こんなトコまで「めがね」かよ! 顔ハメにマンホール、そしてフェス...「鯖江めがね」の故郷の「めがね愛」が凄すぎた
みなさん、めがねに感謝してますか?
視力を矯正してくれるだけでなく、ファッションアイテムとしても有能。サラッとかけるだけで、ガラッと印象が変わる。いろんなデザインのものをTPOによって使い分けている人もいるだろう。
2022年10月1日――366ある日付の中で形(10-01)が最もめがねっぽい「メガネの日」、そんなめがねに「ありがとう」を伝えるイベントが開催された。
会場は、沢山のめがねたちの「故郷」である福井県鯖江市。福井県は国内生産シェア率95%以上を誇る日本有数のめがねの生産地であり、その大半が鯖江で作られているのだ。
この街で一体、なにが行われたのか。めがねユーザーであるJタウンネット記者がめがね越しに見たその光景を皆さんにもお伝えする。
ぜひブルーライトカットめがねをかけて、ご覧いただきたい。めがねだらけのメガネストリート
鯖江駅に降り立った瞬間、記者を待ち受けていたのは「めがね」だった。駅のホームから見える柵にめがねのモチーフ、跨線橋の壁にはめがねの写真、待合室のガラス壁にはめがねのイラスト、改札上にはめがねの看板。
そして駅舎から一歩外へ足を踏み出すと、今度は赤いめがねのオブジェがお出迎え。
鯖江駅の改札は駅舎の西側にある。その北西にある本町商店街や、さらに先の西山公園にも、めがねスポットが。
鯖江という街には、この他にもいたるところにめがねをモチーフにした何かが存在している。
それが特に集合しているのが、「メガネストリート」と名付けられた鯖江駅前から続く2本の道だ。
まずは駅から出て南に向かって歩いてみよう。こちら側の「メガネストリート」はイベントホール「サンドーム福井」まで続く。
その道中にあるのは、めがねだらけの「ケータリングパーク」。
それに、巨大な「めがねリング」、道路には視力検査で使われる「ランドルト環」型の反射板、などなど......。
記念撮影の定番「顔出し看板」だって、勿論めがねだった。
もう片方のメガネストリートは、駅の地下道をくぐり抜けて東へ真っすぐ。
その地下道の床でも、めがねのプロジェクションライトがくるくる。階段にはめがねの彫刻が施されていた。
地上に出るとすぐある車止めはめがねをかけているし、真横の駐車場もめがねに囲まれている。
路上に並ぶベンチもめがねだし......。
ふと足元を見ると、街路樹のまわりにもめがね。「ポイ捨て禁止」を呼びかけるパネルも制水弁もめがね。どこを向いてもめがねが視界に入ってくる。
あまりにもめがねをたくさん見すぎてだんだん目がおかしくなってきた。もはや丸が二つ並んでいれば全部めがねに見える。
......そう思いながら眺めていたマンホールも、よく見るとブリッジがついていた。めがねだった。
めがねを供養してもらって、フェスをスタート!
そんなめがねだらけの「メガネストリート」の終点は、「めがねミュージアム」だ。10月1日に行われた「めがねに感謝を伝えるイベント」の会場が、ここである。
「めがねよ、ありがとう」――その言葉を合言葉に全国からめがね好きが集まるめがねの感謝祭「めがねフェス」。10月1日から2日間かけて行われるこの催しの開幕の瞬間に、記者は立ち会った。
午前10時00分。会場内の「供養塔」の前で最初のプログラムが厳かに始まる。
皆さんは顔の一部ともいわれる「めがね」の処分に困ったこと、ないだろうか?
特に視力が低い人にとっては、めがねは生活を共にしてきた相棒。「コイツがいなきゃ、何にもできないよ......」という存在である。いくらもう使わないからといって、ゴミとして捨てにくいと感じる場合もあるだろう。
めがねフェスは、そんなめがねたちに感謝とお別れを伝える「めがね供養」から始まる。神主さんにめがねを供養してもらえるのだ。
神主さんの両脇には、手放された沢山のめがねたちが吊るされている。ここに飾られていないものも含めて、今年は8000本ほどのめがねが全国から集まったそう。コロナ禍の影響で3年ぶりの開催となったため、例年の2500本前後という数より、かなり多めだ。
記者も社内のめがねユーザーたちから役目を終えためがねを預かり、代表してお別れを言ってきた。
神主さんにしっかりと供養されたあと、まだ利用できるフレームは発展途上国へと送られるとのこと。
次の人へと繋げてもらえるのであれば、ただ捨てるのとは違ってお世話になっためがねと気持ちよくお別れができる。
まさに「めがねよ、ありがとう」をテーマとしたこのイベントにふさわしい幕開けだ。
供養の後は改めて開会式が行われ、いよいよ本格的にめがねフェスがスタート。エリア内を回ってみよう。
めがねで遊べるの!?
当然のことながら、「めがねフェス」はどこもかしこもとにかくめがね尽くし。しかも、普段はできない「めがねの使い方」ができる。
まず目についたのは、めがねでスーパーボールをすくう「めがねすくい」。いらなくなった古いめがねをポイにしているのだ!
他にも「めがねたまいれ」や「めがねわなげ」といっためがね縛りの縁日コーナーや、「めがねピンポン」「めがねバスケットゴール」といっためがね遊具なんかも並んでいた。
そして、めがねを使って楽しそうに遊ぶ子どもたち......見たことない光景である。
シュールな光景にワクワク気分が高まってきた記者。そんな時に発見したのが、「メガネリンピック」の競技の内の1つ、「めが盛り」だ。
1分間にどれだけたくさんのめがねをかけられるかを競うらしい。何だその謎競技......。
1回100円、せっかくなので参加してみた。
用意された様々な形、サイズのめがねをどんどんかけていくのだが、これがなかなか難しい。四苦八苦している内に、すぐ1分が経ってしまった。
かけ終えたあとは、そのままめがねを落とさないように5秒間キープ。その後は「めがねに『ありがとう』と声をかけ、たたみながらかぞえる」のがルールだ。
結果は、12個。対戦してくれたスタッフのお姉さんは、なんと18個。めが盛りに挑戦したのは2回目とのことだったが、結構な大差で敗北してしまった。
驚くべきことに、現在の「世界記録」は37個で、今回記者がかけられた数の3倍以上。どうやって......?
どうにかコツを掴んで、ぜひリベンジをしに来たい。
貴重な体験もできちゃう
もちろん、めがねを使って愉快に遊ぶことだけがめがねフェスではない。
たとえば、公益社団法人「日本眼鏡技術者協会」が設けていたのは、2022年に誕生しためがね業界初の国家資格「眼鏡作成技能士」のPRブース。
ここでは、同資格所持者が持つ技術のひとつである「めがねのフィッティング」を体験することができた。
フィッティングとはちょうどいいかけ心地になるようにめがねのテンプルや鼻あてなどを調節していく作業。誰がめがねをかけるかによって「耳の高さ」「奥行き」「顔の横幅」はもちろん違うし、めがね自体も1つ1つ異なる構造や素材でできていて、使われている部品も様々。
めがね屋さんに行けば当たり前のように「ピッタリ」に調整してもらえるが、実はそれは相当な知識と経験、技術を持ったスペシャリストだからこそできる作業なのだと体験を通して学ぶことができる。
めがねにまつわる複数のメーカーや企業がブースを出していて、そのめがね製造技術を活用したこんなユニークな商品も販売されていた。
めがねのフィッティングに関わるパーツを製造販売する「ササマタ」(鯖江市)が制作しためがねのようにかけられるマスク「ZiBi」。紐のかわりにテンプルがついている。
ピアスやイヤリングといったアクセサリーやイヤホンをつけているときも邪魔にならず、めがねとも一緒にかけられる。めがねフェス内でこのマスクを着用しているめがねユーザーの姿もちらほら見かけた。テンプルもナイロンとチタンから選べて、本当にめがねみたいだ。
実用的なグッズだけではなく、めがね好きなら欲しくなっちゃうかわいいグッズもたくさんあった。
そしてさすがはめがねフェス。
空腹を満たしてくれる「グルメ」もしっかりめがねをかけている。
めがねの作り手にも会える?
フェスというからには、ステージのことも忘れちゃいけない。
会場内にある「めがねステージ」では、めがねミュージシャンやめがねアイドルらによるスペシャルライブをはじめ、FM福井の公開生放送や全国から募集した「めがねよ、ありがとう作文」の表彰式など幅広い演目が盛り上がりを見せていた。
また、最新のめがねや珍しい限定めがねに出会える「ポップアップギャラリー」も盛況。
ここでは、職人やデザイナーといっためがねの作り手と直接会話をすることもできる。お気に入りのめがねの感想を伝えたり、「こんなめがねが欲しい」なんて要望を伝えたりすることもできるという。
来場者の皆さんはそれぞれのお店の前で実際にめがねをかけてアドバイスをもらうなど、作り手との交流を楽しんでいる様子だった。
鯖江のめがねの歴史を知ろう
何から何までめがねだらけで、めがね愛に溢れた「めがねフェス」を堪能した記者。
なぜ鯖江はこんなにもめがねを愛しているのか。それはこの街が、めがねと共に発展してきたからだ。
フェス会場となった「めがねミュージアム」内にある「めがね博物館」では、その歴史を知ることができる。
めがねが宣教師フランシスコ・ザビエルによって日本にもたらされたのは1551年。その後、貞享・元禄時代(1684~1704年)に国内でのめがね生産が始まったという。しかし、このときめがねが作られていたのは京都や大阪、江戸だった。
それが福井県内で行われるようになったのは、活字文化が広まり、めがねの需要が拡大しつつあった1905(明治38)年のこと。鯖江市に隣接する福井市生野町(当時は足羽郡麻生津村生野)の豪農・増永五左衛門が、雪深い故郷で暮らす人々の生活の糧となるものとして、めがね枠生産に目をつけたのだ。
大阪や東京から職人を呼び寄せてめがねづくりの技術を学ぶと、人々は素早くそれを習得し、この地域における眼鏡枠づくりの技術はどんどん向上していったのだという。
小さな村で農家の副業として始まっためがね枠作りは福井・鯖江に広がり、次第に「まち全体がひとつの大きな工場」といえるような、パーツごとに専門の製造者が分業を行うスタイルに。
戦争の影響で一時は福井のめがね工場が軍需工場となったが、終戦後は戦火を逃れた鯖江を中心に量産体制が整えられ、1970年にはめがねフレームの国内生産シェア8割に到達。
こうして鯖江は「めがねのまち」になったのだ。
3000本のめがねが並ぶショップもある
そんな歴史を持つ福井県産めがねを、めがねミュージアムでは買うこともできる。
館内のめがねショップには50社150ブランドの約3000本の福井県産のめがねが常に並んでいる。
これほど多くの国産めがねが揃っているショップは珍しいそう。
店員さんによると、福井県産めがねの特徴は「かけ心地のよさ」。
素材にこだわり、そして製作の最終段階の調整は今でも人の手で行っているため、実用性が高く、長く使えるものが多いのだそう。
記者も何本か試着させてもらったのだが、あまりのかけ心地のよさにビックリ。まるでつけていないみたいで、まさに「顔の一部」という表現がぴったりな馴染み具合だった。
だからこそ、これだけ豊富な種類の中から自分の顔になる1本を選ぶのはなかなか大変そう。利用者の中にはめがねデビューという人も多く、長時間悩む人も多いとか。
しかし、ここでなら「似合うめがねが絶対に見つかります」と、店員さんから非常に心強いコメントが。スタッフさんにお願いすれば似合いそうなめがねを探してもらうこともできるという。
あれもこれもよくて悩んじゃうかもしれないが、きっとお気に入りの、ベストな1本を見つけることができるはずだ。ちなみに、定番のデザインは常時あり、それに加えて順次各ブランドから新作も出てくるため、来る度に新しい出会いがありそう。新作が一番多いのは1月頃だという。
ミュージアムでは既製品を買うだけでなく、「自分だけのめがね」を手作りすることも可能だ。2階にある「体験工房」で実施される「めがね手作り教室」(公式サイトからの完全予約制)では100種類近くあるデザインから好きなフレームの形を選ぶことができ(追加料金で図面持ち込みも可)、めがねの正面の「フロント」と横の「テンプル」をどんな色や模様にするのかも約500種類のフレーム素材(アセテート)の中から自分で決められる。
素材を選んだら型紙に合わせて糸のこで切削し、やすりで形を整える。本場のめがね職人がそばにいるので、ポイントを聞きながら進められるのも嬉しい。
フレームの厚みなど、自分だけのこだわりを詰め込みつつ、仕上げは職人さんにお任せするので、出来上がりに期待が募る。
切削はなかなかの体力勝負で、通常コースは10時から17時(昼休憩1時間含む)と1日がかり(15時までの時短コースの場合はフロント部分の切削のみで、テンプルは職人さんにおまかせ)。だが、世界で1本しかない自分だけのオリジナルめがねを作るともなれば、デザインも切削も妥協はできない......。
めがねを愛する人、めがねのデザインにこだわりたいという人にはたまらない貴重な体験教室だ。
見るもよし、買うもよし、作ることも学ぶこともできる。鯖江は、まさに眼鏡好きの「聖地」だ。
日頃からめがねにお世話になっている人もこれからお世話になるかもしれない人も、一度「めがねのまち さばえ」に行ってみてほしい。
きっとあなたの「めがね観」はグッと深まるだろう。
<企画編集・Jタウンネット>