観音様は銃を構え、諸葛孔明は曲芸を披露 江戸時代に書かれた絵に、ツッコミどころが多すぎる
福岡市美術館で展示中のある美術作品が、いまツイッター上で話題になっている。それが、この絵だ。
観音様がなぜか火縄銃を構え、狙いを定めているという不思議な絵である。人々の願いを聞いてくれる慈悲深い仏様のはずだが、これはいったいどういうことだろう。脇には「龍女」も控えているようだが......。
この絵はいま「スナイパー観音」などと呼ばれ、大変な人気に。
ツイッターにはこんな声が寄せられている、
「観音さま『私は赦そう、、、だがこの火縄銃が赦すかな!?』」
「観音様もロックオンするレベル」
「観音さま射撃選手やったんか(笑)」
「スナイパーと観測手のチームになってる」
「スナイパー観音の絵はがきあったら欲しいですwww」
Jタウンネット記者は早速、この絵について福岡市美術館に電話で問い合わせてみた。
目指したのは、気軽にみて笑ってもらえるような展示
福岡市美術館は、福岡市中央区の大濠公園内に位置する市立美術館で、1979年に開館した。赤茶色の磁器質タイルで覆われた、外から見るとシンプルな建物は、日本近代建築の巨匠・前川國男氏が設計したものだ。
同館では、2021年9月14日から「遊びと笑いの日本美術」というコレクション展が開催されている。
前述の「スナイパー観音」はその展示作品の一つ「異代同戯図巻」(福岡市美術館所蔵)の一部。描いたのは、江戸時代前期の絵師・狩野昌運だ。
この作品と企画展について、Jタウンネット記者の取材に応じたのは、福岡市美術館の学芸員である宮田太樹さんだった。
今回の「遊びと笑いの日本美術」という企画は、どんなきっかけから生まれたのだろう。
「今話題になっている観音が描かれている『異代同戯図巻』は例年のコレクション展でも紹介していたのですが、広げると13メートルを越えるので全部の場面を展示することができませんでした。この絵巻を全部広げて、すみずみまで皆さんに楽しんでいただきたいというのが動機です」
「当館ではキングダム展を開催し(9月26日まで)、多数のマンガファンも来場されております。こうした方々にも古い美術作品の魅力に触れてほしいと思いました」(学芸員・宮田太樹さん)
マンガ好きな人にも、古美術をより親しみやすく紹介したい、という想いが強かったようだ。「美術館はどうしても敷居が高いイメージを持たれがちなので、気軽にみて笑ってもらえるような展示を作りたいと思いました」と宮田さんは語った。
諸葛孔明が曲芸を披露!?
そもそも「異代同戯図巻」とはどんなものなのか。
宮田さんは「偉人や神仏などのオールスターが、時代や地域をごちゃまぜにされていっぺんに登場する絵巻です」と説明する。300年ほど前に作られたものだが、話題の「スナイパー観音」のように、特別な知識が無くても思わず笑ってしまうような小ネタが散りばめられているそう。
「三国志で有名な諸葛孔明が積み木の曲芸を披露したり、普賢菩薩が鵜飼をしていたり、鯉にのって空を飛ぶ琴高仙人が漁師の網に捕まってしまったりなど、『なんで!?』とツッコみたくなる場面が満載です」(学芸員・宮田太樹さん)
展示にあたって、苦心したこともあったという。それは「笑いどころが全く分からない部分もある」ということ。
現代の我々にとっても面白い表現もあれば、300年経って理解不能になってしまったネタもある、というわけだ。
「それを補うために当時の人がどういうことで笑ったり、遊び心を感じたりしたのか感じられる作品を展示してみました」(学芸員・宮田太樹さん)
「美術館で笑っても構わない」
今回の展示を通して、人々に伝えたいことは3つあるという。
1.美術館で笑っても構わない
2.昔の人でも我々と同じ笑いのツボを持っている
3.今となっては笑いどころが全く分からないネタもある
「個人的には、3番目を最も伝えたいです。わからないからといってスルーしてしまうのではなく、面白がってほしいです」と、宮田さん。
展示の一部がツイッターで大きな話題になったことについて、宮田さんは「『スナイパー観音』というネーミングがすごくセンスがあると思いました。また、大喜利みたいになっていて皆さんのコメントがどれも面白くニヤニヤしながら見ています。企画したときの意図が伝わったのかなと思い、うれしかったです」とコメントした。
コレクション展「遊びと笑いの日本美術」開催は、11月14日(日)まで。
なお10月16日(土)午後3時~午後4時には、宮田さんが「遊びと笑いの日本美術」の楽しみ方を紹介してくれる「つきなみ講座」が開かれる。聴講は無料だが、定員は54人で先着順なので、ぜひ聞きたいという方はお早めに(開始30分前より受け付け開始、定員は変更になる場合あり)。