広島発のプロジェクトが、保育園の未来を変える!? 「新しい保育モデルを...」地元企業の野望

2019年6月13日 15:00
提供元:広島県

おひるね(午睡)の管理は目視、保護者との連絡は手書き――。今も多くの保育現場が、こういった「アナログ」な業務体制にあること、読者の皆様はご存じだったろうか。

恥ずかしながら、子供のいない筆者(28歳男)は、つい先日まで全く知らなかった。幼い子供を持つ知人から話を聞いて、初めてこうした状況を知ったのだ。その時、こう率直に感じたことを今も覚えている。

「保護者との手書き連絡って、自分が小学生の時の『れんらくちょう』とまったく同じ。20年近く、何も変わってないじゃないか...」

保育の現場は20年前と変わらない?
保育の現場は20年前と変わらない?

だが、こうした「アナログな保育現場」を変えようとしているプロジェクトがある。

全国に保育園を展開するアイグラン(本社・広島市)を代表とした複数の事業者・団体が、広島県の実証実験プロジェクト「ひろしまサンドボックス」内で進めている取り組みだ。2019年4月に本格的な活動がスタートしたもので、2年の期間をかけて計画を進める。

つまり、まだ動き始めたばかりのプロジェクトだが、その最終目標は、

「AI・IoTを効果的に取り入れた『新しい保育のモデルケース』の創出」

にあるという。要するに、アナログな慣習が残る現在の保育業界を、より効率的で働きやすい場所にしていこうという試みなのだ。

では、具体的にどうやって保育の現場を変えていくつもりなのか。2019年5月、アイグランの広報担当者を取材した。

保育士の「心理的負担」を減らしたい

アイグランがまず目を付けたのが、保育士が業務中に感じる「心理的な負担」だった。

具体的には、子供たちの睡眠中の事故を防ぐための「午睡管理」業務を、最新のIoT技術でサポートできないかと考えたのだ。実際、アイグランが現場の保育士にヒアリングすると、

「自分1人で子供を見守ることの責任に、心理的な不安というか、ストレスを抱えています」

 

といった意見が出たという。乳幼児突然死症候群(SIDS)をはじめ、最悪のケースでは死につながる事故が発生する恐れもあるだけに、その心理的負担は相当なものだろう。

なお、多くの保育園では、おひるね中の乳幼児を保育士が5分ごとにチェックし、その様子をノートやプリントに手書きで記録している。アイグランの担当者によると、1人が複数の乳幼児を見守るため、チェック間隔が少しルーズになってしまう場面もあったという。

こうした状況を受けて、今回のプロジェクトでアイグランが最初に実験導入したのが、「ルクミー午睡チェック」というシステムだ。ITベンチャーのユニファ(名古屋市)が開発したもので、園児の肌着やパジャマに専用のセンサーを取り付けて使用する。

ルクミー午睡チェックの使用イメージ
ルクミー午睡チェックの使用イメージ

このセンサーが幼児の動きを感知し、睡眠中の体の向きなどを記録。タブレットなどに入れたアプリで確認できるほか、チェックシートを紙にプリントすることも可能だ。また、幼児がうつぶせなど危険な体勢になったらアラートも鳴るため、万が一の事態を招くリスクも抑えられる。

つまり、このルクミーを導入することで、保育士の心理的負担、業務負担の両方を改善できる可能性が高いのだ。実際、アイグランが導入から数週間後に、現場の保育士に改めてヒアリングすると、

「自分だけでは不安だった部分も、ルクミーがあるとダブルチェックができて、ストレスが軽くなった」
「うつぶせになるとアラートが鳴るので、安心できる」

といった好意的な声が出た。

一方、サービスに対するいくつかの要望も出た。こうした意見は開発サイドと共有し、現場の要望に応えられるような形を検討していくという。今回のプロジェクトにはユニファも参画しているため、密に連絡を取りながら進めていくことが可能だ。

導入予定だという「キッズリー」の使用イメージ
導入予定だという「キッズリー」の使用イメージ

今後は、ルクミー以外のサービスも導入予定。例えば、園児の遅刻や休み、お迎えの到着時間といった諸連絡を、従来の電話や手書きノートから、ウェブ上で行うようにする「キッズリー」というシステム。また、幼児の検温をスマート化するサービスの導入も検討しているという。

最新技術の導入は「目的ではなく手段」

ただ、今回のプロジェクトの狙いは、ルクミーのような新しいサービスを現場に導入することにあるわけではない。

それが本当に保育士にとってプラスになっているのか、慣れない機器の導入が逆にストレスになっていないか――。こうした観点から、専門家と共に分析を重ね、一つ一つ検証していくことに重きを置いているのだ。

実際、アイグランはルクミーの導入後、一般社団法人・ヘルスマネジメント協会の産業看護師とともに、保育士へのストレスチェックを実施した。まだ詳細な結果は出ていないというが、上述したようなヒアリング結果からみると、一定の成果はありそうだ。

このように、新たなサービスやシステムの導入ではなく、その「分析・検証」を重視している理由について、アイグランの担当者は、

「AI・IoT技術を保育現場へ導入することは、目的ではなく手段ですから」

と明言する。

「どういう保育園だったら保育士が働きやすいのか、どのような働き方が業界としてベストなのかを探っていく。つまり、AI・IoT技術と現場がうまく『調和』した保育のあり方、そのパッケージというか、モデルケースを作ることが私たちの目的なのです」

将来的には、こうしたモデルケースの創出によって、潜在保育士(資格はもっているが、保育士として働いていない人。全国に80万人近くいるとされる)の現場復帰など、業界全体の人材確保につなげていく狙いもあるそうだ。

実際、今回のプロジェクトにはアイグランだけでなく、広島市のあい保育園祇園(運営・あい福祉会)も参画。その目的は、複数の保育園を運営していない小規模の事業者が、上述のルクミーなどの新しいサービスを利用する方法を探るためだ。

「やはり、小さい事業者だと、新しいサービスに投資するのは大変です。そうした保育園に導入するためには、どんな方法がベストなのか。例えば、レンタルやシェアリングのような形でやれないだろうか。そうしたことを、あい福祉会さんと一緒に考えています」

保育現場の光景が変わるかも
保育現場の光景が変わるかも

取材の終わりに担当者は、「各地域の中でも『地方』に重点を置いて、全国で事業を展開しているのはアイグランくらいでしょう」とコメント。保育園の立地や事業の大小を問わず、業界全体が活用できるモデルケースを作るという今回のプロジェクトについて、

「そういった意味では、当社にしかできない取り組みだと思っています」

と話していた。

――広島の企業が県の支援を受けて進めているプロジェクトが、将来的に日本全国の保育園の光景を変えていくかもしれない。例えば、冒頭で触れたような「れんらくちょう」でのコミュニケーションが、より現代的な形になる可能性だって十分にある。

まだプロジェクトは始まったばかり。ウェブメディアの記者としてはもちろん、将来父親として保育園を利用するかもしれない一個人としても、今後の活動に注目していきたいと思えた。

<企画編集:Jタウンネット>

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