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10分で打てるこねないうどん 埼玉県ときがわ町の「一膳取り もろやま華うどん」

at home VOX

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2016.02.10 22:44
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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は埼玉県比企郡のときがわ町へやってきました。JR八高線明覚駅で下車し、町を流れる清らかな都幾川に沿ってのどかな景観を歩いていきます。

趣のあるログハウス風の造りのJR明覚駅。関東の駅百選に認定されています。
趣のあるログハウス風の造りのJR明覚駅。関東の駅百選に認定されています。
緑色の岩石で形成された都幾川の三波渓谷。神秘的な雰囲気を求めてコスプレの撮影に訪れる人もいるとか。
緑色の岩石で形成された都幾川の三波渓谷。神秘的な雰囲気を求めてコスプレの撮影に訪れる人もいるとか。

目指すは町の中央部に位置するカフェ「菜の花茶論」。この店で月に2日間だけ提供されている、常識破りの手打ちうどんが「一膳取り もろやま華うどん」です。手打ちうどんを作るには、一般的に1時間以上はかかるもの。ところがもろやま華うどんは、たったの10分で打てるというのです! 店を訪ねて、真相を確かめてきました。

■月に2日だけ食べられるこねないうどん!

菜の花茶論は2007年に開業したカフェ。普段はじっくりと熟成・乾燥させたエイジングコーヒーで知られるコクテール堂の豆にこだわったコーヒーを堪能できるカフェですが、毎月第一・二土曜日の「華うどんの日」限定でもろやま華うどんを提供しています。

自宅を改装した店舗。看板にも書かれたコクテール堂とは店長の弟が工場長という縁があるそう。
自宅を改装した店舗。看板にも書かれたコクテール堂とは店長の弟が工場長という縁があるそう。
光あふれるテラス席。奥には談話にぴったりのテーブル席もあります。
光あふれるテラス席。奥には談話にぴったりのテーブル席もあります。

店を案内してくれたのは、もろやま華うどんの生みの親、新井康之さん。菜の花茶論の店長のご主人で普段は店に立ちませんが、月に2日だけ奥さんのカフェでもろやま華うどんをふるまっているそうです。早速注文をしつつ、話を伺ってみました。もろやま華うどんとは、ずばりどんなうどんなのでしょう?

新井さん「一言で言えば、まったくこねないうどんです。小麦粉をこねないことによって、小麦の本当の味を生かしたまま、短時間で作ることができるんです」

うどん作りには、生地を台の上でこねる「こね」と、生地を休ませる「ねかし」いうセットの工程があります。伝統的な製法ではこれを2回ほど繰り返すことでうどんにコシを出すのですが、新井さんはあえて省いたそう。どんなうどんに仕上がるのでしょうか?

もろやま華うどんは「冷たい華うどんとコーヒー」というセットでのみの販売。600円という良心価格です。
もろやま華うどんは「冷たい華うどんとコーヒー」というセットでのみの販売。600円という良心価格です。

しばらくして運ばれてきたのは、もろやま華うどんの盛りと熱々のコーヒーのセット。少し不思議ながら、カフェらしさを感じさせる組み合わせです。薬味とめんつゆでシンプルにいただくようですね。

原料の小麦粉は群馬県の上州地粉。風味豊かな国産にこだわって作られています。
原料の小麦粉は群馬県の上州地粉。風味豊かな国産にこだわって作られています。

盛られた山に箸を入れると、へたることなくスッと持ち上がりました。めんつゆを少しつけて一口。すると歯でかみしめた瞬間に、ぐっと押し返すような食感が! ほど良いやわらかさと、しっかりとしたコシがありますね。そして余韻に広がるのは、ほんのり甘い小麦の風味

新井さん「つゆや具の味で食べさせるうどんとは、少し違います。甘さ香りコクといった小麦の本来の風味を味わっていただきたいです」

確かにコシの強さが特徴の讃岐など、世間で人気のうどんとはまた違ったおいしさ。素材の味を生かした麺が、シンプルな麺つゆや薬味とよく合います! つるつると胃袋に収まっていき、香り豊かなコーヒーも楽しみながら完食しました!

■地域のみんなが集まるきっかけに

たった10分で打てる、もろやま華うどん。短い時間でおいしいうどんができる秘密は、意外にもそば打ちで重視される「水回し」という手法を取り入れたことでした。水回しとは、そば粉に水を入れて全体にしっかりとなじませ、そば粉同士の粒子を水でつなぐ工程のこと。うまくやるとコシがあるそばになり、失敗するとゆでただけで切れるそばになってしまいます。その工程を見せてもらいました。

もろやま華うどん作りを実演する新井康之さん。
もろやま華うどん作りを実演する新井康之さん。

新井さん「プロ向けの基本的なレシピでは12人前を10分で作ることができます。まず1キロの小麦粉に水を入れます。今日は気温10度なので、加水率は58パーセント。つまり580グラムです」

水は蚊取り線香を描くように3回転半注ぎます。
水は蚊取り線香を描くように3回転半注ぎます。

うどんの加水率は季節に応じて変わるものですが、一般的なうどんは40〜50パーセントほど。58パーセントはやや高い印象を受けますが、この加水率が生地に適度なコシと豊かな風味をもたらしてくれるそうです。 そしてポイントは次の工程。本来このあとに小麦粉を手でこねる「こね」と、できた生地を数十分から数時間単位で休ませる「ねかし」があるのですが、新井さんが取り出したのは、パスタトング割り箸でした。

新井さん「パスタトングで中央に目を作ったあとに、割り箸で混ぜていきます

割り箸でぐるぐるとかき混ぜると、水が小麦粉に行き渡ってまとまってきます。
割り箸でぐるぐるとかき混ぜると、水が小麦粉に行き渡ってまとまってきます。

この工程が水回しです。本来は手で行うものですが、割り箸でやるのは新井さんのオリジナル。手で混ぜると、どうしてもこねてしまいがちですが、割り箸なら心配無用。多加水の柔らかい状態の小麦粉を生地にまとめるには、こねないことが大切だそうです。 小麦粉に水が浸透すると、勝手に大小の塊になっていくので、あとは生地を手でこねずにひとつにまとめ、軽く手で押して空気を抜き、麺棒で平たく伸ばして、たたんで切れば完成。一般的なうどん作りとほぼ同じですね。

8層に折りたたんだ薄い生地を切ると、見事なうどんのできあがり!
8層に折りたたんだ薄い生地を切ると、見事なうどんのできあがり!

つまり、高めの加水率と水回しによって、「こね」と「ねかし」をせずにおいしく作れるうどんだということですね! このようなユニークな製法で、どうしてうどんを打とうと思ったのでしょう?

新井さん「かつて私は毛呂山町役場の職員でした。2004年に福祉課に配属されたのですが、そのとき課題に感じたのは、地域の結びつきがないから、福祉が始まらないということだったんです」

ときがわ町からほど近い毛呂山町では、地域の高齢化が進んでいました。体が弱くなっていくお年寄りは、何か集まるきっかけがないと家に引きこもりがち。そこで月に一回集会所などに集まる“地域デイ”のような催しが助けになるのですが、年金生活なので会費がかかると参加が難しいという声も多かったそう。

新井さん「だから集まるきっかけとなるような、コストがかからない催しが必要だと考えました。私は江戸流のそば打ちを習っていたのですが、15分もあればできるそば打ちは催しとしては良いんです。でも材料費が高いし、アレルギーもある。ではうどんはというと、完成に時間がかかるので集会の時間内に収まらない。そこで、そばのようにさっと作れるうどんを目指して開発したのが、もろやま華うどんなんです」

店でふるまわれるもろやま華うどんは、店の奥にある専用工房「落葉庵」で作られています。
店でふるまわれるもろやま華うどんは、店の奥にある専用工房「落葉庵」で作られています。

こうして新井さんは2004年から普及活動をスタート。地元での講習会はもちろん、東日本大震災が起こってからは被災地の仮設住宅などを訪問し、実演や講習を実施してきました。役場を定年退職した現在も、活動は続いています。

新井さん「いまの時代にこそ、みんなで手作りすることが大事です。店に来て食べるのもいいけど、ぜひ自分でも作ってみてほしいですね。きっとおいしいうどんができると思いますよ」

実は、菜の花茶論は熱心なそば・うどんファンからは知られた店。全国からやってきたファンが、もろやま華うどんの作り方を教わって帰ることもあるそうです。レシピはインターネット上でも紹介されていますが、興味がある人はお店に行って、教えてもらってみてはいかがでしょう?

店舗情報 ●菜の花茶論 住所:埼玉県比企郡ときがわ町西平959-1 電話:0493-67-0337 営業時間:11:30~19:00(日月火第3・4土曜休) ※第1・2土曜日は「華うどんの日」(11:30〜15:00)、詳しくは要問い合わせ

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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