「兄とはぐれ、所持金もなく、歩き続けて約5時間。停留所で座り込んだ小学生の私に、バスの運転手が...」(宮城県・40代男性)
普段の行いが、有事の時に裏目に出てしまう。そんな経験がみなさんにもないだろうか。
宮城県在住のJタウンネット読者・Aさん(40代男性)が語ってくれたのは、小学校2年生の頃、兄とふたりで機関車を見に出かけたときのそんな思い出だ。
当時、Aさんら家族が住んでいたのは愛媛県新居浜市。そこから先隣の今治市まで、兄弟は列車に乗っていく。距離にして50キロほどだという。
今治には、無事に到着した。しかしデパートで昼食を食べた後、Aさんは兄とはぐれてしまったのだという。
兄を探し、デパートを出たAさん。目の前に広がっていたのは、見覚えのある道だった。
当時、Aさんはルートセールスの仕事をしていた母親が運転する車に同乗し、さまざまな場所に出かける機会があり、それで訪れたことのある場所だったのだ。
知っている道に出たのだから、「これで帰れる」。彼はそう確信して歩き出したのだが......。
「自宅から50キロ弱離れた今治市に...」
私が小学2年生の頃、愛媛県新居浜市に住んでいたときの話です。
当時、母は製菓メーカーのルートセールスの仕事をしていて、あちこちのスーパーを巡り、新商品はもちろん、販促企画やツールの提供を行っていました。軽ワゴン車の助手席に私は座り、道中の母との会話、各地の食堂でのおいしい昼ご飯などを楽しみにしていました。
今でも1度通った道はだいたい覚えられるのですが、母とあちこちを巡り、いつの間にか、どこにどんな建物(目印)があるのかを覚える癖がついたおかげだと思っています。
ある週末のことです。6歳上の兄と今治市まで、廃車になる機関車を追って列車に乗っていく機会がありました。
兄も私も大の鉄道好き。自宅から今治市までは50キロ弱で、列車でも1時間とかからない行程です。今治駅に着いた後、近くのデパートで昼ご飯を食べた後、ほどなく帰路に着く予定でした。
私は兄についていくことだけを考えていましたが、デパートのエスカレーターを乗り降りしているうちに、兄を見失ってしまったのです。
「いくら歩いても、実際の景色は変わらない」
兄を探しているうちにデパートの外に出た私は「どっかで見た道......」と感じました。母とのルートセールスで記憶に残っていた道だったのです。
私は「帰れる」と確信し、軽ワゴン車に乗っているかのごとく、その道を自宅に向かって歩き出しました。
兄はその頃、自宅の両親に電話したり、デパートで迷子の呼び出しをしていたりしたそうですが、もう見つかるはずもありません。
小学2年生の小さな歩幅ですから、いくら歩いても、記憶の中の景色ほど、実際の景色は変わりません。時間が経過するにつれて、私も不安になり始めました。ただ運悪く、お金は1円も持ち合わせがなく、おやつの1個すら持っていませんでした。
いつの間にか「家に電話しなきゃ」という思いから、道すがらの自動販売機のつり銭口に1つ1つ手を入れて、10円玉を探し始めました。しかし、1枚も見つかりません。
そうこうしているうちに日はすっかりと暮れ、さすがに疲れ、どこかのバス停で座り込んでしまいました。後から聞くと、5時間近く、20数キロは歩いていました。
バスの運転手が「僕、どないしたんや?」
バス停で座っていると、1台の路線バスが止まり、ドアから運転手さんが「僕、どないしたんや?」と声をかけてくれました。
どんな会話をしたのか覚えていません。言われるがまま、運転手さんの後席に座り、バスの車内の温かさ、車窓から見る家々の明かりを見て涙が溢れてきたのを覚えています。
営業所に着くと運転手さんは家に電話をしてくれて、母が迎えに来てくれました。母は涙を目に浮かべていて、最悪の事態も想定して、既に警察にも連絡をしていたとのことでした。
運転手さんが私に声をかけたのは偶然でした。運転手さんが往復乗務で、普段ほとんど人が歩かない地方国道の歩道を往路・復路とも、小学校低学年くらいが歩いていて、違和感を覚えたそうです。秋口だったので私が少し派手な赤いジャンパーを着て目立っていたこともあります。
あれから40年近く経ち、当時の運転手さんもご健在であれば、それなりのお年のはずです。今、バスを利用する機会はめっきり減りましたが、使うたびに当時の大冒険を思い出します。
誰かに伝えたい「あの時はありがとう」、聞かせて!
名前も知らない、どこにいるかもわからない......。そんな、あの時自分を助けてくれた・親切にしてくれた人に伝えたい「ありがとう」を心の中に秘めている、という人もいるだろう。
Jタウンネットでは読者の皆様の「『ありがとう』と伝えたいエピソード」を募集している。
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