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ウニを愛しすぎて「ウニのカシパン祭り」を開催した飼育員は語る 「時代がやっとウニに追いついた」

大久保 歩

大久保 歩

2021.12.06 08:00
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「好きなことを仕事にするのは正しいか」。

記者が就活生だった頃、インターネットの一部の界隈では日々、この論争がくり広げられていた。好きなことだからこそ努力できるし結果にも繋がる。いや、好きなことを仕事にすると好きでなくなってしまう......。

前者を支持していた記者は、当時から好きだった「書くこと」を仕事にして今に至るわけだが――「好きなことを仕事にするのは正しいか」。この問いに明確な答えは出せないでいた。

そんなある日のことだ。「それ」に出会ったのは......。

今、ツイッターで話題の、静岡県沼津市の水族館「あわしまマリンパーク」にある「ウニ」の展示である。飼育員の狂気的なまでの愛を感じるともっぱらの評判だ。

まず目に入るのは、ウニの水槽の真上に太字で書かれた「深海のウニを愛でる」の文字。

他にも、ウニが展示されているスペースには、解説とともに数々のパワーワードが並ぶポスターが貼られている。

たとえば、こんなふうに。

狂気的なまでの愛
死んだウニが好き。ってなかなか言えない。
私の好きな物は『ウニ』です。(中略)水族館スタッフとしてはそれどうなの?と言われそうなのですが私が好きなのは『ウニの骨格』です。生きてるやつじゃない方、死んでるやつです。
自分の好きな物を会社を巻き込んで、皆さんに推す。ウニのカシパン祭りを開催します!」

中には、「スマホの代わりにウニを見るという提案。」「#イッヌ #ネッコ #ウッニ」など、もはや何を伝えたいのかいまいち掴めないものも。

犬、猫に並んでウニ...?

とにかく、ウニへの狂おしいまでの愛はひしひしと感じる。死んだウニが好きだという「私」はいったい、何者なのか。

2021年12月1日、Jタウンネット記者はあわしまマリンパークを取材した。

「ウニコンサルタント」のお仕事

取材に応じたのは、同館の飼育課魚類主任兼、営業企画課係長の小西香代子さんだ。館内の「ウニ」にまつわる解説板やポスターはすべて彼女が作成しており、「ウニコンサルタント」を名乗っている。

コンサルタントとしての仕事内容は、展示物の制作やウニの飼育の他、「ウニの壮大な魅力を個人的な見解たっぷりにお伝えします」とのこと。

初めて見るウニたちが解説されている

話題になったポスター群は、今年3月27日~4月25日に行った展示「アワシマ『ウニのカシパン祭り』~得点シールを集めてウニの絵柄が書かれたお皿をプレゼント~」のときから、館内の2階にある「ふれあい水槽」奥のブースに展示されているものだ。

小西さんは3~4年前から同館で「一人ウニ化計画」を進めてきた。ウニの展示場所を少しずつ増やしてきたのだという。最初は小西さん1人でひっそりと始めた活動だったが、今では多くの職員が協力してくれているそうだ。

「魚類スタッフは私を含め4人ですが、他のスタッフもウニ情報を見れば即知らせてくれますし、時に助け、時に温かい目で見守ってくれているスタッフには感謝の気持ちでいっぱいです(笑)」(小西さん)

初めての出会いは、雑貨屋さん

小西さんがウニの魅力に目覚め、ウニコンサルタントを名乗るまでなるきっかけは何だったのか。

「海をモチーフにした雑貨屋さんが好きで妹と巡っていたときに、スカシカシパンやタコノマクラ(編注:いずれもウニの一種)がモチーフにされているのを目にして調べたのがきっかけでした。
それからは色彩の多さ、デザインのかっこよさなどなどバラエティーに富んだユニークなウニの世界にすっぽりはまってしまいました」(小西さん)

小西さんとウニとの出会いは意外にも、水族館ではなく雑貨屋さんだったのだ。

改めて「ウニのどんなところが好きですか」と尋ねると、熱量にあふれた答えが返ってきた。

「よく聞かれるのですが、たくさんあって...説明には2泊3日くらいかかります。
強いて挙げると『死んでもなお、美しいところ』です。
ウニはアートにもなりますし、キャッチコピーにももってこいですし、なんにでも適応できるのでポテンシャルが高いと思います」(原文ママ)
じょじょに広がり続ける、ウニの展示スペース

その「ウニ愛」で、小西さんはこれまでに数々のユニークな展示を生み出してきた。

その1つが、先述した「ウニのカシパン祭り」である。

ポスターの既視感がすごい

小西さんは「山崎さんの『春のパン祭り』の、ウニの仲間"カシパン"バージョンです」と、説明する。これは、同館がある淡島内のイベントに参加して得点シールを集めると、ウニ柄の皿をもらえるという企画だ。

ウニには、「スカシカシパン」「フジヤマカシパン」「ヨツアナカシパン」「スソキレカシパン」など、見た目が菓子パンに似ていることから「~カシパン」と名付けられた種類が多くいる。彼ら(?)の名前をもじった企画というわけだ。

「ウニはランウェイを歩ける」

昨年には、「UNI COLLECTION 2020 ~Autumn&Winter~」(ウニコレ)も開催された。ウニの骨格を下から照らし、模様を浮き上がらせるような展示だ。横には、生きているウニも小さな水槽で置き、解説板では「モードな印象を与えてくれる」などウニをファッション用語で表現した。

「ウニの色彩の豊かさや美しさからパリコレならぬウニコレができる」と思いつき、実現したという。

小西さんの中では、さらなるウニの展示の構想が尽きないようで、

「ウニはランウェイを歩けます」

と、力強く語った。

色とりどりのウニたち

最後に、小西さんたちが同館内に増やし続けているウニの展示に込めた、熱い想いを聞いてみた。

「ウニが好き。それだけで『一人ウニ化計画』を進めてきました」
「最初は一人だったものが、魚類スタッフの軍隊並みの協力、『ウニを下さい』を言う私に引くことなくウニを集めて下さる漁師さん、『これからウニは愛でる時代だ!』といった私の企画を受け止めてくれた会社、売れなかったウニ企画に対して『時代がウニに追い付いていない』という理由をつけた私を寛大な心で見てくれた館長のお陰で今があると思います」
「沢山の方の協力があって、今日もウニ展示が出来ています。本当にありがとうございます」
(小西さん)

最初はたった1人で始めた「ウニ化計画」が、周囲の心を動かし、SNSをきっかけに全国から水族館への注目を集めた――その軌跡に、記者の胸はじんと熱くなった。

「時代がやっとウニに追い付いた」と喜びを表現する小西さんの姿に、自分ももっと、好きで始めたこの仕事でできることがあるはずだと思わされたのだ。

ありがとう、ウニコンサルタント。

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