まさか「ダイダラボッチ」? 山の中からこちらを見つめる巨大な「目」の正体とは
「夜とか絶対怖いやん」
「妖怪のダイダラボッチみたいだ」
「何のためのものですかね?」
2023年8月9日、X(ツイッター)上に投稿された画像にそんな声が寄せられた。
話題となった実際の光景が、こちらだ。
樹木が生い茂る山の中、じっとこちらを見つめてくる2つの目。ただそれだけで、山が1つの巨大な生物のように見えてくる。
こちらは東京在住の写真家・えぬびい(@enuenuenubi)さんが
「私たちが山を見る時、山もまた私たちを...」
と呟きながら投稿した写真の内の1枚だ。
10日、Jタウンネット記者がえぬびいさんに話を聞いたところ、撮影したのは23年春、場所は神奈川県相模原市。 えぬびいさんはマップを見ていた際に偶然この「目」を発見したそうで、現地を訪れ、衝撃を受けたという。
「山一つ丸ごとをアート作品にしているような巨大さと見た目の奇妙さに驚きました。
遠目で見るとしっかり「目」だし、近くに寄って見てもしっかりと「目」でした。作品のクオリティの高さにも感動しました」(えぬびいさん)
一体だれが、何のために作ったのか。
Jタウンネット記者が「目」のある相模原市役所・藤野まちづくりセンターへ問い合わせたところ、14日、目を制作した本人に話を聞くことができた。
「山の目」の謎が判明
制作者は相模原市在住の造形作家・高橋政行さん。話題となっている作品は「山の目」という野外アートだ。
1988年、神奈川県と旧藤野町(現在は相模原市に合併)が立ち上げたアートで地域振興を活性化させる「ふるさと芸術村構想」。
「山の目」はその第一弾の企画として行われた野外環境彫刻展のために制作された。
これからの時代は「人間が環境とどう向き合うか」がテーマになると感じていた高橋さんは、作った作品を野外に置くという発想ではなく、自然環境の宝庫である旧藤野町の自然を主人公にするとの思いから、この「山の目」を考案したという。
「山が見る人に何かを伝えようとしてきているという意味合いで、結果的に山そのものに人格を持たせるというデザインを考えました。
目というのは人に対する『認識力』という意味では一番アピールできるシンボリックなものなので、主人公を自然そのものにするという発想です」(高橋さん)
制作に使用した材料は木の枝やキャンバスシートなど。目玉の真ん中部分は完成当時から現在まで、変わらず同じ真鍮の円盤を使っている。
車や重機は使えなかったため、材料の運搬などは全て人力で行った。確認や修正を挟みながら、一ヶ月半ほど毎日山に通い続けて制作したという。
地元の子供には...
「山の目」は当時全国紙にも取り上げられ、多くの人が訪れ、話題となった。その結果、元々は2週間限定の展示予定だったものが、旧藤野町からの依頼を受け、恒久展示になったという。
制作の翌年には金属のフレームやポリエステルのチューブなどを使用し、作りをより丈夫なものへと変更。以降、手入れをしながら、現在まで維持されている。
高橋さんによれば、この作品は地元の子供に非常に反応が良いのだそう。
子供たちが「山がぼくらのことを見ているよ」とストレートな反応を見せてくれたことに、高橋さんも喜んだという。
「写真で見る印象と、現場に行って風景として山の目を眺めた時の印象は全然違うものなので、実際に見た人がなんらかの感動を持ってくれるかなと思っています」(高橋さん)