「どこにでもあると思ってた」「親として自慢できるゲーム」 津軽人しか知らない謎の存在「イモ当て」とは何ぞや?
2023年8月16日、X(ツイッター)に次のようなポストが投稿され、話題となっている。
「え、イモ当てって青森の人しか知らないって本当??? どこにでもあると思ってた。。。」
投稿者は、津軽弁YouTuber「すんたろす」(@tsugaru_bigface)さんである。「津軽弁の先生によるフランス語の授業」「Siriに津軽弁で話しかけまくったら......」など、抱腹絶倒ネタの動画で楽しませてくれる「すんたろす」さんが、今回言及したのは、「イモ当て」だ。
いったい、何のことだろう? 読者はご存じ? 次の写真が、その「イモ当て」だ。
筆者にはコレが何かまだわからないが、すんたろすさんの投稿には、こんな声が寄せられている。
「イモ当て知らない人いるの??」
「全国共通でねぇの? 青森しか知らねぇの?」
......という人もいれば、
「三沢市生まれ南部地方育ちですが、知らないのです」
「ワダスもすらねぇ。。。(in八戸)」
......という声もあった。同じ青森県でも、津軽と南部ではいささか事情が違うようだ。
「イモ当て」とはいったいどんなモノなのか? Jタウンネット記者は、まず津軽弁YouTuberすんたろすさんに話を聞いた。
津軽人は知っているが、津軽以外の人は知らない
津軽弁YouTuber「すんたろす」さんによると、「イモ当て」が青森独自のものだと知ったのは、つい最近のことだったらしい。東京都内にある青森県の物産館の中で、東京出身者が「イモ当て」を知らなかったことで、初めて気がついた。「当たり前に駄菓子屋に置いてあるものだと思っていたから......」と語る。
そう。「イモ当て」は駄菓子なのだ。
SNSの反響の中で印象に残ったのは、「青森県内でも、津軽地方の人は知っているが、津軽以外の人は知らないこと」だったようだ。
津軽地方の人だけが知っているらしい「イモ当て」とは......? 製造元である佐藤製菓(弘前市)に話を聞いてみよう。
Jタウンネット記者の取材に応じたのは、佐藤製菓の佐藤力雄代表だった。
「イモ当て」は、同社では「津軽当物(あてもの)駄菓子」というカテゴリーの商品だという。いつ、どんなきっかけで生まれたのか、聞いてみた。
「昭和初期には津軽地域ですでに作られていたそうです。初代の助一も子供のころから親しんでいて、戦後に製造していた数件あったメーカーの一つに修行に入り、覚え、独立開業したのが佐藤製菓です。そのころのくじ紙には閻魔大王が描かれ、練りきりの生菓子が大王(大王当て)と呼ばれていたそうです」(佐藤力雄代表)
「津軽当物駄菓子」の発祥は、昭和初期の「大王当て」だったようだ。そしてその最盛期は、戦後、昭和20年後半~30年中頃だったという。
「メーカーも6、7社あり競い合ってお菓子を作っていました。お菓子を大きくしたり、キャラクターものにしたり、くじのあたりを『大王』の上に特賞を付けたり、様々な方法で射幸心をあおりがらも子供たちに楽しみを与え、そして自らも生活の糧として作られ続けて行きました」(佐藤力雄代表)
起死回生の大ヒット「イモ当て」
その後、団塊の世代の子供達は成長し、集団就職し、少子化が進み、駄菓子屋が減り、昭和40年頃には駄菓子メーカーは弊社1件しか残らず、佐藤製菓も苦境に立つ。そんな中、ヒットしたのが「イモ当て」だった。
「弘前周辺では、生菓子の『大王当て』、これに対抗するのが青森市周辺で人気の合った生菓子の『あん玉』があり、青森市に『大王当て』を持って行ってもほとんど売れず、商圏は弘前周辺だけでした。この餡ドーナツを2つに切った形の『イモ当て』は青森の商圏でも受け入れられ、大ヒットとなり、佐藤製菓を立て直すことができました」(佐藤力雄代表)
昭和の終わりころから、団塊の世代が里帰りする「お盆、お正月」に、子供のころの故郷を懐かしみ、家族や友達同士、その子供達と一緒に楽しむようになってきたという。さらに、お土産として持ち帰るようにも......。販売先も、駄菓子屋ではなく、菓子問屋やスーパーや百貨店で、お盆・お正月用品として、箱ごと販売されるようになってきた。
「イモ当て」「大王当て」の楽しみ方は、写真上をご覧いただこう。
台紙にくじが貼られており、家族で、あるいは友人同士数人で、順番にくじをめくって遊ぶ。親が出ると、大きなお菓子がもらえ、子を引くと、小さなお菓子がもらえるというルールだ。「大王当て」の場合は、閻魔大王が出ると、さらに大きなお菓子がもらえるという。
くじをめくり、親が出ると、大きなお菓子をほお張る。思わずニッコリ、歓声も上がる。単純といえば、単純なルールだが、これがやたら盛り上がるらしい。
「子供の頃の心境を思い出し、くじを引いて、皆で思い出を語りながら、そして味わう」と、佐藤代表も力説する。「津軽人にとっては、故郷としての津軽と子供の頃の思い出が重なり、そしてその子供に伝え、一緒に喜び、親として自慢できるゲーム」と、佐藤代表のトーンはかぎりなく上がっていく。
「イモ当て」で盛り上がる津軽出身のオヤジたち。津軽弁YouTuber「すんたろす」さんの動画で見てみたいネタかもしれない(ついて行けるかどうか、ちょっと自信ないが......)。