竪穴住居に入り、火焔型土器で作った鍋を。 笹山遺跡で体験できる「縄文鍋」がロマンしかない
日本列島に、最強寒波がやって来ているそうだ。
そんな冬の夜は、やはり鍋が一番だ。いま安いと言われている野菜類を豚肉とか鶏肉と一緒に煮込む。鮭やタラなど旬の魚肉があると嬉しいが、そこまで贅沢は言わない。キノコ類もいいなぁ。要は、その日、スーパーで売られていた食材をどんどん鍋にぶち込もう。
しかし、鍋というものはなぜこんなに旨いのだろう? ひょっとしたら、日本人のDNAの中には、鍋好きの遺伝子が埋め込まれているのではないか。つくづくそう感じる、今日このごろ。 そんな中、2023年1月12日に投稿されたこんなツイートを見かけた。
「縄文鍋は火焔型土器で作られる。 実際その火にくべられた火焔型土器の様子を見れただけでお腹いっぱいになれる」
つぶやきに添えられていたのは、次の写真だった。
火焔型土器といえば、日本各地で出土している縄文時代中期の土器である。まるで燃え盛る炎を模したかのような、ダイナミックなデザインの形状の土器だ。付着物などから煮炊きに用いられたと考えられている。日本人の鍋好きは、ひょっとしたら縄文時代から......?
そんな妄想はさておき、ツイートの投稿者は火焔型土器で「縄文鍋」を作って食べたのだという。
縄文鍋とは、いったいなんぞや。火焔型土器で作ると、ただの鍋と何が違うのか?
Jタウンネット記者は、投稿者「縄文ZINE 」(@jomonzine)さんに、詳しい話を聞いた。
少し燻されたような香ばしい香りと味
投稿者「縄文ZINE」さんは、1月8~9日に行われたとあるツアーの中に、新潟県十日町市の笹山遺跡の竪穴住居で「縄文鍋」を体験したのだという。
「醤油ベースの鍋で、シャケ鍋です。野菜やキノコ、さつまいもも入っていました」と、「縄文ZINE」さん。
「学芸員さんによれば同じ食材で同じ調理法で普通の鍋で作るのと、火焔型土器の鍋で作るのでは味が変わるとのことです。色々話した結論としては、火焔型土器は鍋の把手が内側に湾曲しているので、それに沿って煙が巻き込むように鍋の中で循環するのが作用しているのでは、とのことでした。
味は確かに少し燻されたような香ばしい香りと味がして、かなりおいしかったです」(「縄文ZINE 」さん)
「縄文ZINE」さんが参加したのは「十日町市雪国体験ツアー」(クラブツーリズム主催)。「学芸員さん」というのは、国宝「火焔型土器」を展示する「十日町市博物館」の学芸員のことだ。Jタウンネット記者は、十日町市教育委員会にも取材した。
「火焔型土器で縄文鍋を作る」という企画はどんなきっかけで始まったのか? 十日町市教育委員会の担当者は、次のように説明する。
「もとは国宝・火焔型土器が出土した笹山遺跡で活動するボランティアと一緒にウチウチで行っていたものでしたが、ワークショップを開催した際にお客さんに無料でふるまったりしているうち、結構喜んでもらえることがわかったので、ツアー商品化して提供するようになりました」(十日町市教育委員会担当者)
なんと、ウチウチで行っていたものが、ツアー商品化にまで発展したというわけだ。「縄文文化を生々しく体感することで、好奇心を満たしていただくことが、狙いです。やってみたい! という方がいる限り続けていきたいと思います」と、担当者は胸を張る。
こびりついたオコゲの分析結果から...
ところで具体的な調理法は? 記者の問いに、担当者はこう答えた。
「具材のほとんどは縄文時代の遺跡から出土するものを参考にしています。植物は野生か栽培かの違いがありますが、種としては同じです」
「火焔型土器は、出土した土器にこびりついたオコゲの分析によって遡上性の魚類が煮炊きされたことがわかっているので、秋に提供する際はサケを入れます。夏はコイを入れます。
なお現代人の私たちには、縄文の食には、甘みがちょっと足りない感じがします。そこでこの鍋には当時なかったことが分かっているものを入れることがあります(サツマイモ、ダイコン)」
「周囲に薪を寄せるのは、土器についた煤の範囲などから、そのように使ったことが分かっているからです」(十日町市教育委員会担当者)
食材は、衛生管理された調理施設で切って、一次加熱(食品衛生法により竪穴住居で生ものを調理できないため)しておくそうだ。竪穴住居内の炉に薪・火を入れ、ある程度オキができたら、火焔型土器を置いて、周囲に薪を寄せて再加熱するという。
調理に使用する火焔型土器は、縄文人と同じような方法で製作した復元品(レプリカ)。製作者は群馬県在住とのこと。
なお、十日町市観光協会とクラブツーリズムは、この2月から3月にかけて、火焔型土器鍋を体験するツアーを開催予定らしい。
十日町市教育委員会担当者は、「多くの方にお越しいただけたら嬉しいです」とコメントした。
日本人の鍋好きの原点を探ることにもつながりそうな「火焔型土器で作る縄文鍋」、ぜひ体験してみたくなったのは、Jタウンネット記者だけではないだろう。