もう、ひとりぼっちじゃない。 津波から生き残った「奇跡の一本松」、きょうだいの成長を見守り中
東北地方を中心に甚大な被害をもたらした東日本大震災の発生から11年――。被災地は今も一歩ずつ一歩ずつ、復興に向けて進み続けている。
震災を象徴する松の木にも、11年の間に変化があった。
こちらは2022年8月12日に、ツイッターユーザーの「うがいし手洗いするおいでよ岩手」(@oiwate、以下「おいでよ岩手」)さんが投稿した1枚。同月上旬、岩手・陸前高田市の「奇跡の一本松」周辺を写したものだ。
奇跡の一本松とは、東日本大震災の津波で約7万本あったとも言われる松がほとんど流されてしまった高田松原で、唯一耐え残った松の木のこと。
海水により深刻なダメージを受け、2012年5月に枯死が確認されたものの、その後はモニュメントとして大切に保存されている。
たった1本だけ取り残され、長い間ひとりぼっちの日々を送っていた奇跡の一本松。でも、今はもう違う。「おいでよ岩手」さんは、写真にこんな呟きを添えている。
「一本松が一人ぼっちじゃなくなりつつあるんだ見て」
兄弟たちが近くにいる
写真には、奇跡の一本松の近くに小さな松が複数生えている様子が収められている。まるで奇跡の一本松に仲間がいるようだ。
松たちは一体何なのだろうか。疑問に思ったJタウンネット記者は8月24日、陸前高田市を取材。応じた都市計画課の職員は、次のように説明した。
「周囲の松は奇跡の一本松の後継樹です。奇跡の一本松が生きている頃から接ぎ木などをして育てたものを植樹したものなんです」
奇跡の一本松の周囲にあるのは、その遺伝子を引き継いだ松。「簡単に言うと、きょうだいみたいなものですね」と職員は語る。
その兄弟たちを育てたのは住友林業(東京都千代田区)。19年9月24日付のプレスリリースによると、同社は震災直後から奇跡の一本松の後継樹育成を試み11年に「接ぎ木」と植物を種から育てる「実生(みしょう)」による苗木増殖に成功。その後育った後継樹3本が19年9月、陸前高田市に植樹された。
それから3年。彼らは長兄が見守る中で成長を続けている。
時間をかけて再生していく
そして、奇跡の一本松のそば以外でも、新たな動きがある。
津波によってほとんどが流された高田松原の松林は、約350年前から先人たちが植林を行い、市民の手で守り育ててきた誇り。いま、その再生が始まっているのだ。
岩手県とNPO法人「高田松原を守る会」が主体となり、17年から本格的に高田松原に松を植え始めた。そして、21年5月に4万本の植樹が完了している。
「今では高いもので1メートルまで成長した松もあります。
ただ、道のりは長いです。元の高田松原の姿を取り戻すには40~50年かかるとも言われています」(高田市都市計画課の職員)
奇跡の一本松の後継樹に、4万本の若い木が作る松林。景勝地として名高かった高田松原は、再びその場所で新たに育ち始めている。