なぜ自販機で?何この名前? 謎すぎる「防空壕きくらげ」の正体を、生産者に聞いてみた
キクラゲって、「クラゲ」ってついているのにキノコだし、妙にビロビロしているし、食感も独特。
ただでさえ不思議な食べ物なのに、さらに不思議さを1段階も2段階もアップさせた「キクラゲ売り場」の存在がツイッター上で注目されている。
こちらは、埼玉県在住の作家・石持浅海(@Ishimochi_Asami)さんが2023年6月25日に投稿した写真だ。
茶色を基調としたシックな自販機で、なんとキクラゲが販売されている。しかも、ただのキクラゲではない。「防空壕きくらげ」だ。
何から何まで、意味が分からない。なぜキクラゲ? なぜ自販機? なぜ防空壕?
Jタウンネット記者は27日、まず発見者の石持浅海さんを取材した。
なぜ「防空壕」なの?
石持さんが自販機を発見したのは24日の13時半ごろ。小田急線栗平駅(神奈川県川崎市)から徒歩10分ほどの場所だったという。
「近くを歩いていて、偶然に見つけました。近くにはお寺と学校くらいしかないので、誰が買うんだろうと不思議に思いました」(石持さん)
自販機を設置したのは、川崎市のヒーターメーカー・熱源。7月16日、同社社員で「防空壕きくらげ」の生産を担当する小山仁美さんに話を聞くことが出来た。
小山さんによると「防空壕きくらげ」は、なんと文字通り「防空壕で栽培しているきくらげ」。
自販機の近くに栽培所があり、興味をもって訪れた人たちから「ここでは売ってないの?」という問い合わせが多く寄せられたため、6月24日に専用自販機が設置された。
なぜ防空壕できくらげを作ることになったのか。はじまりは、小山さんが防空壕のある土地を購入したことだった。
戦争の時代を忘れないために
防空壕の存在は、土地の購入後に分かった。そこで調査してみると、終戦1年前に発令された学童疎開により常念寺(川崎市麻生区栗木)に来ていた、川崎市川崎区の大島国民学校の39人の女子児童を守るため、日本軍が掘っていたものだと判明した。
「そういう時代をあったことを忘れない為、弊社の代表が『誰もが見に来られるようにこの防空壕を保全して残す』と決意しました」(小山さん)
しかし、どのように発信すればいいかわからず、誰も防空壕を見に来ない。そんな状況が1年ほど続いた。そこで、防空壕を何らかの形で有効活用して発信することに決め、行きついたのがキクラゲの栽培だった。
防空壕の中は、夏は25度、冬は15度程度。キクラゲが成長するのは20度~25度なので、栽培に適していた。また、冬場は少しヒーターを活用することで、夏の期間しか育たないキクラゲを一年中収穫できるように。そうして作られたキクラゲに、「戦争の時代を忘れない」という思いをこめてつけられたのが「防空壕きくらげ」という名前だ。
「購入して帰った人が、家庭で『防空壕って何か知ってる?』という話から、戦争や平和について語り合うきっかけになっていただければ幸いです」(小山さん)
「防空壕きくらげ」の自販機は栽培所の付近だけでなく、川崎市麻生区の麻生郵便局前にも設置されている。