地元企業の社長が手取り足取り全力サポート 「住みたい田舎NO.1」愛媛・西条市の心強すぎる「移住の味方」
地方に移り住んでみたい。漠然とそう考えている人もいるかもしれない。
でもどうやって場所を選び、なにを準備すればいいのか。仕事や育児はどうするのか、資金はどれほど必要なのか、わからないことも多いのではないだろうか。
そんな疑問を事細かくヒアリングし、希望者の要望に沿った移住プランを考えてくれる市がある。
月刊誌「田舎暮しの本」(宝島社)2月号に掲載された「2021年版第9回 住みたい田舎ベストランキング」で、「総合部門」「若者世代部門」「子育て世代部門」「シニア世代部門」の全4部門で1位を総なめにした、愛媛県西条市だ。
つまり西条市は今、日本で最も注目を集めている「田舎」といっても、過言ではない地域なのだ。
以前Jタウンネットでは、その人気を後押ししたのは西条市移住推進課による移住希望者への「過剰な」サポートだと紹介した(「至れり尽くせりってレベルじゃない... 『住みたい田舎NO.1』愛媛・西条市には、日本一親身な移住コンサルタントがいた」2020年12月7日配信)。
しかし、移住してくる人を見守っているのは、市役所だけではない。
農業未経験でありながら、移住後わずか数年で観光農園を開く予定の夫婦がいる。Jタウンネット記者は、その立役者である農業法人「PENTA FARM(ペンタファーム)」へ、足を運んだ。
ツリーハウスから登場した笑顔の男性の正体は
愛媛県西条市――。松山空港から車で約1時間。北は瀬戸内海に面し、南には西日本最高峰の石鎚山がそびえ立っている。
その山麓の丹原(たんばら)地区に、PENTA FARMはある。
西条市内のなかでも自然豊かな地域だ。地元農家8組で運営される「丹原もぎたて倶楽部」という観光農園があり、各農家はそれぞれの農地でぶどうや柿、ミカン、イチジクなどを栽培。
PENTA FARMは果物狩りに訪れる観光客の窓口となっている。
いったい、この企業が「移住者のサポート」とどんな関係を持っているのだろうか。
そんなことを考えながら、歩いていると......。
大きな樹木から「こんにちは」という声。笑顔が素敵な男性がこちらを覗いていた。
――PENTA FARM代表取締役の山内政志さん(62)である。
「このツリーハウスとかブランコとか、全部私が作ったんですよ!子どもが喜ぶんです」
生まれも育ちも西条市の山内さん。DIYのノウハウは、高校卒業後に鉄工所で働いていた際に学んだらしい。これから筆者は、DIYのスペシャリストに取材する......わけではない。
山内さんは、農家だった父親の影響で観光農園をスタート。12年4月にはPENTA FARMを立ち上げ、現在は他の観光農園と連携して市内に季節のフルーツを使ったカフェを出店するほか、キッチンカーを使ったスイーツやフードの販売、観光農園や地元の農作物のPR......と、なんでもやっちゃう社長さんなのだ。
事業の取り組みの一つとして請け負っているのが、移住相談や移住希望者へのサポート。はてさて、何をしているのだろう。
「果物を作りたい、そんな漠然としたイメージを持った人に、どんなことをしたいのか具体的にお聞きします」
なるほど。でも、ちょっと待った。
そもそも、農業をしたいと思った人は、どうやってPENTA FARMまでたどり着くのだろうか。
その多くは、西条市の移住推進課の紹介で訪れるという。「農業をしたい」と検討している移住希望者がいれば、移住推進課が「米農家なら〇〇、野菜農家なら〇〇、果物に興味があるなら......」とピックアップし、その場所に連れて来るのである。
山内さんによる、手厚すぎるサポート
移住希望者の中には、「何を、どうやって作って、どうしたいのか」ということを具体的に考えていない場合もあるという。山内さんはそんな時、彼らの話を聞いて、どうすればいいのか一緒に考える。
「相談しに来た人のやる気や性格、農業の知識などを見て、いろんな提案をします。作りやすい果物の紹介や機材の貸し出し、育て方、販売経路の確保、農地を探してあげることもあります。
例えば、ブドウを作りたいなら、専用の棚やビニールハウスが必要になりますし、その費用もかかりますよね。そのブドウを農協に出荷するのか、自分で売るのか、などをヒアリングします」
農業未経験で、具体的なプランがない人には、山内さんの知り合いの農家で研修を受けてもらう場合もあるという。
「丹原の近くには、『周ちゃん広場』という産直市場があり、様々な農作物を見てもらうには良い場所です。そこには農家さんもいるので、『〇〇の果物や野菜を作るのは難しい?』などと聞けば、いろんな情報が手に入ります。
また気になる果物や野菜農家さんのところに連れて行って、この作物は作りやすい、作りにくいということを学んで貰ったりします」
希望者からのヒアリングを通じて、米や野菜農家に興味があるならば、そちらへ連れて行くことも可能だという。
漠然とした希望を聞いて、具体的な方法を示してくれる。まさに「至れり尽くせり」だ。
いったい、なぜそこまでのサポートをするのか。
「農業者の高齢化や後継者不足により、耕作放棄地が増えているからです」
と山内さん。耕作放棄地とは、農林水産省が実施する統計調査「農林業センサス」で定義されている言葉で、「以前耕地であったもので、過去1年以上作物を栽培せず、この数年の間に再び耕作する考えのない土地」を指す。ざっくり言えば、栽培が行われていないし、将来その予定もない農地ということである。
山内さんは、真剣な面持ちで続ける。
「周囲に耕作放棄地が増えると、虫や動物がそこに住み着きます。
すると自分の農地で、作物が作れなくなる。だから、西条で農業をしてくれる人を増やしたいと思って......。モットーは、仲間づくり。そのためには、精一杯人助けしたいと思っています」
すべては、西条市の未来を守るために。そんな山内さんの手を借り、まもなく「丹原もぎたて倶楽部」に新しい農園が仲間入りする。
「農業って遠い存在だと思っていましたが...」
19年6月に西条市に移住した井藤眞紀子さん(56)は、数年後には夫とともに、「丹原もぎたて倶楽部」の一員となる観光農園を開く。
農業は未経験。大阪出身で、移住前はアパレル関係のデザイナーとして働いていた。
「夫も私も働きながら、子育てにも全力投球でした。するとある日突然涙が止まらなくなって......。
その時に死ぬまでにやりたいことを言い合ったら、夫が『農業をしたい』と切り出したんです」
井藤さんは移住のきっかけを、こう振り返る。
移住をしたいと考えた井藤夫妻は、西日本の自治体が集まる大阪の移住フェアに通うことになるが、どの自治体からも「農業で食べていくことは難しい」と一蹴されてしまった。
そんななか、井藤さんに手を差し伸べてくれたのが、西条市だった。PENTA FARM社長の山内さんを紹介してくれたのだ。
「2017年頃に、山内社長に出会って『農業でも食べていけるよ』と声をかけてもらいました。その時は、夫と2人で泣きそうになりましたね......」
その後、井藤さんは、住んでいた大阪の家を売りに出し西条市へ。
農業を始めようとする人が、最初に直面するのが「農地をどうするか?」という問題だ。耕作放棄地のような土地は多いが、どうすれば農地を貸してもらえるのか、あるいは売ってもらえるのか。そもそも、まず誰に相談すればいいのか、わからない。井藤さんの場合、まず、最初の壁を突破するため山内社長が動いてくれた。
山内さんの紹介で畑6反(約6000平米)を借りることができ、現在はぶどうやレモン、そして今注目のアボカドなどを植えている。
育て方やハウスの建て方などは地元の農家から学び、今も畑の整地などをしているという。
そんな井藤さんは、現在畑の管理の他に......、なんと「PENTA FACTORY(ペンタファクトリー)」というバウムクーヘン専門店でアルバイトをしながら生計を立てている。同店はその名の通り、PENTA FARMが運営する店舗だ。
他のバウムクーヘン屋でのバイト経験を持つ井藤さんは、商品開発のアドバイスなどをして、PENTA FARMに恩返し。
バウムクーヘンの生地は西条産の米を使用し、生米粉を自社で製粉。100%グルテンフリーがこだわりだ。また、フルーツ味のバウムクーヘンに使用するレモンは自社栽培だし、イチゴも100%西条産の果汁を使用している。農業法人だからこそできる商品だ。
移住してきて、かつて大阪で仕事に追われていた日々から、見える景色は一変した、と井藤さん。
それもこれも、西条市スタッフや山内さんの存在があってのことだという。
「農業には、苦労もあるけど、いろんな観光農園の方から情報を貰ったりできて、楽しいですね。
移住してほんとによかったです。西条市に山内さんを紹介していただき、感謝しています。
また、いろんな人との出会いや、応援によって、希望が出てきた。農業って遠い存在だと思っていましたが、今では身近に感じられています」
もし移住したいと思ったら、みなさんは何を基準に場所を決めるだろう。
筆者なら、親身になって相談に乗ってくれる人が、すぐそばいる場所を選びたい。
今回、山内さんと井藤さんの話を聞いて、「西条市なら心配はなさそうだ」と強く感じた。
<企画編集・Jタウンネット>