これぞ海兵たちのオールドスタイル 旧日本海軍のレシピを復元した「よこすか海軍カレー」を食べる
「船」、そして「カレー」。この2つの単語を見て「海上自衛隊(海自)カレー」や「海軍カレー」を思い浮かべる人もいるのではないだろうか?
海上自衛隊では毎週金曜日にカレーを食べる習慣があるという話は有名だ。海上自衛隊の公式レシピサイト「艦めし」によれば、艦艇や部署ごとにそれぞれに創意工夫がなされており、なんとカレーだけで34種類のレシピがあるという。
海自全体で、年間約225万食のカレーが食べられているそうだ。
この「海自カレー」のルーツとなるのが、旧日本海軍の兵士たちが食べていたという「海軍カレー」だ。
この「海軍カレー」を、現代に復元したカレーが神奈川県横須賀市にあるという。
かつての海軍兵たちは、どんなカレーを食べていたのか。その答えを探るべく、Jタウンネット記者は横須賀へ向かった。
オールドスタイルな海軍カレー
やってきたのは京急本線横須賀中央駅の東口。99年に「カレーの街よこすか」を宣言した横須賀市には、「よこすか海軍カレー」というご当地グルメがある。
旧日本海軍のレシピから現代に復元された「海軍カレー」で、「よこすか」とひらがなで書くのが正式名称だ。
「カレーの街よこすか」の公式サイトによると、横須賀市内で提供していること、サラダと牛乳を添えて提供していること、などからなる「よこすか海軍カレー五原則」を守っているものだけが、その名称を冠することができる。2016年9月時点では45店のカレーが「よこすか海軍カレー」として認定されているという。
今回はそれら店舗のうち、より原点に近いオールドスタイルのものを提供しているという店にやってきた。
横須賀中央駅から徒歩2分ほどの場所にある、「横須賀海軍カレー本舗」だ。
階段を上って2階に上がると、船の舵輪や記念艦「三笠」(横須賀で固定保存されている旧日本海軍の戦艦)に関するポスターなどが壁に飾られたオシャレなホールが。店舗公式サイトによれば、かつての戦艦三笠の船内の士官室をイメージした内装になっているという。
出迎えてくれたスタッフに案内され、店内の一席に腰を落ち着けたところでさっそく海軍カレーを注文。ビーフカレーかチキンカレーのどちらかを選べるとのことだったので、今回はスタッフの方が勧めてくれたビーフをチョイスした。
待つことしばらく、お目当ての海軍カレーが運ばれてきた。
こちらが横須賀海軍カレー本舗で提供されている「よこすか海軍カレー スペシャル」(ビーフ)だ。
小さな陶器のポットに入れられたカレールーと、別盛りのライス。これにサラダ、薬味の福神漬けとフルーツチャツネ(ペースト状の調味料)、牛乳、ホットコーヒーがついている。
さっそくポットに入ったルーをライスに回しかけて一口。フルーティーな風味があり、しかし後味はしっかりとスパイシーだ。甘すぎず辛すぎずでちょうど良い塩梅になっている。一口大にカットされた野菜や肉は柔らかく煮込まれており、ルーとよく馴染む。これは文句なしに美味しい。
また、添えられたチャツネをルーに加えて食べてみると、甘みやフルーティーな風味が増してよりまろやかになり、これもうまい。付け合わせのサラダもつまみつつ、ペロリと平らげてしまった。
野菜とフルーツでトロみをつける
後日14日、記者は横須賀海軍カレー本舗マネージャーの横尾美香さんに「よこすか海軍カレー」についての詳しい話を聞いた。
「『よこすか海軍カレー』はカレールーを使わずにカレー粉と小麦粉から炒めて作るんですが、その際に牛のヘット(牛脂)を使って炒めます。また、具材に使用するお肉は必ず牛肉か鶏肉と決まっています。これには逸話がありまして、昔の船では牛からはミルクが、鶏からは卵が採れるので乗せていましたが、豚は疫病の関係で乗せていなかったからだそうです」
これが、横須賀市のご当地グルメ「よこすか海軍カレー」の基本だという。
また同店で提供している「よこすか海軍カレー」の特徴としては、
「小麦粉の使用をごく少量に抑えて野菜とフルーツでトロみをつけているので、胃もたれすることなく食べられる仕上がりになっています」
と説明した。たしかにカレーを食べていると、段々と胃の中が重苦しくなっていくことがあるが、同店の「よこすか海軍カレー」はサラッと食べられた。
元々は英国海軍の「カレーシチュー」
横尾さんによると、「海軍カレー」のそもそものルーツは、明治期に英国海軍から日本海軍に伝わった「カレーシチュー」である。
「昔の日本海軍は英国海軍を模範にしていたんですが、ある時日本海軍の皆さんが脚気になってしまうんです。それに対して一緒に演習をしていた英国海軍は全然元気で、その要因が食事にあるのではと考えた日本海軍が調べたところ、英国海軍は肉や野菜をシチュー状にしてスパイスを効かせた料理、カレーシチューを食べていたんです。
それで、最初は日本海軍もそれを真似して食べていたんですが、そのままだとご飯と合わせた時にどうもふやけておじやみたいになってしまう。そこで日本海軍の料理長が小麦粉を加えたことで誕生したのがカレーライスと言われています。
明治41年に発行された『海軍割烹術参考書』という指南書にその製法が記載されているので、少なくともこの時期にはすでに日本海軍の中でカレーライスが誕生していたということですね。その後、それぞれの故郷に戻った海軍さんたちが『とても美味しい料理だった』とカレーライスを全国に広めていったということで、横須賀は『海軍カレー発信の地』とされています」(横尾さん)
そして、この「海軍割烹術参考書」に書かれた製法こそが、「よこすか海軍カレー」のレシピの基礎となっているのだ。
「肉じゃが論争」が「よこすか海軍カレー」のきっかけに
それから時は流れて1998年、海上自衛隊横須賀地方総監と横須賀市の商工会議所会頭、市役所役員が集まっての食事会が開かれた。
そのころ、海上自衛隊の基地がある舞鶴(京都)と呉(広島)では、双方が「肉じゃが発祥の地」を主張。いわゆる「肉じゃが論争」だ。肉じゃがも旧日本海軍で生まれた料理だと言われているため、自衛隊を活用しての町おこしが始まっていた。
食事会でその取り組みが話題にのぼり、横須賀でも何かできないかとなった時、地方総監が「カレーライスはどうか」と提案したという。
この出来事をきっかけに、横須賀市としてご当地グルメ「よこすか海軍カレー」を売り出していくことになったのだそうだ。
「海軍の街である横須賀でカレー発信の地として地域活性化を目指すことを目的に、1999年5月20日に『カレーの街よこすか推進委員会』が発足しました。
その流れの中で2005年、当時『海軍カレー』はレストランで提供されるかお土産として買うかのどちらかしか無かったことから、それらを兼ね備えた初めての店として『横須賀海軍カレー本舗』が誕生しました。それから現在に至るまで、当店では『よこすか海軍カレー』の中でもより原点に近い、英国海軍のカレーシチューをベースとしたカレーということで提供し続けています」(横尾さん)
皆さんもぜひ一度、本格的な「海軍カレー」を食べに横須賀に足を運んでみてはいかがだろう。