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「中年」にスポットライトを当てる――超斬新コンセプトのフリーマガジンが爆誕していた

井上 慧果

井上 慧果

2022.01.03 08:00
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読者の皆さんは、「中年」という言葉にどんなイメージを持っているだろうか。

青年と老人の間――肉体的には疲れやすくなったり体の不調が出始めたりするし、精神的にも新しいことを始める気力が湧かなくなったりもする。年頃の子供との付き合い方、年老いた親の介護、自分の老後の資金など家庭内での悩み事は尽きず、会社でも上司と部下の板挟みに......。とかく中年期にはネガティブな印象があるかもしれない。

そんな中年期を「賛美」する――明るく斬新なフリーマガジンを記者は発見した。

「中年。」(画像は編集部撮影)
「中年。」(画像は編集部撮影)

その名も、「中年。」。

「クリエイティブな中年と中年期を賛美するフリーマガジン」

をコンセプトに、2021年12月現在、Vol.3まで発行されている。

表紙からすでにオシャレで、ポジティブな印象を受けるこのフリーマガジンは、幅広い企画を展開するデザイン制作会社「ibma」(東京都渋谷区)が手掛けているものだ。

コロナ禍で減った仕事と新たな挑戦

オシャレなのは表紙だけではなく、ページを開くと可愛らしくポップな感じ。

「映像の中の素敵な中年」として、映画やドラマなどに登場する素敵な中年世代のキャラクターが紹介されていたり、「クリエイティブな中年」として料理や陶芸などさまざまな創作活動を行う中年世代が紹介されていたり。また、中年たちによる詩や工作、オリジナルグッズや、中年をテーマにした漫画といった賑やかな「連載創作ページ」も設けられていて、読んでいて楽しい。

中身も楽しい(画像は編集部撮影)
中身も楽しい(画像は編集部撮影)

なぜこのようなフリーマガジンを、しかもデザイン会社が発行しているのだろう?

気になったJタウンネット記者は、12月21日、「中年。」の編集長・山荻ロンさんを取材した。

編集長の山荻ロンさんは、40代の女性(画像は編集部撮影)
編集長の山荻ロンさんは、40代の女性(画像は編集部撮影)

「中年。」は、2020年10月創刊。ibmaではそれまで、フリーマガジンを発行したことはなかったが、コロナ禍のステイホーム期間でイベント中止等が重なり、社内の仕事が減ってしまったことが転機となった。

「仕事は減ってしまったけれど、そのまま止まっているのではいけない、時間はあるのだから何か新しいものを生み出してほしい、と社長から社員みんなに声がかけられたんです。私は普段、会社では文字を調整したり修正したりして印刷物を作るDTPという業務を担当しています。そんな私が何かできることはないか、と考えて辿り着いたのがフリーマガジンの発行でした」(山荻さん)

「自分はここで買っていいのだろうか?」と服屋で悩む中年期

というのも、コロナ禍に自宅で過ごす時間が増えた山荻さんは、そのなかで「フリーペーパー」専門店を紹介するバラエティー番組を見たのだとか。

「今までフリーペーパーというとマネタイズするためのもの、広告収入を得るためのもの、あるいは地域の情報誌、といったイメージがありました。ですが、その専門店、『only free paper TOKYO』(東京都目黒区)には、個人の方が趣味で作ったものや、弊社と同じデザイン会社さんが作っているものなんかも紹介されていて、それがとても面白いと思ったんです」

また、このステイホーム期間中に、彼女はもう一つのことに気付く。

自身が書き溜めていた日記のようなものを見返していたところ、無意識に年齢を重ねている自分を悲観するようなものが、想像以上にあったのだ。

「普段はそんなに思わないんですけど、実は中年期についてネガティブになっている自分もいるんだなと、驚きました。たとえば洋服屋さんに行ったとき、『自分はここで買っていいのだろうか?』と気になってしまったり、よくライブに行くんですが、それについて周りから『若い子ばっかりじゃないの?』と言われたり...そんなことが気になりはじめていたんです」

40代の山荻さんのなかで溜まっていた、そんなモヤモヤとした気持ち。「中年期へのネガティブなイメージを払拭したい」という思いが、フリーペーパーを知ったことと合わさり、「中年。」に繋がった。

また山荻さんは趣味で書いていた自作の詩を発表する場を探しており、それが「連載創作ページ」となっているのだ。

「ポジティブになれるものを作る、ただそれだけ」

そこから、社内のデザイナーなどに声をかけ、5人からなる「中年。」編集部が発足。メンバーのほとんどが中年期だ。

はじめてのフリーマガジン作成に、最初は困難もあった。たとえば、使用する紙ひとつとっても、どんなものを使えばいいか分からず、普段企業のパンフレットなどを制作するときに使用している厚めの上質紙で制作してみたが、想像とは少し違った仕上がりに。そこから試行錯誤を積み重ね、現在の形となった。

「私も含め、みんな本業をこなしながら制作しているので、なかなか思うように進められないというもどかしさもありました。ですが、根本的には普段やっている仕事の延長戦でもあり、デザイナーのメンバーがとてもいいものを作ってくれたので、満足のいく仕上がりになってきていますね」(山荻さん)

山荻さんに、「中年。」を制作する際に、特にこだわっている点を尋ねてみた。返ってきたのは非常にシンプルな答えだった。

「とにかく手に取ってくれた人の気分が明るくなるように、そういうデザインをお願いして、内容もそういうものを選んでいます。ポジティブになれるものを作る、ただそれだけです」(山荻さん)
「明るくなれる」媒体に(画像は編集部撮影)
「明るくなれる」媒体に(画像は編集部撮影)

中年期といえば、健康や仕事、老後や貯金のことなど心配事は尽きない。だが、そういったテーマは「やらない」と決めているのだと、山荻さんは語る。

「フィクションの中でも、なかなか中年っていいことで注目されないじゃないですか。だからこそ、中年にスポットライトを当てていければと思います」

山荻さんは「中年。」の今後について、「設置場所を増やしてもっと色んな人に読んでもらえれば」と希望を語る。中年期真っ只中の人だけではなく、これから中年になるという人も、もう中年と呼ばれる時期は終わったという人も、明るくポジティブでクリエイティブな中年たちに触れて、元気をもらってみては。

なお「中年。」最新号の配布場所は公式ウェブサイト<https://www.ibma.jp/chunen/>に記載されている。バックナンバーもここで閲覧可能。

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