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タイトルは「永遠の友情」 西郷隆盛と大久保利通の「ズッ友」な像が話題→込められた思いを聞いた

松葉 純一

松葉 純一

2021.12.31 18:00
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「永遠の友情」西郷・大久保像 出水麓歴史館 吉野弘一作
「永遠の友情」西郷・大久保像 出水麓歴史館 吉野弘一作

西郷隆盛と大久保利通が並んだ像が、いまツイッター上で話題になっている。

よく見ると、「永遠の友情」というタイトルが付けられているようだ。二人は明治維新に貢献した代表的人物で、共に薩摩藩出身、幼少期からの友人だったと言われているが、二人の肖像画や立像は、なぜかあまり見たことがない。大変珍しい構図と言える。

ツイッターにはこんな声が寄せられている。

「この後仲違いするんだよね......」
「けど結局西郷どんは大久保の軍(?)に倒されちゃうし、大久保は暗殺(?)されちゃうし、切ねえなぁ」
「まこと儚き永遠の友情」
「2人とも真顔で視線が合わないのが、なんとも味わい深い」
「崩れやすそう...」
「『シラス(火山灰)で出来ています。触れないでください』この一文から史実への皮肉を感じてしまった」

なんとも皮肉な感想が多いのが、現実のようだ。ところで「永遠の友情」と名付けられたこの像は、いったいどこに、何を目的として存在しているのだろうか?

鹿児島県北西部に位置する出水市に、この像があると知ったJタウンネット記者は、出水市観光交流課に取材した。

崩れやすいのは、シラス(火山灰)製だから

「永遠の友情」西郷・大久保像 出水麓歴史館 吉野弘一作
「永遠の友情」西郷・大久保像 出水麓歴史館 吉野弘一作

出水市は、ツルの渡来地として知られる人口約5万人の小さな町だ。九州新幹線の停車駅・出水駅もあり、観光に力を入れているらしい。冒頭に紹介した「西郷・大久保像」は、出水駅から車で5分ほどのところにある「出水市麓歴史館」に設置されている。

出水市観光交流課の担当者は、「西郷・大久保像」設立のきっかけについて、こう説明した。

「2018年、明治維新150周年や大河ドラマ『西郷どん』で、鹿児島県全体が注目を浴びる年ということで、出水市でも何かできないか、と始めたのが『明治維新シラス像パーク』です。西郷・大久保像を含めて全部で8箇所10体のシラス像を設置しました」(出水市観光交流課担当者)
天璋院篤姫 中井勝郎美術・古文書館(旧二階堂邸) 吉野弘一作
天璋院篤姫 中井勝郎美術・古文書館(旧二階堂邸) 吉野弘一作

では、西郷・大久保の「永遠の友情」像の狙いは、何だったのか? 担当者に尋ねると、次のように答えた。

「企画の狙いは『永遠の友情』です。企画が始まる段階でいっぺんにすべての像を制作するのではなく、『西郷どん』放送期間中に徐々に増やしていきました。出水麓歴史館のシラス像はイベント開始時2017年12月に西郷隆盛像を作成し、イベント最後の砂像として2018年9月に大久保像を作成しました」
「ドラマの序盤では西郷隆盛と大久保利通の仲は良いのですが、ストーリーが進むにつれて、二人の進む方向に齟齬が生じ、後半は『仲違いした』とのイメージになっています。しかしながら、盟友とされる二人の最後がそのイメージでは悲しいということで『永遠の友情』像の作成に繋がりました」

この像は、シラス(火山灰)で作られている。火山地帯である鹿児島をイメージさせる材料として用いたと言うが、非常に崩れやすい性質を持っているそうだ。

そのため、設置されたすべてのシラス像には、破損防止のために「絶対に触れないでください」と注意書きがされている。決して西郷と大久保の友情が崩れやすいから、という意味ではない。

そんな物理的に崩れやすいという「永遠の友情」像だが......なんとも力強い作品だ。いったいどなたが創ったのか? と聞いてみた。

「作者は、出水市内に住む吉野弘一さんという方です。鹿児島には、吹上浜砂の祭典という大規模な砂像のイベントがあります。吉野さんは第1回大会の優勝者です。また、国外でも数々の賞を受賞されるなど、世界的サンドアーティストの第1人者です。これ以外にも出水市ではいずみマチ・テラスという竹灯籠のイベントがありますが、こちらでもさまざまな作品を生み出されています」(出水市観光交流課担当者)

そこでJタウンネット記者は、吉野さんにも電話で話を聞いてみることに......。

奥二重の西郷さん、面長の大久保さん

世界的サンドアーティストの吉野弘一さんは、出水市内で店舗デザインや看板製作業を営みながら、立体造形物を手がけてきたそうで「ツルのモニュメントはずいぶん作りましたよ。最近はツルのデコイを頼まれることが多く、全国のツルの飛来地に送っています」と語る。

「砂の像の作品は、30年以上も前から作っています。香港の国際コンテストや、バンクーバーの展示会で準優勝したこともあります。
砂ではなく、シラス(火山灰)で作ってみんかと言われて、やってみたところ、シラスは砂と違って、水の吸い込みが緩やかで、固まるのに時間と手間がかかりました。シラスには相当不純物が含まれているからですかね」(吉野弘一さん)

「永遠の友情」で西郷・大久保像を制作するにあたっては、自分なりに調べてみたという。

「西郷さんが生前描かれた肖像画を見る機会がありましたが、目に特徴がありますね。奥二重の彫りの深い顔をされていました。その辺りを表現したつもりです。大久保さんはかなり面長だったようです。髭をたくわえておられたのは、欧米人と交渉されるにあたって、必要だったのでしょうか。とても責任感の強い、優秀な方だったと思います」
「大久保さんが暗殺されたとき、懐には西郷さんからの手紙を忍ばせていた、という逸話も残されています。政治的な役割の中で敵味方に別れたとはいえ、西郷さんとの友情はとても大事にされていたと思います。『永遠の友情』というタイトルは私の素直な気持です」(吉野弘一さん)
小松帯刀(竹添邸) 吉野弘一作
小松帯刀(竹添邸) 吉野弘一作

ところでシラス(火山灰)で作った像は、やはり崩れやすいのか? と聞いてみた。

「同じ出水市内の別の場所に、坂本龍馬とおりょうの像が設置されているのですが、あるとき猫が飛び乗って、おりょうさんの首がとれかかったと聞いています。ポリエステルなどでコーティングしているのですが、何か工夫が必要かもしれませんね」(吉野弘一さん)

猫に「永遠の友情」を崩される前に、出水市を訪れ、吉野さんの作品を巡りながら、じっくり散策してみるのはいかがだろう。明治維新前後の薩摩を、深く理解できるかもしれない。

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