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「尊敬する上野教授は...」日本酒の裏ラベルで語られる謎の物語 その正体を酒蔵に聞いた

松葉 純一

松葉 純一

2021.05.06 06:00
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「妻との出会いのエピソード」を書いたことも?

(画像提供:杉原酒造)
(画像提供:杉原酒造)

取材に応じたのは、杉原酒造5代目・杉原慶樹さんだ。

まず、「上野教授とは誰ですか?」と聞いてみた。5代目はこう答えた。

「東海大学海洋学部で恩師だった故・上野信平先生のことです。今から10年以上も前のことですが、私は家業の酒造業とはまったく離れた道を進んでいました。静岡市の清水で学んだ後、沖縄県の西表島で研究していたこともあります」(杉原さん)

恩師のことを思い出しながら、裏ラベルの文章を書いたのだという。お酒を飲む時に、何か元気になるようなものを......と考えて、文章を書いているそうだ。造り手のキャラクターや日常生活が表れている方がおもしろいかも......と思っているという。

ある時は、「妻との出会いのエピソードを4部作にして、ストーリー仕立てにしたこともあります」と杉原さん。

東海大学海洋学部卒業後、青年海外協力隊でミクロネシアに数年派遣され、妻との出会いはその時だったようだ。岐阜に戻ってきたのは20代後半になってからだという。

(画像提供:杉原酒造)
(画像提供:杉原酒造)

「酒造りについては、まったく知らないのに、家業の酒造業を継ぐことになったわけですから、大変でしたね」と、当時を振り返りながら、5代目は苦笑する。

ある時、4代目である父親と二人三脚で酒造りに打ち込んでいる杉原さんにとって、大きな出会いがあった。地元・大野町産の酒造好適米「揖斐の誉」だ。

地元ならではの酒米を開発し続ける高橋宏基さんや、生産者の協力を得て、清酒「射美」が生まれることになる。地元で開発した酒米「揖斐の誉」と、揖斐川の伏流水で醸した「射美」、これぞ5代目が目指す酒だった。

「毎年のように試行錯誤を繰り返しながら造っているのが、『射美』です。毎年、東京の販売店様に新酒を持参して行くのですが、今年はここが失敗しました、といきなりご説明するのが、決まりとなっています。『いや、去年よりは良くなってるよ』と元気づけられていますが......」(杉原さん)

酒造好適米「揖斐の誉」の品質改良は、現在も続けられているという。酒造りも、絶えず新しい試みにチャレンジしているそうだ。「少量生産の小さい蔵だからできることですが......」と、5代目は語る。自他共に認める「日本一小さな酒蔵」だ。

清酒「射美」は、現在、国内25店舗の特約店を通して販売されている。海外では、7カ国で専門業者を通して流通しているそうだ。フランスでは、あのジョエル・ロブションのレストランにも納められているという。

「IBI」は希少な酒として、パリのグルメたちの舌を満足させているようだ。

ところで、例のぶっ飛んだ裏ラベルの文章は、どんなスケジュールで貼り替えるのだろうか?  5代目に聞くと、

「例年12月から翌年3月くらいまで、新酒を出荷していますが、約6種類の裏ラベルを制作して、貼り替えています。1か月に1〜2種類、数にして約2500本でしょうか。とくに厳密に決まっているわけではないです、その時の気分で貼り替えたりしてますから(笑)」(杉原さん)

「ちょっと何言ってるか分からない」ストーリーの続きを読みたいと思った読者も、次回のストーリーが読めるかどうかは、ちょっと分からない。よほど「射美」を飲み続ければ話は別だが、運が良くなければかなり難しいかもしれない。

裏ラベルを読みながら、飲む......、それも「射美」の魅力の一つのようだ。

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