「ヘンテコ深海魚」に「スマホ型の硯」... 現役アイドルと体験する、知られざる「半島」の魅力
2021年2月某日。
都内にある芸能事務所の一室で、現役アイドルが「深海魚」と戯れていた――。
発泡スチロールの箱いっぱいに詰められた、様々な姿かたちの深海魚たち。
まさに「魚」といったものもいるが、にょろにょろと長かったり、ゴツゴツしていたり、怖い顔だったり......。ちょっと「ヘンテコ」なやつらが大集合している。
その箱に手を突っ込み、「マスコットみたい」「透明なのがいる!」と楽しそうに声を上げるのは、アイドルグループ「アンジュルム」のサブリーダーの川村文乃(かわむら・あやの)さん(21)と、「アップアップガールズ(2)」の鍛治島彩(かじしま・あや)さん(21)だ。
この深海魚たちは一体、何者なのか。
そして現役アイドルの二人は、なぜ深海魚たちと触れ合っているのだろうか...?
アイドルたちの「推し深海魚」は?
実は、この深海魚たちは静岡・伊豆半島で行われている取り組み「深海魚直送便」で取り寄せたもの。
沼津市の「地域おこし協力隊」の青山沙織さんが始めた「地域おこし」のためのサービスで、古くから深海生物に馴染みがあった同市の戸田(へだ)港で水揚げされた深海魚を消費者の家に直送している。
この直送便には、食べて楽しむ「通常版」と、味の保証はないけれどビジュアルは強烈でユニークな魚を集めた「ヘンテコ深海魚直送便」の二種類がある。
この日、用意したのは「ヘンテコ」の方。
箱を開けた二人はさっそく手袋をつけて、いざ、深海魚とのふれあいタイム。
見たこともない深海魚たちとのふれあいを楽しむ二人。特に魚を捌くのが大好きだという川村さんは、少々グロテスクな見た目の深海魚にも臆することなく、慣れた手つきで魚と触れあっていた。
「思う存分、深海魚と触れ合う」というなかなかない体験をした二人に、個性豊かなビジュアルの魚たちの中から、特に気に入った「推しメン」を決めてもらった。
それがこちら。
川村さんの推し深海魚は、先ほども手の甲で愛でていた「キホウボウ」。
小さくてくりくりとした目が可愛らしく、マスコットのような見た目が気に入ったそうだ。
そして鍛治島さんの推し深海魚はこちらの「ヨリトフグ」。
最初はぶよぶよと柔らかいお腹の感触に悲鳴を上げていた鍛治島さん。しかし手の上に乗せている内に「だんだん愛着がわいて、可愛く見えてきた」とのことで、推しメンに選出していた。
深海魚をお取り寄せするとは一体どういうことなのか、あまりピンときていなかった筆者。
しかし、楽しそうに触れ合っている二人の姿を見て、これはお出かけができない今、「おうち時間」に楽しめるとっておきのイベントになりそうだと感じた。
しかも、同封されていたメモによれば「まだ見ぬ新種の深海魚」が入っている可能性もあるとのこと。ワクワクする......!
この直送便について、川村さんは
「深海魚はスーパーとかではあまり買えないイメージがあるので、普段なかなか見ることができないし、珍しいからまず、食べてみたいなって思いました。どんな味かすごく気になります。
でも深海魚ってすごくハードルが高いイメージなんですよね。そもそも、食べられるのかなとか、分からないことだらけで。
でも直送してくれるということで試してみやすいし、あと今コロナ禍でお家で過ごす時間も増えていて、時間があるから捌いてみようって方もいらっしゃるでしょうし、とてもいいなと思いました。
私は、普段からウナギとか、捌くのが大変な魚を捌くのが好きなので、深海魚もぜひ捌いてみたいです」
と意欲をにじませた。
なお、この「ヘンテコ便」は「見て楽しむ」ためのセットで、食べることを目的にはしていない。深海魚を食べて楽しみたいという方はヘンテコ便ではなく「深海魚直送便(食べて楽しむ)」を注文してほしい。
コロナ禍で川村さんが実感した「不安」
実は、この深海魚直送便はコロナ禍で観光客が減少してしまった伊豆半島の戸田の青山さんが、その窮地を打開するためにスタートした企画。
コロナ禍で大きな影響を受けたのは、アイドルの二人も例外ではないだろう。二人はこの直送便のように、何かコロナ禍をきっかけにはじめたことはあるのか、聞いた。
「決まっていたスケジュールが全部なくなったことで急に仕事ができなくなるってこんなに不安なんだって実感した」
と話す川村さんは、なかなか直接会うことができなくなってしまったファンに向けて個人のインスタグラムを開設したという。
「応援してくださる皆さんに、どんな写真なら喜んでもらえるかなと考えながら、楽しんでもらえたり、元気になってもらえるような写真を投稿しています」(川村さん)
鍛治島さんも、撮影機材や照明をはじめ、楽譜も自分で用意し、一年半ほど前から趣味で始めたというギターを使って「おうちでライブ」を開催したそう。また、今までは時間がなくてなかなか実現できていなかった長年の夢である作曲にも挑戦し、実際にグループの楽曲となって発表されたとのことだった。
さて、なぜそんな現役アイドルの二人が伊豆半島からやってきた深海魚と触れ合っていたのか。それは、彼女たちの「出身地」と関係がある。
川村文乃さんは、高知県出身。県の観光特使や、高知市PR大使も務めている。
そして、鍛治島彩さんは千葉県出身。千葉の魅力を広めるために活動する「オール千葉おもてなし隊」のオピニオンリーダーでもある。
高知県には雄大な景色を楽しめる足摺岬などを抱える「幡多半島」、千葉県にはもちろん「房総半島」がある。
実は、これら「日本の半島地域」は近年、伝統工芸や産業などの担い手、後継者不足やそれによる消滅のピンチという課題を抱えているのだ。
それを乗り越えるため、各半島では様々なプロジェクトを企画、実施している。移住者を募って後継者の育成を行ったり、外からの力で地域の伝統に新しい価値を創造したり......。
伊豆半島の「深海魚直送便」も、そのひとつだ。
こういった取り組みによって実際に伝統の再生を行えた例も、各地にあるという。
そんな個性豊かな「半島地域の取り組み」を取材してほしいという依頼が、Jタウンネット編集部に舞い込んできた。
しかし、今はコロナ禍でなかなか日本各地にある半島地域に実際に足を運ぶことができない。
そこで、地元のためにも活動する現役アイドルの二人に、東京に居ながら「半島の魅力」を体験してもらった、というわけだ。
とはいえ、「日本の半島」といっても、あまり具体的なイメージが思い浮かばない人も多いかもしれない。
高知県出身の川村さんに、まず「半島」と聞いて思い浮かぶものや、そのイメージ尋ねると、
「私は、半島って聞いたら、島かな? と思うぐらい半島について知識がありませんでした。
でも半島について調べたらこんなにもたくさん半島って呼ばれる場所があるってことにびっくりしました」
という。また、
「実は地元の高知県に(半島が)あるというのも知らなくて、驚きました」
とも話した。一方で、鍛治島さんからは
「半島と聞いたらもう房総半島しか思い浮かばず......。正直(房総半島が)一強だと思っていました。すみません」
と、千葉県出身らしいコメントが飛び出した。
実は最近も房総半島を訪れた、という鍛治島さん。コロナ禍に見た壮大な景色がとても印象に残った、と話す。
「(コロナ禍で)アイドルとしてのお仕事が激減して、おうちにずっといることが増えました。
心にもどかしさが募って落ち込んでいたとき、うちのお姉ちゃんが外に出ようって声をかけてくれたんです。
色んなところに行くのは無理だけどって、ドライブで連れて行ってくれたのが房総半島でした。なかなか外の景色を見ることが出来ていなかった、行き詰っていたときに見た海が本当に忘れられません」
スマホみたいな...「硯」?
深海魚以外にも、東京で味わえる「半島の魅力」はまだまだある。
今回は、川村さんの出身地である高知県から、「幡多半島」の伝統工芸品も取り寄せた。 三原村で作られている「土佐硯」だ。
土佐硯職人が集う「三原硯石加工生産組合」初の女性職人となった足達真弥さんが考案した「新しい形の硯」だという。
なんと硯が、スマホとほぼ同サイズのケースに、墨と筆のセットになって入っているのである。現物を見た二人からは、「スマホにしか見えない!」と驚きの声が上がる。
「これなら持ち運びも簡単ですね!」という川村さんは、
「アンジュルムのリーダーの竹内朱莉さんは、習字がとても得意で、ライブの空き時間とか休憩時間にも、習字セットを持ってきて書いているんです。これがあれば、もっとどこでも書けると思うのでぜひプレゼントしたいです」
と、早速同じグループの習字好きなメンバーに渡したいという思いが芽生えていた。
確かに、これはプレゼントにもぴったりの可愛さだ......。
土佐硯は、室町時代が起源といわれる歴史ある工芸品だが、最近では硯自体の需要が低迷、また後継者不足も課題となっていた。
そんな土佐硯の存続のため、三原村では後継者育成を目的とした研修制度を導入。
土佐硯職人の働き方は複業が当たり前となっているのだが、そのことが「自分らしさ」を追求できる、と若い世代から支持され、徐々に後継者が集まりはじめたという。
スマホケースに入る硯を作った安達さんも、そんな後継者の一人。「石をノミで削る感覚」に感動し、石の魅力にハマって硯職人になることを決意したそう。
伝統と革新、どちらも取り入れた新しい形の硯と触れ合い、鍛治島さんは「後悔してます」と話す。
「私、小学校で習字するときに硯じゃなくて墨池(ぼくち、墨を入れるための器)を選んじゃったんですよ。なんとなく、硯だと墨がいっぱい入らないかも、こぼしちゃうかもって思って......。
でも、(土佐硯の伝統を守るための取り組みを知って、)何で硯選ばなかったんだろうってすごく後悔しました。職人の皆さんの、硯への愛がわかったので......。 複業の内の一つで硯作りをやられているっていうのも、本当に楽しくて、やりたいからやっているんだな、というのが伝わってきて、だからこそこんなに素敵なものができるんだろうなって感じました。
色んな愛着や、機能が硯にあると知ったので、昔の私のように墨池選んでる子に、硯使ってみない? って声かけたいですね。あと、体験みたいなのがあったら私も作ってみたい!」(鍛治島さん)
「土佐硯」でレッツ!書初め
せっかく硯があるのだから、使ってみなければ。今度はこの土佐硯を実際に使って、二人に書初めをしてもらうことにした。書道なんて久しぶり、自信ない、と不安げな二人に書いてもらうのはずばり「今年の抱負」。
2月なので、2021年になってからずいぶん日は経ってしまっているが、こういうのはいつ書いてもいい......はずだ。
真剣な面持ちで、筆を持つ二人。
いったいどんな作品が書き上がるのか......。
川村さんが書き上げた今年の抱負がこちら。
何ともバランスのいい文字で書いた「毎日お祭り」という抱負を掲げた川村さん。
その理由を尋ねると
「まだ暫くの間は家で過ごす時間が多い生活になるかなと思うので、規則正しい生活をして色んなことを学んで、無駄のない時間を過ごしたいという思いを込めました。
だから、何をするにしても予定を立てて、それを楽しいお祭りだと考えるようにして、今日はこのお祭りだーってテンションにしようかなって。
そうしたら勉強するのも苦じゃないですし、毎日楽しい気持ちで充実した日々を過ごせるんじゃないかと思うので、これを抱負にしました」
とのこと。
続いて、鍛治島さんの今年の抱負は「頭によぎる」。
書道は久しぶりだと自信なさげだった鍛治島さんだったが、何ともデザインセンスに溢れた力作を掲げてくれた。「る」の伸び方といい、掠れ具合としい、見事である......。
新たな才能に自分でも驚いた様子を見せていた鍛治島さんは、この抱負について
「最近は、悲しいことも含めて、色んなニュースが頭に入ってきちゃうと思うんです。
そんな中、少しでも楽しいこととして、鍛治島彩だったり、アプガ(2)だったり、アイドルだったり、その隙間を縫ってでも頭によぎっていただければなという思いをこめました」
と説明した。
何とも素敵な作品が誕生し、二人の書道センスに感動するばかりである。
「現地に行ってみたい気持ち強くなった」
最初は「半島」といってもあまりピンとこない、といった様子だった川村さんと鍛治島さんに、伊豆半島と幡多半島の取り組みを体験してもらった。
二人の中の「半島」のイメージは、どんな風に変わったのだろうか。
川村さんは
「半島に対して本当に何の知識もなかったんですけど、今日実際に深海魚や硯に触って体験してみて、現地に行ってみたいという気持ちがすごく強くなりました」
と率直な感想を述べる。また、
「全国ってなると広すぎてしまいますけど、半島地域ってなると限られた場所になるので、まずはそこから伝統文化とか、特産物などの知識を深めていきたいなと思いました。
それと今はネットで色んなもの注文できたり調べたりできると思うのでそういうのも調べて、気になるものがあれば買ってみたいです。
たとえば今日の深海魚とかも、家に届いたら絶対楽しいじゃないですか!
私自身も初めて触ってみてとても楽しかったので、この楽しさをもっとたくさんの人に知ってもらいたいなと思います。
あと高知には土佐硯という素晴らしいものがあると知れたので、習字が得意な方のプレゼントとして買いたいですね」
とも語る。今回は叶わなかったが、ぜひ川村さんには深海魚を捌く楽しさも体験してほしいものだ......。
鍛治島さんは
「伝えたいと思っていても、まだまだ皆さんに知られてないものがたくさんあるんだなというのを知ることができました。半島地域の伝統は、本当に守っていかなければいけないなとすごく思いました。
それにはやっぱり、こういう発信できるお仕事をさせていただいている私たちが、肩組んでアピールしてくべきなんじゃないかなってすごく感じました。特に私たちのような若い世代に向けて発信できるように、少しでも何かできないかな、力になれないかなって思います。
それから職人さんや、地域で頑張っている皆さんのかっこよさも、学ぶことができました! 皆さんに本当に有難うございましたと伝えたいです!」
と話した。
今回、紹介した伊豆、幡多半島以外にも、伝統の存続、振興のために頑張っている「半島」が、日本にはたくさんある。
今まで、「日本の半島」について考えたことがなかったという人も、二人の楽しそうな様子を見て少しずつ、半島地域のことが気になってきたのではないだろうか。
そんな方はまずは、国土交通省 半島振興室がまとめている「未来に残したい半島のモノ・コト」を見てほしい。
きっとあなたの「推し」半島が見つかるはずだ。
今回の取材で川村さんと鍛治島さんが、土佐硯を使って書いた書初めを、読者の皆様の中から抽選で一名にプレゼントする。
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<企画編集・Jタウンネット>