長野には「病気のバス」と呼ばれちゃってる車両があった デザインに込められたのは「世界平和」への願い
長野県松本市には、老若男女に「ヤバい病気のバス」として親しまれているバスが走っている──。
そんな投稿が、ツイッターで注目を集めた。
なんだか都市伝説じみた、穏やかじゃない親しまれ方のような気もするが、一体どんなバスなのだろうか?
こちらが、実際のバスの写真。全体に散りばめられた赤い水玉模様が特徴的だ。
ツイッターユーザーの「人間池畑と愛犬たび」(@dot_kyomu)さんは2021年7月12日、このバスについて、
「松本市で老若男女に『ヤバい病気のバス』として親しまれている草間彌生デザインのバスですが小学生などはこのバスを見かけると親指を隠して見えなくなるまで息を止めています」
と投稿。霊柩車を見かけたら親指を隠さないと、「親の死に目に会えない」「親指から死霊が入ってくる」などという言い伝えもあるが、このバスもそういったカテゴリに分類されているのだろうか...?
池畑さんの投稿は、6000件以上のリツイートと1万3000件以上のいいねを集め、
「対向車だったらヤダなぁw」
「なんかの怖い話の設定でありそうw」
「せめて窓は水玉描くのご容赦願いたかった」
などと話題になった。
色んな大きさの水玉が場所も並びもバラバラに配置されたデザイン。たしかに、見方によっては何かの病気の症状のように見えてしまうかも......?
Jタウンネット記者はこのバスについて、池畑さんと松本市に話を聞いた。
「芸術好きな人が楽しめているならとても良いこと」
松本市公式サイトによると、話題のバスは、長野県松本市の市内を巡回するバス「タウンスニーカー」のうちの一台。その名も「クサマバス『水玉乱舞号』」。
同市出身の前衛芸術家・草間彌生(くさま やよい)さんのトレードマークとも言える水玉模様をあしらった車両だ。
池畑さんは「『ヤバい病気のバス』として親しまれている」と呟いていたが......。松本市の皆さんは、どんな風にこのバスを見ているのだろう。
「具体的に『こんな風に親しまれている』というエピソードは特にないですが、病気のバスとは普通に呼ばれてますね。
あと水玉がいっぱいとかが苦手な友人がバスを見て立ちすくんでたとか、その後バスに乗らずに済むように自転車を買ってたとかですかね」(池畑さん)
なお、池畑さん自身はどういった感想を抱いているのか聞くと、
「自分の率直な感想ですが、松本に20年くらい住んでたら突然草間彌生さんが大フィーチャーされて水玉の街になって、大変たまげた記憶があります。
自分は芸術のことは全くわからないので見ても『あっ、病気のバスだ...』と思っているだけですが、芸術好きな人が楽しめているならとても良いことだと思います」
とのことだ。
また、Jタウンネット記者は27日、松本市交通部にも取材した。
取材に応じた公共交通課の担当者はまず、タウンスニーカーについて、
「松本駅前を発着し、1周回30分程度で目的地まで移動が可能な循環バスです。
東西南北の4コースがあり、松本城や旧開智学校、松本市美術館(現在は休館中)などの観光施設を巡ります。
また、それだけでなく商業施設や病院なども通るため、観光客の方に加え、市民の方にも多くご利用いただいているバスです」
と説明。その一台である「クサマバス『水玉乱舞号』」は、市内の中でも主に「あがたの森公園」「松本市美術館」「市民芸術館」などを経由する東コースを運行しているという。
東コースを巡るバスは松本駅前から20分ごとに出ているが、それが通常のバスになるかクサマバス「水玉乱舞号」になるかはランダム。担当者いわく、頻度もそこまで多いわけではないそうなので、もし乗ることができたらちょっとラッキーなのかもしれない。
「水玉は平和と人間愛のシンボル」
担当者によると、同バスが運行開始したのは2010年12月のこと。
「鉄道・バス事業会社のアルピコ交通が運行するバスの老朽化に伴う車両の更新にあわせて、運行会社と松本市から、市の補助のもと同市出身の世界的前衛芸術家・草間彌生氏にバスのデザインを依頼しました」
水玉のデザインには「水玉は平和と人間愛のシンボル。愛する松本市から、世界が平和になるように」との草間さんの願いが込められているそうだ。
「市民の方からは、クサマバス『水玉乱舞号』に乗りたいということで、何時の便に乗ったらいいかという問い合わせをいただくこともあります」(担当者)
また、今回のツイッターでの反響について担当者は、「芸術への感じ方は人それぞれあるかと思います」と前置きをしたうえで、
「草間彌生さんは松本市出身の前衛芸術家であり、その作品は世界的にも認められ、国内外には多くのファンがいます。
クサマバスに出会うことを楽しみにしている方も多くいらっしゃる中で、当該ツイートの感想および反響は予想外でしたが、これもまた芸術に対する捉え方の一つの側面であると感じました」
とコメント。同バスの利用者や投稿を見た人たちに向けて、
「このクサマバス『水玉乱舞号』は、市内で多くの方の足として生活に溶け込んでいる大切な車両ですので、今後も多くの方に利用していただければと考えています。
またこれを機に、先述した草間さんがこのデザインに込めた思いを知っていただく機会になれば幸いです」
と述べた。