爽快!そして、壮大! 福井・三方五湖をチャリで巡ってみた結果→「地球の歴史」を感じちゃった
「ここ最近、ほとんど家の外に出ていない」――ある日、Jタウンネット記者は唐突にそのことに気付いた。
テレワークやリモートワークが日常になったため、ほぼ一日中自宅にいる。結果、ちょっと運動不足気味に......。
休日にはちょっと遠出して、なまった体を動かしたい。ついでに綺麗な景色を見たり、美味しい物を食べたりしながら楽しく運動したい。そんなわがまま極まる望み(きっと共感してくれる人も多いはず!)を抱いた記者は、まさにドンピシャなスポットを見つけてしまった。
ズバリ、福井県若狭町にある5つの湖......総称「三方五湖」だ。ここに、美しい湖の景色を眺めながら湖畔を自転車で巡り、道中では地元の名産品まで頂けるサイクリングコースがあるという。記者はなまった体に鞭を入れ、さっそく新幹線に飛び乗った。
漁村風景の中をサイクリング
1日目
スタート地点は美浜駅
普段滅多に遠出をしない分、のんびりとサイクリングやグルメを楽しみたかったので、記者は1泊2日の行程で三方五湖を巡ることにした。
そのルートは、こんな感じ。
スタート地点はJR美浜駅。駅内にある若狭美浜観光協会では、いわゆる「ママチャリ」からロードバイクやクロスバイクまで色々なタイプの自転車をレンタルできるのだ。
記者が借りたのは電動アシスト付きのママチャリ「電動アシスト自転車26型」。この自転車の場合、レンタル代は1泊2日分で2400円(観光協会会員宿に宿泊の場合。税込み、以下同)で、ぐるっと回って三方駅で返却する予定なので、乗り捨て代1000円もここで支払っておく。
こちらが、今回の旅で記者の相棒となったレンタサイクル。番号が24(にし)番だったので、勝手に「ウエスタン号」と名付けることにした。2日間よろしく、ウエスタン号!
......と意気込んだものの、記者が美浜駅に着いた時にはなんだか一雨来そうな曇り空に。この日のサイクリングは短めにして、宿でゆっくりすることにした。
久々子湖と日向湖と若狭湾
美浜駅を出発して市街地を抜けると、三方五湖の1つである久々子(くぐし)湖が見えてくる。
南北に伸びた長い形が特徴のこの湖が、記者が最初に出会った「三方五湖」の一部。この規模の湖があと4つもあるなんて、なんだか想像がつかない。このあたりの人たちはきっと「湖と共に生活しているんだな」という感慨が、漠然と湧いてきた。
晴れていればボートで湖を回ってみたかったが、今回はそのまま北上。湖を横目に見つつ北岸を走り終えたら、次の湖・日向湖(ひるがこ)までは一旦湖畔を離れ、山道の集落を走る。このあたりで、いよいよポツポツと小雨が降り始め......日向湖に辿りつくと、こんな景色が待っていた。
運河を通じて日本海と繋がっている日向湖北岸沿いに細く長く立ち並ぶ日向集落は、まさに「昔ながらの漁村」といった雰囲気。家々の目の前に漁船がとまっている。
晴れていても絶景だろうとは思うが、雨でけぶったこの光景も幽玄な雰囲気で美しかった。というか、翌朝は晴れていてその美しさも見ることができたので、1日目が雨模様だったのは逆にラッキーだったかもしれない。
民宿「入舟」で1泊
この日、記者が泊まったのは旅館「入舟」。若狭湾と日向湖を同時に臨める場所にある民宿だ。
汗と雨でベトベトな記者を優しく出迎えてくれたのは、若女将の宮下いずみさん。せっかくなので日向湖周辺の見所をきくと四季それぞれに魅力があると教えてくれた。
「例えば、冬の雪が降る日向湖の景色なんかは、地元の人間でも綺麗やと思うくらいです。それに、冬は寒ブリをはじめ若狭湾や日向湖で獲れる魚が美味しいです。
でも、夏は夏でアワビやアマダイなんかが美味しいです。旅行に来るなら全シーズンおすすめですね」
う~ん、それはぜひとも全シーズン制覇してみたい。
宮下さんと話していると、少しだけ雨が上がったので外に出ると、夕焼けで空と海が色づいていて、美しかった。
360年前に作られた人工水路
2日目
日向湖沿いを通って浦見川へ
雨が止んでいたのもつかの間、夜には激しい雷雨になったので1日目は早めに就寝した記者。ゴロゴロと尋常ではない音がしていたが、久々に沢山動いたおかげか、気にすることもなく爆睡していた。
今回は1泊2日朝食付き(6600円)のプランでお世話になったので、入舟で朝食を頂いてから出発。ちなみに、一番人気は地魚を使った料理が付いた「活魚船盛り付きプラン」(1泊2日・1万3000円)なので、ゆったり過ごしたい人にはそちらもオススメだ。
外に出ると、昨晩の雷雨が嘘のようにカラッと晴れた空。その下を、日向湖の東岸沿いにウエスタン号を走らせる。この日最初に立ち寄るスポットは、次なる湖・水月(すいげつ)湖の湖畔にある秘境の温泉「虹岳島温泉」だ。
もちろん、その道中にも見どころがある。たとえば、日向湖の岸を離れ山の中の坂道を駆け上がると辿りつく「浦見川歩道橋」。
この橋の下を流れる「浦見川」は久々子湖と水月湖を結ぶ三方五湖最大規模の人工水路。実に360年ほども前、長雨が続くと湖畔の田畑が水浸しになるという問題を解決するため、2年の歳月と23万人の人夫を使ってかたい岩盤を削って作ったものだという。
浦見川にかかる歩道橋の上からは、久々子湖方面と水月湖方面で、それぞれちょっと雰囲気の違う景色を見ることができる。
自転車で登ってくるのは少々苦労したが、幽玄な水路の景色を眺めているといくらか気分もリフレッシュできた気がした。
水月湖の秘湯で汗を流す
浦見川を渡ったあとは、川沿いにしばらく山を下る。すると見えてくるのは、穏やかな水を湛える水月湖だ。
温泉宿「虹岳島荘」はこの湖に浮かぶように、ひっそりとたたずんでいる。
なぜここに来たかったかというと、10時~15時の時間帯に日帰り入浴ができるから(中学生以上1000円、小学生以下500円。食事つきのプランは要予約)。温泉宿なので宿泊プランももちろん充実していて、宿の社長さんに話を聞くと、湖での釣りを目当てに素泊まりプラン(1泊2日・8950円)を利用するお客さんも多いとか。
「道具は持ち込みですが、初心者でも釣りやすいので、ビギナーの釣り客さんも多いですね。
宿のレストランがすぐ湖に面しているので、湖岸に竿をセットした状態で食事をし、竿が引いているのが見えたらレストランから湖岸まで降りていく、なんて方もいらっしゃるくらいです」(社長さん)
湖畔に湧きでる鉱泉を利用した温泉に、大自然を見ながら入れるだけでも贅沢なのに、その上、食事をしながら釣りもできてしまうなんて! 湖畔の温泉宿ならではといった、贅沢な時間が過ごせそうだ。道具さえあれば、記者もぜひ釣り糸を垂らしてみたかった。
水月湖畔で名物満喫
名物「イカ丼」を食す!
虹岳島温泉で癒された後は、いったん浦見川歩道橋まで戻って橋を渡り、水月湖北岸のコースへ。
浦見川と同じように洪水の対策としてつくられた嵯峨隧道(日向湖と水月湖を繋いでいる)を通り過ぎ、湖畔沿いをグルっと回る。
西岸を走っているとぼちぼちお昼時になり、さすがにお腹が減ってきたところで気になるお店を発見した。その名も「ドライブインよしだ」だ。
お店の前には「イカ丼」なる料理の看板が。どうやらこのお店の名物のようだし、ここはひとつ試してみようか。
というわけで、いざ入店!
お店に入るとまずお土産物などを販売しているコーナーがあり、その左奥に食事処があった。店内はすでに食事をしに来た大勢のお客さんでほぼ満席状態。すごい盛況ぶりである。食事への期待がさらに膨らむ。
「イカ丼」以外にもゲソ揚げやイカミミバター醤油炒め、イカの口の塩焼といったイカメニューや、「ソースカツ丼」や「へしこ茶漬け」など福井ならではのものもある。
迷いながらも、やっぱり名物「イカ丼」を注文した。運ばれてきたのが、こちらだ。
ご飯の上にとろろとイカの切り身が盛られ、刻み海苔とうずらの卵がトッピングされている。
具材をこぼさないように気を付けながら、まずは一口。イカととろろとご飯が甘じょっぱい特製ダレによく絡んでいて、汗をかいた体に染み渡る。混ぜ込まれた大葉とわさびも良いアクセントになっていて、口当たりはねっとりしていながら全然くどくなく、飽きがこない。
実は、記者はどちらかと言えばイカが苦手な方なのだが、気付けばあっという間に完食。これは名物にもなるわけだ、と納得できる美味しさだった。ごちそうさまでした!
2つの湖を回れるレイククルーズ
ドライブインよしだのすぐ近くにある海山桟橋は、水月湖と菅(すが)湖を40分ほどかけて遊覧できる「観光船レイククルーズ」の発着場になっている。
これまで久々子湖、日向湖、水月湖と回って来たので、次は菅湖を巡るべく記者もクルーズに参加......したかったのだが。
この日は出航最低乗客数である4人が集まらなかったため、残念ながら船は欠航。ただ、スタッフさんのご厚意で、特別に船の中を見学させてもらえることになった。
船の1階部分は冷暖房完備の客室になっていて、飲食物の持ち込みも可能だ。また、2階のオープンデッキにはペット(小型犬のみ)と一緒に乗船することもできる。
欠航になってしまったのは残念だったが、船の操縦席なども見せて貰えて、ちょっぴりクルーズ気分を味わうことができた。運行状況は天候にも左右されるが、確実にクルーズに参加したい人は4人以上のグループで訪問するといいだろう。
最後の湖・三方湖の周りに広がるのは...
茅葺きの船小屋
海山桟橋を出発して水月湖沿いを南下していくと、今回の旅で訪れる最後の湖・三方湖が見えてきた。その西岸には、ちょっと珍しい光景が広がっている。
立ち並ぶ茅葺屋根だ。湖に浮かぶように、水辺から直接柱が伸びていて、壁などはない。屋根の下には、小舟がとめられている。
これは「茅葺きの舟小屋」。有名な岐阜県の白川郷と同じ合掌造りで、かつて農作業のために使われていたものだという。
これも名物!福井の「梅」
ところで、入舟での朝食にも、ドライブインよしだのイカ丼にも、同じものが添えられていたことを、皆さんお気づきだろうか。
「梅干し」だ。
何を隠そう、このあたりは梅の名産地。「茅葺きの舟小屋」も、かつて対岸にわたって梅の収穫を行うための舟を係留していた場所だ。そして、湖沿いの道路を走っていると、道路の両脇には梅林が広がり、「○○農園の梅干し」という看板もちらほら。種が小さく果肉が厚い「福井梅」を使った梅干しは三方五湖湖畔の名産品で、実に江戸時代からの歴史を誇っている。
中でも「紅映(べにさし)」という品種は、全国でも福井県でしか栽培されていない希少なもの。マイルドな酸味と豊富に含まれたミネラル分が特徴で、梅干しづくりには最適な品種だ。
そんな福井梅を使った梅干しや色んな加工食品を楽しめるのが、こちらの「梅の里会館」。
ここで販売されている梅干しは、加工から味付けまで全て同館で行われているこだわりの逸品だ。
梅干しだけでなく、お酒やジュースといったドリンク類、ゼリーやどら焼きやおせんべいといった菓子類など充実のラインアップ。福井梅を味わいたい人は、とりあえず「梅の里会館」に足を運んでおけば間違いないだろう。
ちなみに、記者が同館営農部の村上萌さんにオススメの商品を聞いたところ、「うめドリンク」(120円)を紹介された。
サイクリングで喉が渇いていたこともあって死ぬほど美味しかった!
世界に誇る水月湖の「年縞」...って、なんだ?
梅の里会館を出た後も、梅林に囲まれた道がしばらく続く。梅の花が咲くころにサイクリングすれば、さぞ美しく、いい匂いがすることだろう。
そして、いよいよ2日にわたるサイクリング旅も終わりが近づいてきた。記者が最後に立ち寄ったのは、三方湖の南岸にある「道の駅 三方五湖」。
三方五湖の特産品やお土産などが購入できるので、途中で荷物を増やしづらいサイクリングの最後に来たかったのだ。同駅主任の宇野早希さんによると、おすすめ商品は福井梅の甘露煮が入った「梅どら焼」(210円)と、同駅限定品の「水月湖年縞(ねんこう)羽二重餅」(9個入り590円)。
「『羽二重餅』は分かるけど、『水月湖年縞』って、なに?」
そう思った人もいるかもしれない。その疑問は、道の駅のすぐそばにある「福井県年縞博物館」で解決する。
水月湖の湖底には縞模様の地層がある。これが「年縞」だ。
春から秋にかけてはプランクトンの死骸などが、晩秋から冬にかけては黄砂や鉄を含む鉱物などが降り積もることにより「暗い層」と「明るい層」が交互に堆積するため、「縞」が1年毎に出来ていく。層の中には落ち葉や花粉が含まれ、これを見れば当時の自然環境がどんなものだったのかを知ることができる。また、火山灰の層があれば噴火があったことが分かるなど「かつてどんな自然災害が発生したのか」ということも推測できる、いわば「天然の歴史年表」だ。
そして年縞博物館では、実に約7万年分もの年縞の実物(長さ45メートル)がステンドグラスになって展示されている。
この「約7万年分」という長さは、これまで見つかった年縞の中で世界最長。そのためここで得られたデータは世界中の歴史研究や、発掘された人骨などの遺物の年代測定に活用されているという。年縞博物館で見られる水月湖の年縞は、まさに「世界基準」の貴重な"ものさし"なのだ!
ついさっき見てきた水月湖がどんな湖だったか、景色だけじゃなく「内側」までわかって、感慨深い。
「見ても何がどういうものなのかわからないかも」という人も、安心して欲しい。予約をすれば、館内に常駐しているナビゲーターさんがわかりやすく展示の説明をしてくれる。記者も来館した日はナビゲーターさんの案内で展示を回らせてもらった。
自転車を漕いで良い汗をかき、湖の美しい風景やグルメを堪能し、湖の......いや、地球の歴史にまで触れる。当初想像していた以上に充実した2日間だった。
記者のように「全部盛り」なサイクリング旅をしてみたいなら、福井に足を運ぶべし、だ。
<企画編集・Jタウンネット>