日本で唯一!「下水道に入れる博物館」 気になるニオイは?現地で体感してきた
地下に行くにつれ、強まる「下水道臭」
ふれあい下水道館は1990年、小平市の下水道整備事業が完了した記念に建設された。東京の下水道を取り巻く環境についてさまざまに学べる施設になっている。館内は地上2階と地下5階で、最深部の地下5階に下水道管が走っている。
入口でいきなり「扉は必ず閉めてください」という注意書きで身構える。気圧差で下水管の空気が館内に充満しないようコントロールしているのだ。東京ドームに近い仕組みである。
地下5階までの各階に講座室と展示室があり、水道関係の展示を行っている。子供向けの図鑑に載っているような現代の上下水道の基本的なことから、江戸時代からの水道の歴史まで学べる。当館は奇しくも江戸時代から江戸(東京)に水を供給してきた玉川上水の近くにあって、多摩・小平の豊かな水資源をも実感できる。
江戸時代にすでに当時のヨーロッパとは比較にならないくらい高度な水道が整備されていた東京。それでも明治初期には人口急増に追いつかずしばしば伝染病が大流行し、近代的な水道がつくられていった。
そういった過程を見学しながら階下へ階下へと降りていくと、地下1階ではうっすら感じる程度だったニオイが地下3階から明らかに実感できる強さになっている。作業中のバキュームカーに遭遇した時などに漂うあの香りだ。
いよいよ地下5階に到着。気圧差を維持するためか、展示室と入口はしっかり自動扉で隔離されている。
ここで15年7月に発生したゲリラ豪雨の時の下水道管の中を記録した映像を見ることができる。下水道管は家庭からの下水と雨水が一緒に流れる共用管であるのだが、ほんの数分で本当に下水道管が埋まりそうなくらいに水があふれて、ゲリラ豪雨の恐ろしさを思い知らされた。
こういった下水道がなければあっというまに地上は雨水があふれて水害になってしまうのだ。当然、このような緊急時に備えて下水道管を密閉できる防水扉が二重に設けられている。潜水艦の水密扉と同じ仕組みの重厚な扉が待ち構えていて、ものものしい。
いよいよ地下20メートルの正真正銘の下水道の中に足を踏み入れる。直径4.5メートルの小平市でも最も太い下水道管のひとつだ。
この日は晴天で雨はなく、生活廃水ばかりが流れてくる。先ほど見た映像とはうって変わって下水管の下部に小川のように静かに流れている。しかし、この上流で別の下水管が合流していて、そこの轟音が絶えず響いてくる。当然上流も下流も真っ暗闇で、音と臭気と闇が何か畏怖の念を思い起こさせた。
こうして24時間365日、小平市民の排出する下水を処理場に送っている。何か変わったものでも流れてこないか......と思ったが、時折白い粉末のようなものが流れてくるくらいだった。
ちなみにニオイの方だが、下水道管に入るまでは結構気になっていたのだが、展示室に戻ると逆にほとんど臭気を感じない。鼻が慣れてしまったのだろうか。館外に出るころにはすっかり下水道っぽいニオイは感じなくなり、空調の巧みさも実感した。
今は冬だが、季節によって水量や臭気に変動があるのか職員さんに聞いてみると、季節ではあまり変動はない、それよりも天候や時間帯の影響が大きいという。
晴れていれば水量は少なく、休日の午前中は皆さんゆっくりとトイレやキッチンを使うので水量が多くなるそうだ。夏に行っても安心だろう。もっとも気圧差でコントロールしているので、低気圧の日などは強いニオイを感じるかもしれないとのこと。
重厚な現役の下水道を体感できて、それでいて入場料は無料。産業観光好きの方にぜひおすすめしたい場所。付近は緑豊かな文教地区で、地上の清潔な環境も地下の下水道網のおかげだと感謝したくなる。無言で都会を支える水道インフラと、それを維持するシステムと人にも興味がわいてくる施設だ。