約10年で150か所を制覇...全国の「市役所前バス停」を探し続ける男
ある日のJタウンネット編集部。T編集長がおもむろに「こんな同人誌を買ったんだけど......」と差し出してきた。タイトルは「市役所前バス停プロジェクト ~日本でいちばん多いバス停(たぶん)コレクション集~」。その名の通り、全国各地にある「市役所前」バス停をまとめた1冊だ。
筆者が約10年間に訪れた「市役所前」は150か所。なぜ市役所前なのか、どれくらいの労力がかかったのか。気になった編集部員は、この同人誌を作った「トレードロップ」のいいじまさんに話を聞いてみた。
きっかけは、帯広の「市役所前」
いいじまさんが、このプロジェクトを始めたのは2007年。きっかけは北海道滞在中に、ふと「日本でいちばん多い名前のバス停はなんだろうか?」と思い立ったことだという。「本町」「駅前」などが浮かぶなか、「市役所前」を思いつき、近くの帯広市役所へ行ってみると「市役所前」バス停があった。
「なるほどこれはおもしろい、と思いまず北海道内のあちこちに出かけるがてら、市役所前にいってバス停をめぐったら結構な確率で『市役所前』だった。それで始めた、というものです」
一言で「市役所前」と言っても、バリエーションは豊富。現在500の市をめぐったが、大都市圏などでは、市名を冠した「○○市役所前」が多いそうだ。
「これは民間のバスが走っていて市を跨いで走っていることから混同しないように固有名詞をつけているのかと推測してます。しかし固有名詞がつくとそのバス停名は唯一無二なので、カウントしません。あくまで『市役所前』だけをカウントしています」
そのほか、コミュニティーバスに多い「市役所」や、役所の建物が大きい場合の「市役所東」「市役所南」、合併で生まれた「○○市役所××庁舎」など、多岐にわたっている。
バス停めぐりにも苦労が
とはいえ、一朝一夕で制覇できるものではなく、苦労もともなう。たとえば福井県小浜市へ行った時には、わずか15分の滞在時間を活用すべく、駅から市役所までタクシー移動。写真を撮ったら、とんぼ返りして、無事列車に乗れたそうだ。
「本当はゆっくり街歩きもしたかったのですが......。時間がないときはタクシー作戦を使います。運転手さんに『実は......』と事情を説明するとおもしろがられたり、呆れられたり」
このところ、よく鉄道の廃線が話題になるが、バスも例外ではない。新潟県五泉市の「市役所前」には、「この路線は月末で廃止いたします」との張り紙があったという。
茨城県龍ヶ崎市では、コミュニティーバスの「市役所」とは別に、錆びついた「市役所前」バス停を発見。しかし、このバス会社は数年前に廃業していたため、「すでに廃止されたものはさすがにカウントしませんでした」という。
東京都内で唯一の「市役所前」は...
冊子や、この記事を読んで、「市役所前」に興味を持った人もいるだろう。そこで、初心者でも行きやすいバス停を聞いてみた。
「思いつかないですねえ......どこの県に行っても『市役所前』より、そうでないところの方が大多数です。私も最初に訪れた市でたまたま『市役所前』が続いたのでこれを集めよう!という気になりましたが、東京ではじめたら早々にあきらめていたかもしれません」
東京では諦めていたかも――。実は、都内には「○○市役所前」が多く、純粋な「市役所前」があるのは1市だけだという。
「そこはどこか? ぜひ探してほしいと思います。意外な事実を知るかもしれません」
プロジェクトの目標は、すべての市をめぐること。しかし未踏破の地域は、現住所から離れた所ばかり。その間にも、路線廃止やコミュニティーバスへの転換など、常に変化が起きている。
「これまで行ったところでも新たに『市役所前』ができているかもしれない。そう思うと一生追い続けないといけないのかなと思ってしまう今日この頃です」
ライフワークとしての「市役所前」集め。いいじまさんの挑戦は、これからも続く。