「初めて着物で出掛けた日、裾を踏んで着崩れた。直せずにいると通りすがりのおばあさんが『今の若い人は...』」(長野県・50代女性)
「私たちの若い頃は...」
当時は何を踏んだかもわからず、父に「なんか踏んじゃった」と言ったのを覚えています。
階段を登り切った通路で他の人がいなくなるのを待って、着物を見てもらうことに。
父は裾から襦袢が出ていることは分かったのですが、直そうにも直せません。そんな私たちに、最後に階段を上がってきた野菜をたくさん背負った行商人のおばあさんが声をかけてきました。
途方に暮れていた父は、彼女に相談することにしました。
「子供が襦袢の裾を踏んでしまい困っている。帯を解いても着せることが出来ないからどうしたら良いか」
するとおばあさんは荷物を下ろして、私の帯を解かずに襦袢を直してくれました。
「私たちの若い頃は、ほとんど着物だったからくずれた時も自分で直したからね。今の人たちは着ることがあまり無いから、わからなくてもしょうが無いわよ。しっかり直したから大丈夫よ」
そう言ってくれたおばあさんに父は何度もお礼を伝え、「お返しとは言えないけどおばあさんの野菜を買いたい」と申し出ました。ですがおばあさんは、
「子供の着物なんて久しぶりに触れたから、それで十分よ」
と言って、乗り換えの電車が来るからと去って行ってしまったそうです。
私は、襦袢を踏んだこと、おばあさんに直してもらったことしか覚えておらず、晩年の父から、おばあさんとのやり取りを聞きました。
30年以上前の事ですが、今思い出しても本当にありがたかったです。
誰かに伝えたい「あの時はありがとう」、聞かせて!
名前も知らない、どこにいるかもわからない......。そんな、あの時自分を助けてくれた・親切にしてくれた人に伝えたい「ありがとう」を心の中に秘めている、という人もいるだろう。
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