります。頑張ってもできることの天井は決まっています。娘の特性かもしれませんが、多くの知的障がい者も、同様の困難に向き合っていると思います」
加古さんの話を聞きながら、私自身、知的障がいのある方と接する機会をあまり持ってこなかったこと、知識が乏しいことに気づかされる。
加古さんは続ける。
「知的障がい者は就労先が少なく、就労できても低賃金の場合が少なくありません。娘は作業所で働いていますが、工賃は低額で、時給65円です。1か月きちんと働いても1万円にもならず、これでは自立など到底できません。私たち親、保護者は先に歳をとる。だから私たちが元気なうちに、彼らの一生の生活の方向性を決めてあげたい。『親亡き後』の不安を広く共有し、障がいのある人とない人がつながり、一緒に穏やかに生きていける場をつくりたい。そして、障がいがあるからといって、ごく普通の楽しみを諦めない世の中にしたい。たとえば娘には、私の生業であるファッションも楽しみながら、明るく生き生きと暮らして欲しいのです。そのためにまずは、ビーチクリーンなどの地道な活動を通して、彼らの実態を広く知ってもらう努力をしています」
確かに、中央省庁の障がい者雇用水増し問題を見ても、障がいのある方が働く場を得ること、さらには自立することがどれだけ困難かがわかる。
そんな社会を変える一助のために、我々は何をすればよいのだろう。まずは、障がいのある方とそのご家族と接する機会、NK LOVEが行っているビーチクリーンのような活動に参加して、障がい者とその家族が何に、どう困っているのかを知ることから始めるのも一つの方法だと思う。
今回初参加したNK LOVEビーチクリーンではいろいろなことを教わった。加古さんの娘さんは19歳。知的障がいと言われなければわからないほど、外見は健常者と変わらないが、それだけに、外見でもわかる身体障がいに比べて、社会の理解が進まない面もあるのだという。
これから私に何ができるだろう。NK LOVEとのつながりをきっかけに、情報発信など、自分なりの小さなお手伝いから始めたいと思う。