「ご当地麺」全国ナンバーワンはどこ? 東京1位、江戸川区「矢打」の鴨汁せいろ
江戸のそば職人
そもそも今回の大会は、全国各地の麺類店が考案した「ご当地麺」、「オリジナル麺」、「力作麺」などの人気を競うもの。9月14日から10月31日まで行われた「全国10ブロック予選大会」の各ブロック上位4店による「全国決勝大会」が11月15日から12月25日まで行われている。
さて東京ブロック1位に輝いた「矢打」は、東京メトロ東西線の葛西駅から車で10分ほどの住宅地にある。お世辞にも交通の便が良いとは言えない上に店の前の道路を行き交う車もそこまで多くない。しかし、そんな場所のメニューが1位になったのは何故なのか。
幸運なことに店主の青木稔さんのご厚意で厨房に入れてもらうことができた。投票者の支持を得たメニューの裏側から紹介しよう。
まず入れていただいたのは製麺所。青木さん曰く江戸のそば職人が最良と考える提供方法「挽きたて、打ちたて、茹でたて」の三たて方式を実践している。
挽きたてのそば粉を握るとしっかりと固まり、手の指紋がついている。良いそばは粉の段階で指紋がつくのだという。手に取って舐めてみるとこの時点で甘みがふわりと広がった。
この粉を一旦ふるいにかけ、打つ作業へと入っていく。1キロ以上あるそば切り包丁を使い、重みでそばを切っていく。気候によって、切り方も変えているというのだから驚きだ。
これらの過程を経た麺は一旦、落ち着かせて茹でる作業に移る。
通常より大きめだという寸胴を使い茹でる。投入した麺は「八の字」で回していくのが重要だという。
タイマーなどは使わずに指で茹で具合は確認し、時間に頼らず職人としての「感覚」を信じて麺を引き上げていく。茹であがった麺のぬめりをとるために水で洗いざるにのせる。ここまで単純な作業のようだが、職人としての技量が無駄を省き、スマートな振る舞いになっていたのだろう。
鴨汁のこだわりも強い。鴨肉は青森県産の「津軽がも」と呼ばれるバルバリー種の肉を使う。こちらも青木さんの手でカットされている。
これを大量につくるのではなく、一つ一つ丁寧に作っていく。ネギは甘みの強い秋田県の「美人ねぎ」を使用。味のバリエーションを追加する。
こうして出来上がった「鴨汁せいろ」だが、熱々の汁につける前に麺だけでいただくのがおすすめの食べ方だ。
何も味がないのではと考えてしまうが、少し硬い麺を咀嚼すると優しい甘みが口いっぱいに広がってくる。最初の躊躇いはどこかへ消え、鴨汁そっちのけで麺だけが減っていってしまう。
麺を十分に味わったら鴨汁とのコンビで楽しませてくれる。麺とは違った濃厚で強さのある甘みが一瞬にして支配し、あっという間に虜だ。さらに鴨肉の程よい硬さと旨味も加わった最高のリレーは、さながら店主も大ファンだというプロ野球・ヤクルトの名コンビ「ロケットボーイズ」のようだ。