遠くにいても「リアル」がわかる 「VR空き家内覧」で移住希望者にアピール...人口減に悩む江田島の挑戦
江田島市=「ほどほど」な島!?
移住者を増やすことは最終的なゴールだが、千葉さんと後藤さんは足元の目標として、「空き家バンク」を訪問する人の滞在時間を少しでも長くしたい、と考えている。
実は今回、市はVRシステムの導入と並行して、移住に関する情報発信の強化をめざし、江田島市移住・定住ポータルサイト「hodohodo(ほどほど)」を新たに立ち上げた。現在、このポータルサイトを通じて、市の「空き家バンク」にアクセスできるようになっている。
「ポータルサイトのネーミングは、江田島市の特徴がほどほど島だったり、ほどほど都会だったりするので、そんな島のリアルな部分を伝えられたらと決めたんです」とほほ笑む千葉さんと後藤さん。島のリアルを伝えるために「VR内覧」はぴったりだという。
「実は、市内の空き家の多くは家財道具も残っています。『VR内覧』を取り入れましたが、今回あえてそういったところも映し、リアルな点を伝えられたらと思っています。
関連する話として、島内の移動に車を使いますので、家周辺の道の広さ・狭さに関する質問は多く、以前は現地で確認するしか手立てがありませんでした。今後は、家周辺も撮影してパノラマ画像として載せることができ、江田島市でのリアルな生活を想像しやすくなると思います」(千葉さん)
いまのところ、空き家バンクに登録されている空き家物件は40軒程度、このうち「VR内覧」が可能な物件はまだ数軒にとどまる。
「いまは私一人で物件を撮影して回っていますが、来年度以降は人手を増やして、空き家物件の利活用を推進していきたいです」と千葉さん。後藤さんも「めざしたいのは日本一の『空き家バンク』登録数です。手軽に利用できる『VR内覧』が広まれば、これまで移住を考えていなかった層にも訴求できるのではないかと考えています。また、こうした先進的な取り組みを通じて、私たちの江田島市のよさがもっと伝わるといいですね」と笑顔を見せる。
今回の実証実験プロジェクトを振り返って、トーマツ広島事務所の中山さんは「江田島市とスペースリーによる連携で成果が出たことで、移住や空き家に関する課題を抱える他の自治体も参考にできる好例になるのでは」と期待を寄せる。
「全国の自治体はさまざまな課題を抱えていて、各地で自治体と企業が連携する動きがあります。しかし、自治体が課題の解決にあたるとき、スタートアップ企業と組むという発想にはなかなかならないものです。
今回の取り組みが成功したことで、他の自治体にとっても連携への抵抗感もやわらぎ、新たに連携する取り組みが生まれるなど、さまざまな発展が期待できると思います」(中山さん)
移住に限らず、新型コロナウイルスの影響から、リモートワーク主体の働き方も注目を集めている。さらには、地方でサテライトオフィスを構える動きも出てきた。
江田島市でも3月、ITベンチャーのバレットグループなどがサテライトオフィスを開設し、部分的な地方移転の動きが進む。
都市部から地方へ――その流れがデジタル技術の発展と利活用によって、新たなうねりを生み出していく。
<企画編集・Jタウンネット>