被災者のプライバシーを守るために 避難所専用テント「ファミリールーム」に開発者が込めた思い
高さ、広さにもこだわりが
電話で答えてくれたのは、避難所用の機材などを製造販売するニード(東京・世田谷区)の担当者だ。まず、話題となった「ワンタッチパーテーションファミリールーム」開発のきっかけについて、次のように話した。
「15年以上も前になりますが、ある県の防災訓練を視察したときのことです。
その時、段ボールを使用した避難所の簡易設備を組み立てようとしたのですが、けっこう難しかったのか、予定した時間内に設営できなかったのです。
防災担当者から、もっと簡単に設営できる方法はないだろうか、と相談されたのが、開発を始めるきっかけとなりました」
そこで、従来から手掛けていた、バネの力で広げるポップアップ式構造を採用し、試作品を作ってみた。
「これなら誰でも簡単に設営できそうだと確信が持てました。地方自治体の担当者は、防災課だったり福祉課だったりまちまちで、しかも数年で異動する場合が多いようです。まったくの初心者でも、すぐに設営できるものでなければ、実際には使ってもらえないことがありますから...」と担当者は語る。
材質はナイロンだ。素材がポリエステルだと、気温が低くなると、ゴワゴワして展開しにくくなる。ナイロンは低温でもなめらかで、取り扱いやすいという。東日本大震災時、東北地方で得た教訓の一つだそうだ。改良に改良を重ねてきた結果が、現在の製品にも生かされている。
床面のサイズは「2.1メートル×2.1メートル」だが、実はこれにもこだわりがある。
避難所に持ち込まれるふとんや簡易ベッドの大きさというのは、1.9~2メートルの場合がほとんどだ。つまりテントの中は、ふとん2枚を敷ける大きさが標準というわけだ。
ただ「約10センチ余裕を持たせたところがミソです」と担当者はやや誇らしげだ。これまでの経験でつかんだのが、この10センチの余裕ということだ。
高さは1.2メートルから1.8メートルまでさまざまだが、1.4メートルが標準だという。施設の管理者がある程度見渡せる高さだ。近所の人に気軽に声がかけやすいなど、施設内でのコミュニケーションを図ることも重要なのだ。
ある程度のプライバシーの確保と、施設内のコミュニケーションのバランスを考えた結果、鷹さ1.4メートルに落ち着いてきたようだ。
また車椅子を利用されている人や高齢者のために、出入り口やコーナー部分にはマジックテープが多用されており、らくに出入りができる。またカーテンタイプや2ルームタイプのものもあるそうだ。
もう一つ大きな点は、避難が終わった後、清掃して小さく折りたためば、収納できるし、何度でも使える。リサイクルが可能なことだ。けっして災害ゴミを増やすことにはならない。一つ一つ収納袋に入れて持ち運びもかんたんにできる。
組立や収納方法については動画が用意されていて、YouTubeで公開されている。興味を持った人はご覧いただくといいだろう。一人で驚くほどかんたんに組み立てられ、収納できる様子を見ることができる。