伝統文化で「NIPPON」を発信したい... ワサビをつまみながら、プロダクトデザイナーに熱く語ってもらった
三十路目前となった、JタウンネットのK編集長。そろそろ周囲の同年代は、結婚や出産など、次のステージへと突入しつつある。そんなある日、中学時代の友人から、売り込みがあった。
「食器をデザインしたから、紹介してくれないか」
コンセプトは「わさび好きのための醤油皿」。佐賀の窯元と組んだプロジェクトだといい、とりあえず話だけでも聞いてみようと、編集部に招いた。
その名も「山葵山」
境悠作さん。高校卒業後に渡米し、経済学を専攻するが、帰国後はデザインの専門学校へ進んだ。現在は「FROM NIPPON」なるプロジェクトを立ち上げ、全国各地の地場産業や、伝統技術を生かしたプロダクトデザイナーとして活動している。
そんな彼の新作が「山葵山(わさびやま)」だ。肥前吉田焼の磁器ブランド「224porcelain」(佐賀県嬉野市)との共同プロジェクトで、クラウドファンディングで量産化のための資金調達を行っているという。
――(わさびチューブを手渡して)じゃあ、盛り付けてください。
「んー、あんまり美しくない......。ちょっと待った、これは整える。イメージとして、これはあんまりよくないよ。土台が結構大事なの」
――見た目のためだからって、食べ物をツンツンするんじゃないよ。まあ、わさびだけ食べるのもアレだから、ワカメといっしょに一杯やりましょう。
――乾杯。それで、どうやって食べるの?
「まず、わさびを取るわけよ。それで、ワカメに乗せて、巻いて、醤油をつけると。そして食べる......わさびの風味が残りながら、醤油も味わえる。うまい」
「伝統文化を発信する立場になりたい」
――じゃあ、改めてインタビューを。そもそも、なんで佐賀なの?
「きっかけは、肥前吉田焼のコンペ。肥前吉田焼は、歴史が深い『有田焼』とか、いま流行ってる『波佐見焼』とかと同じで、原料に陶石(とうせき)を使っているのに、取り残されてる感がある。そんななかで、『224porcelain』って窯元が独自にプロダクトデザイナーとコラボレーションを続けていて、そことのやりとりで生まれたのが『山葵山』。結局コンペには落ちちゃったんだけど、教えてもらったポイントを改善して、改めて産地で交渉して、制作に至ったのよ」
――アメリカでは経済を学んでいたのに、こっち帰ってきてから、プロダクトデザイナーを目指したよね。なんで、こんな進路にしようと思ったの?
「経営とか経済を勉強した後に、会社とか『大きな仕組み』ではどうしようもないことを手助けしたいな、と思ったんだよね。それで小さくて、具体的な『論理』であるデザインを勉強して、デザインと経営の融合を目指すようになった。アメリカに居るときに日本を再認識したこともあって、『日本の伝統文化を発信する立場になりたいな』と。それで専門学校の卒業制作から、『FROM NIPPON』プロジェクトを始めたんだ」
「ずっと社会を作りたかった。社会を改善することで、誰かを良くしたかった。でも、いかに経済学が進歩しても、誰かが絶対に割を食う。いくらお金を刷っても、零細中小は救えない。彼らに具体的に、かつ手早く、『変える手段』を提供するには......と考えると、設備投資でも経営コンサルでもなく、デザインだと思った。見せ方や伝え方を変えるっていう、最小の手法で最大の効果を得られる手法が『デザイン』だなって」
目標金額は30万円
「山葵山」はすでに、外国のレストランに納入実績があるという。さらなる生産量を確保したいが、国内でBtoCでの販路に乏しく、知名度もないことから、クラウドファンディングに乗り出したそうだ。
「このご時世、作り手(職人)の後継問題の議論が盛んだよね。でも、もっと深刻なのは、原材料を取る人なのよ。高齢化が進んで、若い人を入れるために、給料を上げなきゃいけない。でも給料を上げると、原料費も上がる。その価格差をおさえるために、作り手は消耗する、って構図を持ってるんだよ。彼らをどうにかするには、一定の生産量を確保しなきゃいけない」
クラウドファンディングは「ReadyFor(レディーフォー)」で、2017年8月31日まで支援募集を行っている。支援額が30万円に達した場合のみ、プロジェクトは成功となる。
せっかくなので、皿を持ってポーズを決めてもらったが、照れがあるからか、変な表情ばかり撮れてしまった(この写真はマシな方です)。