龍が降り立ちそうな島に、「エイリアン」との遭遇... 冬の福井・越前海岸がドラマチックすぎた件
福井県はファンタジーの国だったらしい。その証拠に、こちらをご覧ください。
灰色の空の下、白い波の中、そびえる岩の山。今にも巨大な竜が降り立ちそうだ。
そこへ繋がる1本の道は勇者のためのものに違いない。
この巨大な岩は越前海岸にある「鉾島(ほこしま)」(福井市)。柱状の岩が鉾を突き立てたように並んでいることから、この名がついたそうだ。
越前海岸とは、北は東尋坊、南は敦賀(つるが)の杉津にかけての海岸線のことをいう。日本海の荒々しい波に削られたその岸には、奇岩断崖が続く。大自然が作り出した、不思議な光景だ。
そしてこの海岸沿いには、思わずため息が漏れるような見事な景色がまだまだある。
Jタウンネットでは今回、そんな「冬の越前海岸の絶景」を巡ってみた。
日本じゃないみたいな絶景
「冬の日本海」――ドラマチックで、何かが始まりそうな響きである。「冬の太平洋」「冬の瀬戸内海」ではこのえも言われぬ詩情は感じられまい(と、瀬戸内海の地方都市で生まれ、南関東に住む筆者は思った)。
越前海岸を訪れた2023年1月某日、空は灰色の雲に覆われていた。普段の取材なら「残念だな」と思うところだが、これはこれで"日本海っぽい"。2時間ドラマの登場人物になった気持ちで海岸線を行くとしよう。
スタート地点は、冒頭で紹介した鉾島だ。
この巨大な岩は、上まで登れるようになっている。階段はあるものの、感覚としては岩を上っている感じでスリリング。頂上から下を見下ろして、驚いた。
松の木の隙間から覗いていたのは、「冬の日本海」のイメージの中に全くなかった、エメラルドのような明るいブルー。ぜひ、皆さんも自分の目で見てほしい色だ。
鉾島は見上げて圧巻だったが、越前海岸には「見渡して圧巻」なスポットもある。
海の中から岸に向かって、打ち寄せる波のような形をした岩々が並ぶこの場所は「弁慶の洗濯岩」。
その名の通り、武蔵坊弁慶とその主である源義経にまつわる伝説が残っている。義経が兄・源頼朝から逃げる途中、一行はこの洗濯板のような岩で洗濯を行い、休憩したというのだ。
海から押し寄せてくる波が、岩にあたって飛沫をあげる。義経はここで何を考えたのだろう。ちょっとしんみりしてしまった。
ところで、鉾島から弁慶の洗濯岩の少し手前で、こんな気になる「岩」も見つけた。
この岩は、かつてこの地域が大干害に見舞われた際、田んぼに水を張ってくれた神様の足跡だと言われているらしい。弁慶の洗濯岩に車を止めて、歩いて見に行くのがおすすめだ。
天国って、こういう匂いかもしれない
「越前海岸って......岩しか見るものないの?」
もしかしたら、読者の皆さんはいま、そう思っているかもしれない。もちろん、そんなことはない。
冬の越前海岸は「花ざかり」でもある。
海とは反対側、山のあるほうに目を向ければ、白い可憐な花が沢山咲いているのが見て取れる。福井の「県の花」である水仙だ。
越前海岸は「日本水仙三大群生地」のひとつ。約6キロにわたって広がる水仙畑は国の「重要文化的景観」にも選ばれている。
例年、11月末ごろから咲き始め、例年12月~2月ごろまでが見ごろ。2022~23年シーズンはいつもより10日~2週間ほど早く開花が進んだ。
もし時期を逃しても、「越前水仙発祥伝説」が残る越廼(こしの)地区の「越前水仙の里公園」に行けば、いつでもその姿を見ることができる。
水仙の栽培や展示を行っている「水仙ドーム」に一歩足を踏み入れた瞬間、日本海の潮の匂いが一気に消える。代わりに広がるのは、甘く華やかな香りだ。まるで花の中に入り込んでしまったかのようで、「天国ってこういう匂いなのかもしれない」と妄想が広がった。
越前海岸には水仙を鑑賞できるスポットが複数あるが、次に筆者が向かったのは「越前岬水仙ランド」。斜面にはたくさんの水仙が咲いているだけでなく、真っ白な灯台やギリシア神話風の建物があって、非常に不思議な、ちょっとした別世界感のある光景も楽しめる。お花が好きな人や、変わった風景が見たい人はぜひ訪れてほしい。
銀河の中に飛び込んだみたい...
越前岬水仙ランドの不思議な建物を横目に曲がりくねった坂道を進んでいくと、越前岬展望台がある。
空へ伸びていくような高台の展望台からは、海岸線の風景が一望出来て、とてもさわやか。
しかし今回皆さんにお見せしたいのは、この場所の「夜」の風景だ。
実は筆者は前日の夜に福井にたどり着き、海岸巡りに先立って一度この展望台に訪れていた。
空にはうっすらと雲がかかっていたが、それでもこの星の数。まさに満点の星空だ。
実は、筆者が「冬の越前海岸」を訪れたのは、この場所からの星空を見たかったからでもある。
そう思ったのは、福井市自然史博物館の学芸員(天文担当)で、星の写真家である加藤英行さんが撮影したこの写真がきっかけだった。
素朴なつくりの展望台と、無数の星たち。なんだか、別の星に作った基地から撮影した写真のように思えたのだ。
こんな景色が見てみたい。あわよくば写真も撮ってみたい。
そう考えた筆者が加藤さんに連絡すると、なんと基本的な「星の撮り方」を教えてもらえることに。
一眼レフカメラの基礎の基礎しかわからない筆者に、とても丁寧に説明してくれた。
星空を撮影するために必要なのは、カメラとレンズ、そして三脚。当然周囲は暗いので、足元や手元を照らすライトも持っていないと危ない。
風景を撮影するときとは逆向き(ハンドルがレンズのほうに向いている形)で三脚にセットすると、ハンドルが三脚本体にぶつからず、真上の星も撮影できる。
カメラ本体側では、「手振れ補正」「オートフォーカス」をオフに。そして、シャッターを押す際にカメラが揺れるとぶれてしまうので、セルフタイマー機能(2秒)をオンにしておく。セルフタイマーなら、遠隔でシャッターを押す「レリーズ」という機材を持っていなくても、撮影できるのだ。
撮影のモードはマニュアル。ISOやシャッタースピード、ホワイトバランスなんかの設定はカメラやレンズによっても違いが出てくるし、撮影者がどんな写真を撮りたいかにもよるので、とにかく撮ってみながら、設定を調整していくのがよさそうだ。
なお、Canon EOS 90DとSIGMA 18-300mmを使った筆者は、ISO4000、シャッタースピード10秒、ホワイトバランスは4000Kで挑戦した。
そんな作業を経て、星がハッキリ映るようにピントを合わせたら、いざ撮影。その結果が展望台の下から見た星空だ。
加藤さんの写真と比べられると困ってしまうが、星空撮影初心者の1枚にしては、きれいに映ったのではないかと思っている。だって、教えてもらう前はコレだったし......。
越前の夜空は、ここ数年で筆者が見た中で最も美しい星空だった。銀河の中に浸っているような感覚を味わたい人は、ぜひ訪れてみてほしい。
ある意味SF的な「異世界感」
さて、冬の越前海岸で忘れてはいけないものがある。もちろん、カニだ。
生きている越前がにを間近で見たのは初めてだったのだが、思いのほか小刻みに動いていることが分かった。侵略してきたエイリアンっぽさが凄い。
この水槽があるのは、「越前がにミュージアム」。生きた越前がにたちを観察できるだけでなく、カニの生態を学び、カニ漁シミュレーターで漁を体験し、巨大ジオラマで再現されたカニたちの一生を鑑賞し、床に浮かんだカニの影を踏んづける謎の遊びを楽しみ、トリックアートでカニに襲われることができる、かなり越前がにに特化した博物館だ。巨大なカニのオブジェもある。
さて......こんなに越前がにを見たら、当然お腹が減るわけだが、越前がにミュージアムなら何の心配もいらない。ミュージアムのすぐ隣にあるマーケット棟「越前うおいち」や、正面にある道の駅内の「お食事処かねいち」で食事ができる。
11月のカニ解禁~3月下旬ごろまでのシーズンならもちろん越前がにを食べられるので、お見逃しなく。
というわけで、以上が筆者の出会った「冬の越前海岸の絶景」の数々である。
いろんな"世界観"を一度に味わいたいなら、かなりいい旅行先ではなかろうか。だって、海岸沿いに車を走らせるだけで、ファンタジーにギャラクシー、天国に海中、そしてエイリアンに遭遇した気分まで、味わえるのだから......。
<企画編集・Jタウンネット>
参考:筆者が辿った道筋