好きをレベルアップする
野球に学ぶ「これからの生き方」
~世界大会三連覇・少年野球監督が語る野球の魅力と底力~
NPO法人「ベースボールスピリッツ」理事長で、少年野球チーム「宝塚ボーイズ」監督の奥村幸治さん。
かつてはイチローのバッティングピッチャーを務め「イチローの恋人」といわれ、少年野球チーム結成後は、現在ニューヨーク・ヤンキースで活躍する田中将大の才能を見いだし、キャッチャーからピッチャーへ転向させたほか、世界少年野球大会(カル・リプケン杯)では日本チームを3連覇に導いた指導者です。
奥村幸治著『野球に学ぶ「これからの生き方」』(扶桑社新書)には、
人間力を高めるヒントがいっぱいです。
ここでは数回に分けて本書のエッセンスを抜粋して紹介しています。
連載5回目のテーマは「好きをレベルアップする」
プロ野球「47年会」大好きな野球を次の世代に伝える場
「47年会」は昭和四七年生まれのプロ野球関係者が集う親睦会で、当時西武ライオンズにいた高木浩之選手と木村拓也選手、稲葉篤紀選手が中心になってはじめたものです。高木、木村、稲葉の三人があるとき「この席に今度、オク(奥村)を呼ぼうよ」ということになったのですが、昭和四七年生まれには、ほかにも西武、中日ドラゴンズで活躍した和田一浩選手、西武の西口文也投手などスター選手がたくさんいて、そんなところに顔を出すのはおそれ多いと最初はお断りを入れました。
しかし「いや、そうじゃないんだよ。いま、活躍しているものも、いつまで続けられるかわからない。現役を引退するときがやってくる。これからも野球の世界でずっと生きていけるとはかぎらない。でも、皆、野球の世界しか知らないんだから、お前のような人間、少年野球の指導者として、野球以外の世界と接点のある人間の話が聞きたいんだよ」と説得され、そういうことならばと引き受けたものです。木村拓也が会長、事務担当が私となり、木村亡きあとも、事務を守っています。
当初は、皆でゴルフをして温泉に浸かって、食事をしながら好きな野球談議をする会だったのですが、もう少し、さらに有意義なことをしようということになり、この「47年会」で「少年野球教室」を開催することにしました。いまでも一五人前後が指導者やスタッフとして参加をしています。
少しオーバーないい方をすれば、同世代の野球人が、自分たちが大好きな野球を自分たちで語り合う場からスタートした「47年会」が、その大好きな野球を次の世代に伝える場に、そして世代を超えて皆が大好きな野球を共有できる場になっているともいえるでしょう。
ある日、「47年会」のメンバーと「どうしてプロの選手になれたのか」という話になったことがあります。「結局は野球が好きだということに尽きるね。小さいころから野球が好きだという点では誰にも負けなかった」ということで皆が一致しました。もちろん、好きというだけではプロ野球選手にはなれません。十分条件ではないけれど、しかし「好き」という気持ちが原動力になります。私もプロでは活躍できなかったけれど、野球を嫌いになったことはありません。父の熱血指導を受ける私を見て、四歳上の姉がかわいそうと感じてくれたこともあったようで、また、着るものにもあまり構わなかった私を見て中学生のときには「あんた、そんなだっさい服を着てたら笑われるで」と誕生日に服をプレゼントしてくれたこともありましたが、やめたい、嫌だと思ったことは一度もなく、好きな野球一筋でここまで来ました。