田中将大に逆転勝ちが多い、その理由
野球に学ぶ「これからの生き方」~世界大会三連覇・少年野球監督が語る野球の魅力と底力~
ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手。
春先に頭にデッドボールを受けた影響もあり、本格スタートが遅れ、まだまだ本調子とはいかないようですが、それでも勝ちが先行しています。きっとこれからもっとギアが入るのでしょう。彼の強みのひとつは「逆転勝ち」が多いこと。少年時代、田中将大の才能を見いだし、キャッチャーからピッチャーへ転向させたNPO法人「ベースボールスピリッツ」理事長で、少年野球チーム「宝塚ボーイズ」監督の奥村幸治さんの新刊書『野球に学ぶ「これからの生き方」』(扶桑社新書)から、そのあたりをピックアップしてご紹介します。
ピンチに動じない「気持ち」
星野仙一監督時代の楽天のキャンプを見学したときに松井稼頭央選手が声をかけてきてくれました。
私が西武でバッティングピッチャーをしていたとき、松井選手はまだ新人で、スイッチヒッターに挑戦していました。もともとの右打席でなく、左打席に立つとき、打ちやすい球でまずは感覚をつかむという考えもあったのかもしれませんが、試合(実践)に近いさまざまなボールを要求されました。そして、スイッチヒッターに転向して一年も経たないうちにプロのピッチャーから右でも左でもホームランを打ったのですから、すごい才能の持ち主であり、努力の人です。その松井稼頭央選手が「マー君ってすごいですね」と声をかけてきてくれたのです。
田中将大のすごいところはピンチになると気持ちのスイッチを入れ直せること、負けてたまるかというオーラが全開になるので、それをバックで見ていると、よし、しっかり守ってやるかという気になると教えてくれました。ふつうはピンチを迎えると、弱気になって下を向くか、動揺してあたふたするか、頭に血が上ってカッカして自分を見失うかですが、将大は冷静を保ちつつ、ギアをもう一段上げる、まさに気持ちを入れ替えるのです。
松井選手は西武からニューヨーク・メッツへ移籍。日本人初の内野手メジャーリーガーです。入団数年の若者がメジャーリーグで六年半活躍した遊撃手に「それなら、俺らも」とその気にさせる。「点を取られても取り返してやろう」と思わせるものをもっていたということなのでしょう。
あり得ない逆転勝ちから「マーくん、神の子、ふしぎな子」が生まれた
たとえばこれは野村監督時代ですが、二〇〇七年七月三日のソフトバンク戦で楽天は六回に七連打などで七点を奪い、八対六で逆転勝ち。先発の田中将大投手が六勝目を挙げています。「『連打は一番確率の低い点の取り方。それが出たというのはマー君マジックだ』と指揮官・野村監督は上機嫌だった」という記事がありました。
そして翌月の八月同じソフトバンク戦でも序盤に五点リードされるもやはり逆転勝ち。有名な「マーくん、神の子、ふしぎな子」という言葉が生まれます。詳細なデータを確認していませんが、将大の勝利数のなかには逆転勝ちが多いように思います。少なくともそんなイメージを抱かせるのも、将大の気持ちの強さによるものでしょう。
※補足
田中将大選手が中学校2年生のとき、兵庫県大会での決勝。ツーアウト満塁の同点・逆転のチャンスに打順がまわってきます。しかし、プレッシャーに負けて中途な半端バッティングで敢えなく凡退。尊敬する先輩たちの全国大会出場の夢をたってしまったと大泣きしたのです。そこが彼のターニングポイントとなりました。悔いないように気持ちを入れる、入れ直す。田中選手のグローブには「気持ち」という文字が刺繍されています。上の写真は田中将大(マー君)がプロ入団が決まったときに、自分がお世話になった感謝のしるしにと「宝塚ボーイズ」に贈ったユニフォームで、袖の部分に「気持ち」が入っています。
第1回 「白スパひとつ!」に少年野球監督の目が点
第2回 田中将大に逆転勝ちが多い、その理由
第3回「田舎では満足なチームはつくれない!」はほんとうか?
第4回 チャンスはつかむもの? チャンスはつくるもの
第5回 好きをレベルアップする!
第6回 常に準備しておく
第7回 SDGsと野球