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あまりにも黒い! イカスミが海の風味を運ぶ静岡県西伊豆町の「海賊焼」

at home VOX

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2015.07.14 11:45
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日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は静岡県西伊豆町にやってきました。伊豆半島の西部に位置する西伊豆町は、伊豆の松島とも称される景勝地「堂ヶ島」や、その絶景を望みながら温泉につかれる「堂ヶ島温泉郷」で知られています。

波の浸食でできた島々が点在する「堂ヶ島」。遊覧船で海から眺めることもできます。
波の浸食でできた島々が点在する「堂ヶ島」。遊覧船で海から眺めることもできます。

訪れる人に癒やしと安らぎを与えてくれる西伊豆。カツオをはじめとした海産物もおいしいこの土地では、近年インパクト抜群の真っ黒い麺料理が話題になっているそうです。地元の定食屋「河津屋食堂」にお邪魔して、その正体を確かめます!

伊豆半島の主要道路・国道136号線から少しそれた、役場などが並ぶ通りにあります。
伊豆半島の主要道路・国道136号線から少しそれた、役場などが並ぶ通りにあります。
店内は広々。一見さんでも落ち着ける雰囲気です。
店内は広々。一見さんでも落ち着ける雰囲気です。

■イカスミを混ぜた真っ黒い麺!

「河津屋食堂」は、今年で創業90年という老舗の定食屋です。案内してくれたのは、三代目の大矢次夫さん。早速、話題の麺料理を注文します!

河津屋食堂の「海賊焼」。
河津屋食堂の「海賊焼」。

その名も「海賊焼」。イカやエビといった海産物とキャベツ、玉ねぎ、にんじん、もやしが黒一色の麺と炒め合わされた西伊豆町のご当地グルメです。 灰色などではなく、完全に真っ黒です。この麺は一体何でできているのでしょうか……?

大矢さん「麺が黒いのは、イカスミが練り込まれているからなんです。それを塩ダレやイカなどの具材で焼いたものが海賊焼ですね」

海賊焼には3つの定義があります。「麺は特製のイカスミ麺を使う」「タレは特製の塩ソースを使う」、そして「具材にイカを入れる」。すべての条件を満たせば、海賊焼として認められます。

大矢さんによると「うちの海賊焼はオリジナルに近い」のだそう。それでは、味わってみましょう!

あまりにも黒い麺。
あまりにも黒い麺。

焼きたての麺を持ち上げると、イカやエビといった海の幸の香りが湯気とともにふわりと漂ってきます。麺をすすると、口の中でよりいっそう香りと共に旨みが際立ちます!

大矢さん「うちの海賊焼は、香りにこだわっています。具材を全部いっぺんに入れて炒めるのではなく、玉ねぎを少し炒めて、それからイカやエビといった海鮮を入れて…と、香りを引き出すために、炒める過程でひと手間、ふた手間かけているんですよ」

海鮮によく合う塩味も、ただしょっぱいのではありません。特製の塩ソースがコクのある味わいを生み出しています。

そして、麺を噛むと感じられる、練り込まれたイカスミ。魚介の生臭さはなく、でもしっかりと海の風味を感じられる絶妙な加減!

平打ち麺が生む独特の食感も楽しく、結構なボリュームがあるはずなのにさらりと完食。ちなみに、食べても歯は黒くなりませんでした!これなら女性も安心ですね。

あまりにも黒い麺、味が想像しにくいのですが……。
あまりにも黒い麺、味が想像しにくいのですが……。

■海賊焼の仕掛け人

大矢さん「うちは定食屋なので平日は地元のお客さんが多いんですが、土日なんかは観光やバイクのツーリングの途中に寄ってくれる人もいるんですよ」

大矢さんも語るように、観光客にジワジワと浸透している海賊焼。その仕掛け人は、とある地元の製麺所でした。河津屋食堂から歩いてすぐの場所にある「佐野製麺」です。

海賊焼をはじめ、麺の店頭販売や通販もやっています。
海賊焼をはじめ、麺の店頭販売や通販もやっています。

大正8年に創業した佐野製麺は、伊豆の特色を生かしたユニークな麺を作る製麺所。実は海賊焼の麺は、すべてここで生産されているのです。

早朝から忙しい工場。海賊焼が作られています。
早朝から忙しい工場。海賊焼が作られています。

今では西伊豆町のご当地グルメにも認定されている海賊焼。定義を作ったのも、生みの親である佐野製麺です。その誕生の秘密について、専務の加賀延明さんに話を伺います。どうして海賊焼というユニークな麺を作ったのでしょうか?

加賀さん「もともとは顧客の注文でした。真っ黒いラーメンを作りたいから黒い麺を作ってくれという話があったんです。食品で黒を出そうとしたら、材料はイカスミか竹墨。えぐみが出ると思って竹墨は避け、イカスミで作りはじめました。最初はイカスミを入れ過ぎて、生臭い麺ができたりしましたけど(笑)」

裁断される海賊焼の麺。
裁断される海賊焼の麺。

試行錯誤を経て、数ヶ月後に完成した黒い麺。すると、別の顧客から「黒い麺を使わせてほしい」というリクエストが寄せられたそうです。

加賀さん「しかし、特注品だった黒いラーメンの麺を、当時ほかの顧客に出すことはできなかった。そこで、ノウハウを応用して焼きそばの麺を開発してみたんです

その焼きそばの麺は、海賊焼と名付けられることになります。でも、どのあたりが“海賊”なのでしょうか?

加賀さん「由来は堂ヶ島で毎年7月24日に開催される『堂ヶ島火祭り』です。堂ヶ島には海賊征伐の逸話が伝わっているのですが、祭りのクライマックスに町の若い衆が海に浮かべた海賊船に火矢を打ち込んで燃やし、逸話を再現するんです。その場面で黒こげになっていく海賊船と、黒い麺がマッチしているということで海賊焼と名付けられました

そうして誕生した海賊焼を2009年に町のイベントに出してみたところ、結果は見事優勝。西伊豆町のご当地グルメとして翌年に販売を開始し、2012年には全国商工会連合会主催の「第25回 むらおこし特産品コンテスト」で最高賞を受賞。ぐっと知名度を上げました。

「海賊焼」(右)と麺に手間をかけた「海賊焼プレミアム」(上)。今では「海賊ラーメン」(左)も販売。いずれも塩ベースの特製ソースやスープが附属。
「海賊焼」(右)と麺に手間をかけた「海賊焼プレミアム」(上)。今では「海賊ラーメン」(左)も販売。いずれも塩ベースの特製ソースやスープが附属。

加賀さん「コンテストは、商品の味やパッケージデザイン、市場性など、さまざまな方向から評価されるのですが、海賊焼は味の良さを評価してくれた審査員が多かったようですね」

見た目のインパクトはもちろん、味にもこだわりのある海賊焼。確かに、河津屋食堂の海賊焼からは、イカスミの風味がしっかりと感じられました。

加賀さん「でも、イカスミを入れ過ぎると生臭くなってしまうので、添加量には気をつけています。また、コシの強い麺に仕上げるため、麺を1度ではなく2度蒸していたりもするんですよ

海賊焼だけは、一度蒸し器から上げた後に、もう一度蒸します。
海賊焼だけは、一度蒸し器から上げた後に、もう一度蒸します。

最近では「子どもが食べたがる」と、店頭で海賊焼を買い求める地元の人もいるとか。町内10店舗以上の飲食店で提供され、西伊豆町のご当地グルメとしてなじみつつあるようです。

加賀さん当初は飲食店にうちで作ったレシピを勧めていたのですが、今では店舗ごとのいろんなアレンジを楽しめるようになりました。西伊豆町に来て、食べ比べてもおもしろいと思いますよ」

河津屋食堂の「海賊あんかけ焼そば」。これも海賊焼の定義を満たすアレンジメニューなんです!
河津屋食堂の「海賊あんかけ焼そば」。これも海賊焼の定義を満たすアレンジメニューなんです!

河津屋食堂の海賊焼はテイクアウトもできるので、レジャーを楽しみながら外で食べるのもいいかも。さらに海水浴でにぎわうシーズンは、堂ヶ島の海の家でも海賊焼がメニューに並ぶそうです。これからの季節、西伊豆に行ったらぜひ味わっておきたいですね!

店舗情報

●河津屋食堂

住所:神奈川県三浦市三崎5-1-10

住所:静岡県賀茂郡西伊豆町仁科1111-1

電話:0558-52-0049

営業時間:9:00~20:00(不定休)

●佐野製麺

住所:静岡県賀茂郡西伊豆町仁科399-3

電話:0558-52-0047

営業時間:8:00~17:00(日曜休)

http://men-ya.com/

※記事中の情報・価格は取材当時のものです。

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