主要3候補「以外」の都知事選(2)後藤輝樹さん 軍服ポスター、「放送禁止」政見放送、素顔
「すごい選挙ポスターがある」――そんな話題が、都知事選が始まるとともにネット上を駆け巡った。
写っているのは、旧日本陸軍の軍服に身を包んだ、若い男性だ。公約、それどころか名前さえもそこには書かれていない。明らかに異質だ。
このポスターの主は、後藤輝樹さん。33歳。過去にも、奇抜なポスターでたびたび有権者を驚かせてきた。
さらに今回の都知事選では、初となる政見放送にも登場。「放送禁止」ワードを連発し、NHKでは一部の音声が消されるという珍事も。
その後藤さんが、「個人演説会」を行うという。「日本人、外国人、宇宙人関わらず誰でもウエルカム」とのことなので、2016年7月24日、麹町区民館で行われた会に、筆者も参加してきた。
軍服はスタジオで借りたもの、「全裸」は侍だが衣装が...
記者が後藤さんのことを知ったのは、3年前(2013年)の千代田区長選の際の選挙ポスターだ。
黒を基調に文字はすべて英語、後藤さんのファッションも併せて、まるでヴィジュアル系バンドのジャケットのようなそのデザインは、一部で結構な話題になった。
さらに2015年の千代田区議選では、なんと全裸(一応大切なところは名前で隠れている)に日本刀を携えたポスターで登場。主にネット上で、その名を知らしめた。
そして、今回の軍服である。
「前回(2015年千代田区議選)は、『侍』をイメージしたんですけど、衣装代がかかるので、じゃあ裸で撮ったらどうか。そしたら意外とサマになったので、これでいいじゃん、と(笑)。で、侍と来たら、今度は軍服かなって。名前を載せなかったのは、それによって軍服がチープになるというか、蛇足になるという感じがしたので」
24日、区民館の会議室に現れた後藤輝樹さんは、意外なほど丁寧な、落ち着いた口調で語る。この日の「演説会」に集まったのは、筆者も入れて9人。後藤さんが一方的にしゃべるというものではなく、来場者との一問一答形式で、ゆるい雰囲気の中行われた。
なお、この日のファッションは、黒のTシャツにカジュアルな同色のパンツというもの。軍服は、スタジオでの借り物なのだとか。
仕事は供託金を稼ぐため
育ったのは横浜市。少年時代は、お笑い芸人やサッカー選手に憧れた。だが高校卒業後、20歳で政治家を志す。
28歳で出馬した神奈川県議選以来、過去に6回の選挙を経験。うち4回は、供託金没収の憂き目を見ている。今回の都知事選でも、300万円の供託金を用意した(当人いわく、「区長選(100万円)3回よりコスパがいい」)。
となると、たとえば実家からの資金援助があるとか、パトロンがいるとか、そういう想像をしてしまいがちだが、「家族とは縁を切っているので。友達ともみんなフェードアウトしていて」。
政治家になると決めている以上、いつか辞めるのに「嘘ついて就職する」のも嫌なのだという。だから、生活の糧はアルバイトだ。「何でも屋」の看板も掲げていて、部屋の掃除や草むしり、引っ越しの手伝いなどにも汗を流すが、最近はあまり依頼がないとか。
コツコツと貯めたお金を供託金に回し、選挙に出て、また働いてお金を貯める。その間に、ひたすら政策を考える。政治家になるという目標を中心に、その生活は回っている。「人生なげうって選挙に出てる」という本人の弁は、単なるレトリックとは言えない。
NHKの政見放送は無音の場面が続出
ポスターのみならず、今回の選挙で後藤さんが世間を驚かせたのは、その衝撃的な政見放送だ。
「後藤輝樹の(無音)の時間です! 今から皆さんには(無音)し合ってもらいます!」
「この番組は(無音)の(無音)による(無音)のための番組! (無音)の健全に(無音)している社会を目指して放送しております!」
NHKで25日放映されたこの放送では、後藤さんの発言はところどころ音声を消されており、部分によってはほとんど何を言っているのかわからない。とりあえず、いわゆる「放送禁止」ワードを連発していることはわかる。各地の方言で女性器の名称を叫ぶ、という場面では、20秒近く、地名以外の部分がまるまる消されてしまっている。
ほとんどの人は、後藤さんのことをエキセントリックな人物だと思うだろう。一方、24日の「演説会」では、また別の姿も見せた。
「空調、寒すぎたりしないですか?」
「飲み物とか、大丈夫ですか?」
と来場者をしきりに気遣い、質問に対して話をそらすようなこともない。来場者の中には赤ちゃん連れの女性もあり、途中その赤ちゃんがぐずったのだが、後藤さんがあやすと、不思議と泣き止む、という場面も。後藤さん自身、自分のことをこう評する。
「僕結構気ぃ遣いなので、突っ張っていないとつい、いい子ちゃんになっちゃう。でもそうすると、自分のやりたいこと、言いたいことができなくなってしまうから......」
ツイッターなどでの反応も「怖くて見てない。見たら、一つ一つ返信したくなっちゃうだろうし」。街頭演説も、「文句言われてニコニコできない気がする」から、今までで1度しかしたことがない。
政治に関することは何一ついい加減にできない、とにかく真剣勝負の人なのだな、というのが、2時間の演説会で感じたことだ。
高橋尚吾さんと「SHOGO with T」
この日は終盤、思わぬ来場者があった。同じく候補者の、高橋尚吾さんが「応援演説」にやってきたのだ。
「選挙は戦いではない」という理念を説くために、各候補者の元を回っている高橋さんと、後藤さんは同世代ということもあって意気投合、「COMPLEX的な感じで」(後藤さん)、「SHOGO with T」なるユニットを組もう、という話題も盛り上がった。
奇抜なポスターや、政見放送。「やっぱり勇気はいるし、正直受け入れられない、世間的にも非常識だ、というのもあると思うんですけど」――後藤さんも、もちろん理解はしている。しかし、だ。
「いい人ですよ、真面目な人ですよ、と僕はみんなをだましたくないんです。頭おかしい、というか、変わったところのある人なんだな、と最初から認識してもらいたい。当選してからも自分なりの切り口で活動していくつもりなので、最初から自分のスタイルというものを理解してもらった上で、受け入れてほしいんです」