世界を10周した「南極料理人」が作る伝統の味 船乗りが愛した「日本郵船式ドライカレー」を食べる
噂の「氷川丸カレー」とご対面
氷川丸で提供されていたというカレーについて尋ねると、「ありますよ」と篠原さん。店で出しているのは「日本郵船ドライカレー」の味を継承したもので、店では「南極ドライカレー」という名前で提供しているという。
「この『日本郵船ドライカレー』というのは、110年~120年の伝統がある日本発祥のカレーで、三島丸や氷川丸といった日本郵船の貨客船が現役だったころに船内で出されていたものです。
ドライカレーという名前も、揺れる船でも流れないことからそう言います。
そもそも、昔の船というのは牛肉の部位を一頭分ずつ積んでいたそうですが、一番残ってしまう『すね肉』の扱いに困っていたそうです。
また、昔の船は今ほど空調も良くなかったので、赤道の方なんかに行くと皆ぐったりして寝込んじゃう。それを見た船の司厨長(調理長)さんが、すね肉をミンチにしてカレー味にしたところ、皆食べられるようになったそうです」(篠原さん)
なるほど、まさに船の中で食べるのに最適なカレーとして生み出されたメニュー、ということだろう。

話を聞いているうちに、猛烈に食べたくなってきた。さっそく南極ドライカレーを一皿注文。が、まずはドリンクを頼んで欲しいとのことだったので、大人しく飲み物を飲みながら待つことにした。
ほどなくして、注文の品が運ばれてきた。いよいよ噂のドライカレーとご対面だ。

ライスを覆い隠すように盛られたしっとりとしたルー。キーマカレーに近い感じとでもいうのか、一般的にイメージされるドライカレーよりも水気がある。その上にはフライドオニオンが散りばめられ、傍らにはスライスした卵が添えられている。なかなか豪華な見た目だ。
さっそく一口食べてみると、まず細かく刻まれたたっぷりの牛肉の甘みが口に広がり、その後にルーの辛さがやってきて、時間差で二度うまい。比較的甘口に仕上がっており、小さい子どもや辛いのが苦手な人でも問題なく食べられそうだ。
サクサクのフライドオニオンが良いアクセントになり、卵もルーとマッチしてこれまた美味しい。
篠原さんによれば、「日本郵船ドライカレー」の一般的な定義は、牛肉を100%使用していること、かつフライドオニオンとスライスエッグを添えることだという。また、酵素の働きによって肉を柔らかくするためにパイナップルを加えているなど、少し甘口に仕上げるのも定義とのことだ。
「ただ、細かい作り方に関してはシェフによってそれぞれアレンジが加えられています。Miraiのドライカレーは『日本郵船ドライカレー』の定義や基本的なレシピを踏襲した上で、あまり重たくしたくなかったので、赤ワインではなく白ワインを使って煮込むなどアレンジしています」

南極料理人が作る、100年以上の伝統があるドライカレー。お店に足を運ぶのが難しくても通販で取り寄せることもできるそうなので、皆さんもぜひ一度味わってみてはいかがだろうか。