「文化財」なお菓子から、流行りのメチャおしゃデザートまで 歩いて巡る北九州・今昔スイーツ旅
記者は今、福岡県北九州市にいる。
その理由は、「甘いもの」を食べるためだ。
なぜそれで北九州かって? それはここに「シュガーロード」の起点が存在するからである!
ご存じの通り、江戸時代の日本はいわゆる「鎖国」状態だった。
オランダや中国の商人との貿易が行われていたのは、長崎の港を埋め立てて造られた「出島」でのみ。そこには当時の日本では珍しい品々が荷揚げされ、出島から北九州の小倉をつなぐ「長崎街道」を通り、全国各地へ運ばれる。
その品の中に砂糖も含まれており、菓子づくりの技法なども入手しやすかった。そのことから、街道の周辺地域では砂糖をふんだんに使う食文化が開花し、この街道は近年「シュガーロード」と呼ばれるようになったのだ。
そして現在――北九州にはそんな砂糖文化の中で生まれた歴史あるお菓子から、流行最先端の甘味まで、魅力的なスイーツを目いっぱい楽しめる場所になっているらしい!
小倉から出発!
シュガーロードは2020年、「砂糖文化を広めた長崎街道~シュガーロード~」として文化庁の「日本遺産」に認定された。
その起点が、小倉にある「常盤橋」だ。記者も、早速そこに向かうとしよう。
......と、その前に。行っておかなければならない場所がある。
小倉駅からでて数分の場所にある、日本初のアーケード商店街・魚町銀天街。そこにあるのがこちらのお店だ。
直営の甘味処も含め、市内に28の販売店を持ち、1895(明治28)年の創業以来、古くから地元に愛される菓子店「湖月堂」の本店だ。
このお店で有名なのが「栗饅頭」。
日本遺産「シュガーロード」では、長崎・佐賀・福岡3県の史跡や古文書、砂糖を使った菓子など52件が「構成文化財」となっている。北九州市には6件の構成文化財があり、栗饅頭もそのひとつ。
江戸時代の海外貿易で製法が伝えられた焼きまんじゅうの皮で、栗と餡を包んだ菓子として選ばれているのだ。
お目当てのものをゲットしたので、今度こそ常盤橋を目指そう。
魚町銀天街は南北に延びる商店街。それに交わる形で、京町銀天街という商店街が東西に延びている。
それを西に抜けると、目的地だ。
出島にあったオランダ商館の館長は、長崎街道を進んでここまでやってきて、献上品と共に下関行きの船に乗ったという。
その献上品の中には砂糖が含まれていた可能性が高いとして、この場所も日本遺産の構成文化財になっている。
北九州市には先ほどの栗饅頭を含め、構成文化財になったお菓子が4つある。その残りの3つに一気に出会える場所が、橋を渡った先に見えてくる小倉のシンボル「小倉城」だ。
小倉城の足元で出会ったのは...
城下には「しろテラス」という、お土産コーナーや休憩スペースなどを兼ね備えた施設がある。
そのお土産コーナーには、北九州を代表する銘菓の数々が並ぶ。構成文化財である3つの菓子、「小菊饅頭」、「くろがね羊羹」、「金平糖」ももちろんこの中で発見できた(なお湖月堂の栗饅頭はここでは買えないので注意)。
どこか落ち着ける場所で、伝統の味を体感しよう――そう思っていた筆者だが、テラス内の飲食コーナーでも気になるものを見つけ、ついつい注文してしまった。それがこちら。
小倉城の形をした最中が入った「小倉城ぜんざい」だ。
五色あられがお花のようで可愛らしく、白玉が入っているのも嬉しい。
甘いぜんざいと、苦めのお抹茶の相性は抜群。単品での注文も可能だが、筆者としてはぜひセットをオススメしたい。
「文化財」なお菓子を実食
ぜんざいで温まったところで、小倉城の周りの勝山公園もちょっと散策してみることに。
勝山公園は、「21世紀の都心のオアシス」をテーマに整備された公園で、小倉城以外にも図書館などの文化施設や、子供用の遊具のある遊び場、運動できる広場などもある。なにより、川沿いにたくさん緑が広がっていて、心地いい。この中を歩くだけで、開放的な気持ちになってくる。
広い園内を散策していたら何だかちょっと小腹が空いてきた。
というわけで、公園のベンチで小倉城を眺めながら、集めたお菓子たちを食べることに。
まずは、湖月堂の栗饅頭から。
しっとりとした白あんの中に甘く煮た栗が入っており、その食感の違いが楽しい。その甘さと饅頭の皮の香ばしさもよくマッチしていて、とても上品な味だ。
続いて、小倉の老舗和菓子店「藤屋」の「小菊饅頭」。大正時代末期に藤田音吉が漁業の傍ら、長崎街道沿いで蒸し饅頭を商ったのが始まりだという。
黒と白の2種類の餡が入った饅頭はとても小さくて可愛らしい。甘さもちょうどよく、いくらでも食べられてしまいそう。電子レンジや蒸し器で温めると、蒸し立ての味わいも楽しめるそうだ。
そして最後は、いろは屋(入江製菓)の「いちごの金平糖」。
箱を開けてみて、その見た目に少し驚いた。
金平糖というと、トゲトゲして透き通ったものだと思い込んでいたからだ。しかし、この不揃いな形こそ、手作り金平糖の証だそう。
金平糖が日本に広まったきっかけは、長崎から北九州に来て布教活動を行っていた宣教師ルイス・フロイスが織田信長に献上したことである、ということから、構成文化財に選ばれている。
いざ、自分だけの「シュガーロード」へ!?
小倉城と共に伝統的なお菓子を味わい、歴史に触れたところで、今度は流行のイマドキスイーツを探しに行くことに。いわば、筆者オリジナルの「シュガーロード」のはじまりだ!
向かうは、スイーツ激戦区となっている戸畑区。区内21店舗のスイーツ店をまとめたオリジナルマップ「スイーツな街・とばた」を制作するなど、気合いの入ったエリアである。
最初に目指すのはフランス・ボルドー地方の伝統的な焼き菓子「カヌレ」の専門店「カヌレ ダグリダ」だ。
勝山公園を出て、戸畑方面へと進む。距離はそれなりにあるのだが、道が広く、歩いていても気分がいい。
とはいえ半分ほど歩いたところでさすがに少し疲れて、ついでにお腹も空いてきてしまったのだが、ここで登場するのがしろテラスで購入したシュガーロード構成文化財最後の1つ。
八幡製鐵所の作業員たちが栄養補助や体力回復のために食べていた「くろがね羊羹」だ。
疲労を癒すため、あえて甘みの強い上白糖を使っているという羊羹は、確かにとっても甘い。だが、歩いて疲れた体にはその甘さが心地よく、また、豊かな小豆の風味も美味しくてあっという間に食べ終えてしまった。
力を取り戻し、再び気合十分で歩いていた筆者の目に、可愛らしいお店が飛びこんできた。
いなり寿司専門店「いなりんどう」とある。店の中には、和菓子みたいに美しい色とりどりのいなり寿司が並んでいた。
き、気になる......。
今回の旅のテーマは「甘いもの」と「シュガーロード」。いなり寿司にも砂糖は欠かせない。なんだ、バッチリど真ん中じゃないか。
というわけで、はやる気持ちを抑えきれずに入店。
いろんな味が楽しめるという人気の8種類セット(税込980円)を購入し、少し歩いたところにある中原公園で食べることに。
見た目の美しさにしばし見惚れてから、一口食べて感動。
おあげが甘めで、とっても美味しい......!
青じそやゆず、えび、梅などそれぞれのいなり寿司ごとに味の個性がしっかりあるのも嬉しい。特に人気が高いという青じそは、しそとゴマの風味がよくきいていて、筆者も一番お気に入りだった。
このカヌレ、何個でも食べられるぞ...!
お昼ご飯を食べて満足したら、何だかまた「別腹」が空いてきてしまった。
でも大丈夫。公園を出たら、お目当てのダグリダはすぐそこだ。
自家製カヌレのほかにも、雑貨や洋服等を販売している店内は落ち着いていて、とても居心地のいい空間だ。
カヌレは日替わりで、定番のバニラからお茶のフレーバーやフルーツ系など、さまざまな味を焼いているという。
筆者は、その日に焼かれている味が詰め合わせになっている「本日の8個入りボックス」を購入した。
小さくもずっしりと重い箱を開けたら、可愛らしいカヌレが詰まっていて心が躍る。よく見るカヌレよりも、少し小ぶりだ。
早速バニラから実食。外側はカリカリ、中はもちっとしていて、鼻に抜けるバニラの香りがとてもいい。カヌレというと、個人的には結構ボリュームがあってたくさん食べられないイメージがあったのだが、このサイズ感だといろんな味が楽しめるのも嬉しい。
これは、何度でも通って全フレーバーを制覇したくなる......!
石焼きじゃない! 壺焼き芋の専門店へ
ダグリダでゆったりとした時間を存分に楽しんだ筆者が、次に向かうのは壺焼き芋専門店「imonte」だ。
熟成させた芋を、石ではなく壺の中でじっくりと焼くことで蜜たっぷりの甘い焼き芋を楽しむことができるらしい。
筆者が到着したのは平日の15時すぎで、オープンからまだ3時間ほどだったがすでにその日に販売していた2種類の芋の内、「紅はるか」は完売してしまっていた。
そこで筆者は残るもう1種類の「シルクスイート」(税込300円)を注文。
割って皮をむいてみると鮮やかな黄金色があらわれ、蜜がしたたり落ちそうだった。
その見た目の通りにとっても甘く、まるでスイートポテトのよう。
自然の甘さだけで、こんなにスイーツみたいな味わいになるなんて信じられない......!
筆者が店頭にいた短い時間にも、ひっきりなしにお客さんが訪れていたのも分かるほど、自分の焼き芋観が覆されるようなお芋だった。
なお同店は売り切れ次第営業終了で、販売はおよそ11月から5月ごろまでの期間限定となっている。
衝撃的な焼き芋の甘さを堪能した筆者は、次のお店を目指しながら戸畑区を散策してみることにした。
なかでも印象的だったのは、戸畑区役所周辺だ。
ここはどこ?北九州です!
一瞬、南国のリゾート地に旅行にきたのかと錯覚してしまうほどだった。関東出身の記者には見慣れない街路樹の数々は、もはや異国情緒のようなものまで感じさせた。
そんな木々の中に、こんな建物があるのだからたまらない。
旧戸畑区役所を活用しているという戸畑図書館である。レンガ造りのモダンな感じで、自分が今どこにいるのかわからなくなってくる。
「南国?ヨーロッパ?あ、北九州だった!」という具合だ。
なお図書館の前には旅好きで戸畑の地にも何度も足を運んだという歌人・若山牧水の歌碑という、非常に「和」なものも。見るものが多すぎるぞ、戸畑区......。
あちこち見ながら歩いているうちに、気付けば最後の目的地である焼き菓子専門店「N.pont(エヌ・ポイント)」に到着。ここで食べるのは人気商品・台湾カステラだ。
フワフワしゅわしゅわで1ホールペロリ
約1時間おきに1日6から7回焼き上げるという同店の台湾カステラは、プレーンの「二丁目カステラ」とチーズ味の「二丁目チーズ」がある。焼き上がりの時間に合わせて店を訪れる常連客も多いそうで、売り切れてしまうこともしばしば。
今回、筆者はプレーンの「二丁目カステラ」を注文した。
ふわふわのカステラは手でちぎるとしゅわっと音がするスフレタイプ。
口に入れると溶けて消えてしまうほど軽く、優しい甘さと卵の風味が口いっぱいに広がる。この日はほぼ甘いものしか食べていない筆者だが、その素朴な甘みの虜になり、ペロッとワンホール食べてしまった。
朝から夕方まで歩き回った筆者のオリジナルシュガーロードは、距離にしておよそ10キロ。これだけたくさん歩くと、たくさんスイーツを食べたことへの罪悪感も解消される。
しかも、活気あふれる商店街に、都会的なビル、のどかな公園や歴史を感じる街並みなど、どんどん風景が変わるからか、不思議とそんなに歩いた気はしない。北九州市は「ウォーカブル推進都市」として、「居心地が良く歩きたくなるまちなか」を目指しているらしいのだが、なるほど納得である。
実は今回紹介した小倉・戸畑エリア以外にも、菓子店をまとめたオリジナルマップを作成するなど、スイーツで地域振興を行う激戦区が北九州には複数ある。
自分が行ってみたい場所を見つけて、あなただけのオリジナル「シュガーロード」、歩いてみては?
今も昔も「砂糖」と共に暮らす街を巡るスイーツ旅。とっても楽しいぞ!
<企画編集・Jタウンネット>