被災者のプライバシーを守るために 避難所専用テント「ファミリールーム」に開発者が込めた思い
2019年10月12日から13日にかけて関東甲信越・東北地方を襲った台風19号は、大きな爪痕を残した。
そんな中、注目を集めたものがあった。
長野県上田市の避難所に設置された、青緑色のシートで覆われたテントのようなものだった。まるで小部屋のようになっていて、これなら避難者のプライバシーが確保できるとSNSなどで話題になったのだ。
Jタウンネット編集部は、上田市にこうしたテントを導入した理由を取材して、18日に記事として公開した(参照:全国の避難所に導入してほしい... 上田市が導入した簡易テント「ファミリールーム」に注目)。
その後、この製品を製造販売しているメーカーから、電話で詳しい話が聞けたので、改めてご紹介しよう。
高さ、広さにもこだわりが
電話で答えてくれたのは、避難所用の機材などを製造販売するニード(東京・世田谷区)の担当者だ。まず、話題となった「ワンタッチパーテーションファミリールーム」開発のきっかけについて、次のように話した。
「15年以上も前になりますが、ある県の防災訓練を視察したときのことです。
その時、段ボールを使用した避難所の簡易設備を組み立てようとしたのですが、けっこう難しかったのか、予定した時間内に設営できなかったのです。
防災担当者から、もっと簡単に設営できる方法はないだろうか、と相談されたのが、開発を始めるきっかけとなりました」
そこで、従来から手掛けていた、バネの力で広げるポップアップ式構造を採用し、試作品を作ってみた。
「これなら誰でも簡単に設営できそうだと確信が持てました。地方自治体の担当者は、防災課だったり福祉課だったりまちまちで、しかも数年で異動する場合が多いようです。まったくの初心者でも、すぐに設営できるものでなければ、実際には使ってもらえないことがありますから...」と担当者は語る。
材質はナイロンだ。素材がポリエステルだと、気温が低くなると、ゴワゴワして展開しにくくなる。ナイロンは低温でもなめらかで、取り扱いやすいという。東日本大震災時、東北地方で得た教訓の一つだそうだ。改良に改良を重ねてきた結果が、現在の製品にも生かされている。
床面のサイズは「2.1メートル×2.1メートル」だが、実はこれにもこだわりがある。
避難所に持ち込まれるふとんや簡易ベッドの大きさというのは、1.9~2メートルの場合がほとんどだ。つまりテントの中は、ふとん2枚を敷ける大きさが標準というわけだ。
ただ「約10センチ余裕を持たせたところがミソです」と担当者はやや誇らしげだ。これまでの経験でつかんだのが、この10センチの余裕ということだ。
高さは1.2メートルから1.8メートルまでさまざまだが、1.4メートルが標準だという。施設の管理者がある程度見渡せる高さだ。近所の人に気軽に声がかけやすいなど、施設内でのコミュニケーションを図ることも重要なのだ。
ある程度のプライバシーの確保と、施設内のコミュニケーションのバランスを考えた結果、鷹さ1.4メートルに落ち着いてきたようだ。
また車椅子を利用されている人や高齢者のために、出入り口やコーナー部分にはマジックテープが多用されており、らくに出入りができる。またカーテンタイプや2ルームタイプのものもあるそうだ。
もう一つ大きな点は、避難が終わった後、清掃して小さく折りたためば、収納できるし、何度でも使える。リサイクルが可能なことだ。けっして災害ゴミを増やすことにはならない。一つ一つ収納袋に入れて持ち運びもかんたんにできる。
組立や収納方法については動画が用意されていて、YouTubeで公開されている。興味を持った人はご覧いただくといいだろう。一人で驚くほどかんたんに組み立てられ、収納できる様子を見ることができる。
個人販売をしない理由とは
さて、このワンタッチパーテーションファミリールームのユーザー数はどのくらいだろう?
「全国の自治体の半数近くには納品させていただいておりますが、まだ数量的は十分とは言えない、まだこれからと言ったところでしょう」と担当者。備蓄という点では、自治体によって差があるのかも知れない。また同じ自治体の中でも、避難所によって備蓄数に差がある、というのが実情だろう。
今回、ツイッターなどSNSで話題となったことによる反響はどうだったのだろう。ニードの公式サイトには次のような告知が記されている。
「非常に恐縮ではございますが、弊社では基本的にワンタッチパーテーション等を個人の方向けに販売することは致しておりません。また、各ECサイトへの出品やインターネット販売等も行っておりません。
その理由と致しましては、スペースの限られた避難所で個々人の方々が持ち寄った間仕切り等を使用されますと、避難所の運営に支障をきたす可能性があるためです。
お住まいの地域における弊社製品の備蓄状況につきましては、お近くの避難所等を管轄されている各自治体様にお問い合わせください」
どうやら個人からの購入希望が多かったようだ。個人への販売や、通販での販売は行っていない。あくまでも避難所を運営する各自治体への販売が基本のようだ。
個人が仕切りなどを持ち込むと、「避難所の運営に支障をきたす可能性がある」というメッセージがそれを表している。