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日本で唯一!「ボートレーサー養成所」の修了式を見てきた

Jタウンネット編集部

Jタウンネット編集部

2018.03.29 12:00
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公営競技であるボートレースの選手「ボートレーサー」はプロスポーツ選手だ。スポーツ選手とはいえ、「モーターボートが好きです!」と希望すれば誰でもなれるわけではなく、養成所の入所試験に合格後、訓練を受け、無事修了した人だけがボートレーサーとなれる。

そんな「ボートレーサー養成所」は国内に1か所しかない。有明海に面した福岡県柳川市だ。ボートレースの知識は学生時代に少し読んでいた『モンキーターン』どまりで、「宮島にボートレース場があったな」くらいの知識しか持たないJタウンネット記者に、2018年3月23日に行われたボートレーサー養成所の第122期生の修了式を取材する機会が巡ってきた。

修了式に先駆け、同日修了記念レースも開催されると聞き、人生初ボートレース観戦もできると、記者は早速柳川市に飛んだ。

養成所内のコースで繰り広げられるレースを目の前で観戦してきました
養成所内のコースで繰り広げられるレースを目の前で観戦してきました

性別も年齢も関係ない真剣勝負の世界

記者の『モンキーターン』知識では養成所は山梨県にある本栖湖のイメージだったが、2001年に柳川市に移転。以降は国内唯一のボートレーサー養成所となっている。

養成所は柳川市の南、有明海に面した干拓地の先端にあり、周囲は一面の畑だ。西鉄柳川駅から車で15分ほどの場所になるが、タクシーの運転手さんから「ここまで来るとなにもないですからね」と言われたことからもお察しいただきたい。

養成所は一言でいうと「綺麗」。所内の設備も充実していた
養成所は一言でいうと「綺麗」。所内の設備も充実していた

修了記念レースは午前8時から開始されるとのことで、記者も7時30分には養成所に着いていたのだが、朝の海沿いは3月末とはいえ冷え込む。そんな寒さの中、養成所の門には礼服を着た在所生たちが並び、来所者たちに敬礼をしていた。

そう、養成所はただボートレーサーとしての知識や技術を学ぶだけでなく、「礼と節」を重んじた教育方針を掲げているのだ。非常に厳しい礼節教育が行われていると聞いていたが、実際に目にするとその徹底ぶりがよくわかる。

こちらは帰りの見送り時。在所生に加え教官も立っていた
こちらは帰りの見送り時。在所生に加え教官も立っていた

記者の取材に答えてくれた養成所の教官によると、4月入所と10月入所に合わせて年に2回入所試験が実施されるが、1000人を超える志願者に対し募集人数は50人程度となる。今回終了した第122期生の場合、51人が入所し、修了したのは約半数の26人(うち3人が女性)。狭き門を潜り抜けても、さらに厳しい訓練で選び抜かれたメンバーに絞り込まれていくわけだ。

今回修了式を迎えた第122期生26人。皆さん良い表情でした
今回修了式を迎えた第122期生26人。皆さん良い表情でした

そんな選び抜かれたメンバーによる修了記念レースということもあり、当日実施された5回のレースは記者の目にはどれも迫力ある内容に映った。現役レーサーと思われる観戦者からは「まだまだ」との声も聞こえたが、素人の記者はボートの速さや水しぶき、エンジンの音に圧倒される。

レース競技としての「かっこよさ」や「臨場感」は、他のモータースポーツに負けないと言えるだろう。

記者の腕でコーナーのせめぎ合いの迫力が伝わらない...
記者の腕でコーナーのせめぎ合いの迫力が伝わらない...

ところで、修了生や在所生たちはなぜボートレーサーを目指すのだろうか。レース中の修了生に取材するわけにはいかないので、スタッフとして会場にいた礼服姿の在所生たちに、少し話を聞いてみることにした。

養成所の礼服。女性用も男性用もかっこよかったです
養成所の礼服。女性用も男性用もかっこよかったです

「兄弟や親類がボートレーサーなのでボートレースに憧れがあった、身近だった」という声も聞かれたが、純粋にボートレースがかっこいいと思ったからという在所生も。23歳の女性在所生は、

「『モンキーターン』を読んで、ボートレーサーになりたいとずっと思っていました」

と答えてくれた。『モンキーターン』の影響力恐るべしだ。別の女性在所生はお兄さんが現役レーサーとのことで、「兄妹対決がしたい」と話してくれた。ボートレースは男女混合レースもあるため、彼女が無事修了すればその夢が叶う機会もありそうだ。

眩しくてかっこいい修了生たち

修了記念レースと修了式が無事に終わったあと、修了生に取材をする機会があり、何の知識も持たない記者が単純に気になった、3人の修了生から話を聞くことにした。在所生たちの眩しい話を聞いていると、これからボートレーサーとして活躍する修了生からもいろいろと聞いてみたくなったのだ。

まず取材に応じてくれたのは、現役ボートレーサーの原田富士男さんを父に持つ、原田才一郎さん。修了生内のチャンピオンを決める修了記念レース「養成所チャンプ決定戦」で勝利を飾ったレーサーだ。

第34代養成所チャンピオンの原田才一郎さん
第34代養成所チャンピオンの原田才一郎さん

福岡出身ということもあり、養成所チャンプ決定戦もホームタウン感があり、福岡代表のつもりで挑んで勝つことができたと笑顔で語ってくれた。

「養成所では技術だけでなく、プロとしての立ち振る舞いを学ぶことができました。エンジンの音や匂いを感じさせる走りで、ボートレースの魅力を伝えられるレーサーになり、父を乗り越えたいと思います」

2人目は、かつてシンクロナイズド・スイミング日本代表にもなったことがあるという計盛光(かずもり・ひかる)さん。そこまでのキャリアを捨てて、ゼロからボートレーサーを目指した理由はなんだったのか。

笑顔がとても素敵だった計盛光さん
笑顔がとても素敵だった計盛光さん

「シンクロでは身長の低さが減点対象、ハンデになってしまいます。だったらいっそ、身長の低さが武器となる、強ければ勝てる競技の世界で戦いたいと考えました。モータースポーツが好きだったということもあり、ボートレーサーを目指すことにしたんです」

計盛さんは笑顔で答えてくれたが、これまでやってきたことを捨てるというのは、かなり勇気がいる判断のはずだ。同じようにこれまでのキャリアを捨ててボートレーサーに転向した人はもうひとりいる。修了生の中で最年少となる17歳の平川香織さんだ。

東京都杉並区出身の平川香織さん
東京都杉並区出身の平川香織さん

平川さんも10年近く続けていたフィギュアスケートを辞め、ボートレースの世界に飛び込んだ。そのきっかけは、フィギュアで伸び悩んでいたとき、父親に連れられ加藤峻二さん(73歳という現役最年長記録を持つレーサー)の引退レースを見たことだったという。

「年齢も性別も関係なく、努力をしたレーサーが勝つ姿を見て、自分のやりたいことはボートレースだと感じました。フィギュアを辞めることに悩まなかったわけではありませんが、後悔はまったくありません」

3人とも眩しすぎるくらいにかっこよく、とてもいい目をしていたことが印象に残った。「夢に向かって突き進む」なんてなかなか使わない言葉だが、今回がその使いどころではないだろうか。

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