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ついに日本から消える「喫煙車両」 逆になぜ今まで存続できた?近鉄に事情を聞いた

井上 祐亮

井上 祐亮

2020.02.07 17:00
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電車の座席に座りタバコを一服。小説や新聞を読みながら、あるいは音楽を聴きながら...。外の風景を楽しみつつ、灰が落ちそうになったらひじ掛けの灰皿でトントン。

こんな情景は間もなく見られなくなってしまう。

2020年4月1日の改正健康増進法の施行によって、鉄道から「喫煙車両」が姿を消すからだ。

私鉄の有料特急のなかで唯一、座席でタバコが吸える車両を走行させてきた近畿日本鉄道も、2月1日から特急列車の座席禁煙化に踏み切った。

近鉄特急「ニュースナックカー」(画像は1月30日編集部撮影、以下同)
近鉄特急「ニュースナックカー」(画像は1月30日編集部撮影、以下同)

もうすぐ日本から消える喫煙車両。愛煙家の筆者の性だろうか、

「せっかくならば乗ってみたい」

と思い立った。

座席が禁煙化される直前の1月30日。記者は喫煙車両が発着する近鉄名古屋駅へ向かった。

座席で吸えなくなる前にプカプカしてきた

乗車したのは、近鉄名古屋からへ大阪方面に向かう特急列車。すでに喫煙車両の走行本数は少なくなっているようで、列車を探すのにも苦労した。結局、名古屋に到着したのは正午すぎだったが、喫煙車両に乗れたのは16時過ぎだった。

車掌に聞けば名前は「ニュースナックカー」だという。オレンジと紺色のボディが特徴的で、筆者が乗車したのは4両編成の1号車だ。

4両編成の1号車。筆者の席は窓際だった
4両編成の1号車。筆者の席は窓際だった

乗車した瞬間、個人経営の喫茶店の匂いがした。天井は、黄ばみがかっているように見えた。何十年もタバコの煙を吸収してきたのだろうか。座席に座ると、至る所からタバコに火をつける音が聞こえてきた。

みな小説や新聞を読みながら、至福のひと時といったところか。筆者も、とりあえず吸ってみようと、灰皿を探した。すると、ひじ掛けに「TABLE」の文字を発見。先端を引くと灰皿が出てきた。

ひじ掛けに灰皿。ちなみに「TABLE」部分を引っ張るとテーブルに変身する。
ひじ掛けに灰皿。ちなみに「TABLE」部分を引っ張るとテーブルに変身する。

座席に深く座って、窓の外の景色を眺めながら、タバコを一吸い。ぼんやりと外を見つめながら、吸うタバコは一段と美味しく感じた。

電車の座席で吸うなんて、初めての経験
電車の座席で吸うなんて、初めての経験

何本か吸っていると、デッキに立っていたカップルに車掌が特急券の提示を求めている姿が見えた。話を聞いていると、どうやら喫煙車両でタバコを吸ってみたいようだ。

「タバコを吸いたかったら、空いている席に座ってご自由に。何せ明日までですから」

と車掌が声をかけていた。その声が聞こえたからか、あるいは「近鉄特急は喫煙ルームを除き全席禁煙になります」という車内アナウンスが流れたからか、前方に座っていた老夫婦も、

「ここで座って吸えるのも最後ねえ」

とこぼしていた。

何本も何本も吸った
何本も何本も吸った

いったい何本タバコを吸ったのだろう。近鉄名古屋から、乗り換えのために降りた伊勢・中川間の移動に約1時間。2箱あったタバコは空になっていた。

電車の座席というシチュエーションでタバコを吸えるのが最後という感慨からか、ちょっと吸い過ぎてしまった。

なぜ喫煙車両を残してきたのか

ところで、なぜ近鉄は令和の時代になっても喫煙車両を存続させてきたのだろうか。

Jタウンネットが1月31日、広報担当者へメールで取材をすると、2月4日に回答があった。

「当社は従来から喫煙される・されない方双方に配慮して、『分煙』を基本とした受動喫煙防止対策を取っており、特急列車には喫煙車両を設けてきました。

しかし年々受動喫煙防止強化を求める声が増加していることを受けて、特急列車については2009年より順次新造・リニューアルした特急車両に喫煙室を設置して、2016年には大阪阿部野橋―吉野間の特急列車を全席禁煙(喫煙は喫煙室のみ)としました。

今般その他の区間を運行する特急列車のうち大半の列車において工事が完了することから、全社的に『座席はすべて禁煙』『喫煙は喫煙室のみ』とすることとしました」

喫煙車両は1983年3月からあるという。喫煙者と非喫煙者の双方に配慮して喫煙車両を設けてきた近鉄。この度の改正健康増進法の施行に対する受け止めについて、

「全特急座席禁煙化は2020年4月全面施行の改正健康増進法において、鉄道車両内は、喫煙室以外は禁煙とする必要があり、法施行に先立ち2月1日より特急列車座席禁煙化を実施するもので、やむを得ないものと考えています」(広報担当者)

と回答した。世の中の流れや法施行とともに「喫煙室」へ移り変わった特急列車。

確かに、筆者が伊勢・中川で、別の近鉄特急列車「ビスタカー」へ乗り換えると、車両間に用意されていたのは喫煙室だった。

ひじ掛けに灰皿はなかった。代わりにガラス張りの喫煙室が
ひじ掛けに灰皿はなかった。代わりにガラス張りの喫煙室が

近鉄は3月14日、新型特急列車「ひのとり」をデビューさせる。車両には「喫煙室」が設けられる予定だ。広報担当者によると、基本的な構造は既存の特急車両と同様とのこと。

禁煙が進む世の中の流れとは少し逆行するイメージではあるが、それでも導入する理由は

「当社では、タバコを吸う・吸わないそれぞれのお客様に配慮した『分煙』を基本とした受動喫煙防止に取り組んでまいりました。このため特急車内についても、一部を除き基本的に各列車に喫煙できる箇所を設けております」(広報担当者)

という。

今後、喫煙車両は姿を消す。しかし喫煙室も悪くないというのが筆者の感想だ。より一層、タバコを吸わない人への配慮ができるからだ。

それに冷静になって考えてみれば、このご時世、車内でタバコを吸うことが出来るだけでもありがたいわけだ。

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