「ベルリンオリンピックの実況放送」もコレクション 様々なレコードを「自由にさわれる」博物館が楽しそう
読者のみなさんは、好きな音楽を聞くとき、どうしている?
パソコンやスマホなどにダウンロードして、あるいはストリーミング再生してイヤホンで聞く? CDを購入して、プレーヤーで聞く? まさかレコード?
「それって何?」と突っ込まれるだけかもしれない。かつて音楽はレコードで聞くものだったが、いつのまにかデジタルで聞くのが常識になった。
そんな中、2021年7月28日、次のようなツイートが投稿され、話題となっている。
写真はその「音浴博物館」の様子らしい。所狭しとレコードが収納されており、そのすべてを「自由に聴くことができます」というコメントも添えられている。
長崎県西海市の山奥で、音楽にひたすら没頭できる空間だという。
「Y氏は暇人」(@y_ta_net)さんが投稿したツイートには、1万1000件を超える「いいね」が集まり、「最高の空間じゃあないっすか......」「これは、素晴らしいですね!」などといった声が寄せられている。
「音浴博物館」とはいったい何か? Jタウンネット記者は、投稿者「Y氏は暇人」さんと「音浴博物館」に詳しい話を聞いた。
山の中にある廃校を活用した「音浴」空間
福岡市在住の投稿者「Y氏は暇人」さんはツイートのきっかけをこう語った。
「最近、外出ができないので過去に行った写真を見て旅行気分を味わっているのですが、数年前に行った音浴博物館が素晴らしかったのを思い出したので、ぜひ皆さんにも 見てもらいたいと考えてツイートさせてもらいました」(「Y氏は暇人」さん)
音浴博物館には、よく行くのだろうか?
「長崎に旅行に行った際に一度だけ立ち寄りました。 その日は佐世保無線電信所(針尾送信所)を見に行ったのですが、 近くに何か面白そうなスポットがないかインターネットで探してみたら、音浴博物館というのが出てきて、急遽行ってみようと思いました」(「Y氏は暇人」さん)
「音浴博物館」のどこが気に入ったのだろう?
「コードの数がすごいというのはもちろんですが、山の中にある廃校を活用しているというところがとても琴線に触れました。あと、館内を案内して頂いた男性の方も非常に親切丁寧で、 それも印象に残っています」(「Y氏は暇人」さん)
次にJタウンネット記者は、7月30日、「音浴博物館」に電話取材した。
落語に長唄、歌謡曲にクラシック、そして...
Jタウンネット記者の電話取材に応じたのは、「音浴博物館」の中村昌彦館長だった。
「当館にはLPレコード15万枚、SPレコード5万枚が所蔵されており、その一部を展示・公開しております」
説明を聞いていると、「ところでSPレコードをご存知ですか?」と、中村館長から質問が飛んだ。
「LPレコードより小さくて、1曲か2曲しか入ってないヤツですよね?」とJタウンネット記者が答えると、
「それはドーナツ盤とかシングルレコードと呼ばれたものです。 SPレコードは、別名78、シェラック盤とも呼ばれ、主に鉄針や竹針を使い、手回し、ゼンマイ式の蓄音機または初期の電蓄で再生するものです。日本では昭和35年まで製造されていました」(中村館長)
さっそく無知をさらけ出してしまった。
SPレコードは「standard playing」の略で、LPレコード登場以前の蓄音機用レコードの総称だという。
「当館のコレクはションの中には、浪曲、長唄、落語など、大正時代から昭和にかけてのものが多く、歌謡曲、童謡、クラシックなど、バリエーションに富んでいます。なかには1936年のベルリンオリンピック実況放送が収録されたものもあります」(中村館長)
「音浴博物館」は長崎県西海市大瀬戸町にある。
かつてここに存在した小学校分校施設に、2001年、岡山県倉敷市から約5万枚のレコード持参で移り住んだのが、創立者の故・栗原榮一朗氏だった。
04年、農水省の「やすらぎ交流拠点事業」補助金でリニューアル。栗原氏を中心に設立した「推敲の森実行委員会」が指定管理方式で管理・運営を受託し、現在に至る。
特徴は「自由にさわれる」こと
いま同館には、栗原氏が持参したもの以外にも多くのレコードが所蔵されている。
「放送局でもデジタル化が進んでいるようですね。長崎の某放送局からは約3万枚のLPレコードをいただきました。他にも、九州各地の放送局からLPレコードの寄贈を受けました。個人の音楽愛好家からも、生前贈与というのですか、ご寄贈いただくことも増えてきました」(中村館長)
「音浴博物館」の特長の一つは、「レコードに自由にさわれることじゃないでしょうか」と中村館長は語る。
「レコードプレーヤーが5か所に置かれていますので、当時に近い音で楽しんでいただけます」(中村館長)
5種類のオーディオシステムをチョイスして、お気に入りのレコードを聴き比べることも可能なのだ。「過去には、レッド・ツェッペリンやピンク・フロイドを大音響で聴くといった試みも行いまして、大盛況でした」と、中村館長は満足気に語る。
騒音などの苦情が入る心配はまったくないロケーションも魅力の一つだ。立地は、長崎市と佐世保市の中間ぐらいというが、「まったくの僻地ですから」とのこと。
エルヴィス・プレスリーやビートルズ、ブルーノート、映画音楽など、同館のコレクションを使った、様々なテーマの「レコード・コンサート」も開催されている。地元・長崎のアーティスト、さだまさしさんにちなんだ「精霊流し」特集も好評だったという。
「音浴博物館」に常駐するのは3人。「自由にさわれる」のが魅力とはいっても、アナログのオーディオシステムを操作するのはなかなかハードルが高い、という人は多いだろう。そんな時は、「常駐する館員に遠慮なくオペレートを依頼していただきたい」と中村館長。なんとも心強い。
来場者の数は、土日祝日は30人から40人程度、平日なら1日10数人だという。入館料は一般750円。
エントランスではコーヒーやラムネの販売はしているが、食べ物はない。近隣にも食事ができる施設はないそうだ。
館内での飲食は可能だから、長時間滞在したい人は、おにぎりやサンドイッチ、お弁当など持参の方が安心かもしれない。もちろん、他の客への配慮をお忘れなく。