「なぜメディアは料理の代金を払わないのか」 カフェ店主の問題提起から半年...何か変化はあった?本人に改めて聞いた
「撮影した料理で商売するのに原価分すら払わないのはなんで?」
2020年6月、ある飲食店オーナーのこんなツイートが注目を集めたこと、覚えているだろうか。取材時の飲食代を支払わない一部メディアの姿勢を批判した投稿だ。
「TVや新聞は言わなくても撮影した料理に支払いして帰る
秋田の雑誌やウェブサイトは当たり前のように支払わないで帰る
経費で落とせばいいのになんで?」
こうした疑問をつぶやいたのは、秋田の飲食店「Cafe&Kitchen ふわりずむ」オーナーの小玉直史さん(36)。ツイートでは「次から食べ物に関してはお金を払わない取材は拒否します」とも宣言していた。
一連のツイートについて、Jタウンネットは小玉さんこ投稿の真意や背景について取材した(「なぜメディアは料理の代金を払わないのか」 カフェ店主の問題提起に反響...何があった?本人に真意を聞いた)
このときの取材で小玉さんは、
「本当に腹が立ったので、今回はネガティブなことを投稿しましたけど、本当はメディアの方たちとも仲良くやっていきたいと思っているんです。だからこそ、お互いに仕事をしている大人同士の付き合いとして、当たり前でまっとうな対応をしてほしいです」
と話していた。
それから半年。
メディアとの関係や、取材時の対応に何か変化はあったのだろうか。Jタウンネットは12月4日、小玉さんに改めて話を聞いた。
問題提起のその後は...「来なくなりました」
そもそも小玉さんがこの問題提起をしたきっかけは、今まで全く付き合いがなかったという地域のウェブメディアからの取材依頼がきっかけだった。小玉さんは前回の取材で、
「取材したい、と連絡があったので、そのときに『取材のために作った料理の分の代金は支払ってもらいます』と言ったら『え?』とか、言われて。
『編集部で確認します』って言われて、結局『経費がないので今回の取材は、なしでお願いします』ということになったんです」
と事情を話している。
小玉さんはお店を始めて3年ほど。
最初は取材に訪れた地元の地域誌などが料理の代金を支払わなくても「こういうものなのかな」と思っていたという。
しかし、新聞やテレビ(いわゆる、大手マスコミだ)が取材に来た際は、しっかりと料理の代金が支払われたため、そうでないメディアに対する疑問が募っていった。
問題提起のきっかけとなった地域メディアに対しても、小玉さんは
「料理の代金も経費で支払えないのに取材させてくれ、っておかしいよねって思って、不満に火がついてしまいました」
としていた。
こうした小玉さんの意見を掲載した6月の記事は、一時はツイッターのトレンドワードに浮上するなど、多くの反響を呼んだ。もしかすると、きっかけとなったメディアの関係者の目にも、小玉さんの問題提起は届いたかもしれない。
では、その後メディアとの関係はどうなったのか。小玉さんに改めて聞いたところ
「料理の代金を支払えない場合は取材に応じない、というスタンスを明らかにしたら、そういうメディアからは一切連絡が来なくなりましたね」
とのこと。
今までの方針を改めて、再び関係を構築する......というようなことには、残念ながらならなかったようだ。
一方で、料理の代金をしっかりと支払うメディアからの取材は以前と同じように来ているそう。また、お店自体の売り上げも毎月前年よりも好調で、県内からのお客さんが多く来店しているとのこと。
このように、メディアへの姿勢をはっきりさせたことには、ポジティブな面もあったようだ。
「今までは休みの日に取材の対応をしたり、時には取材のための店を休みにしていたので、そういうのが少なくなって店に集中できるようになりました。
それから今、料理の代金を支払ってでも取材したいと言って来てくれているメディアの人たちは、それだけうちに興味を持って声をかけてくれてるんだなと思うので、取材後にモヤモヤすることもなくなりました。そういったメディアの方々とは、いいお付き合いが出来ているかな、と思います」
と話す。
とはいえ、もちろん良いことだけではないようで......。
「お客さんにとっては限られたメディアにしか情報が載っていないというのは困るかもしれません。かき氷の特集企画に載っていなくて、お客さんに『載ってなかったね』なんて声をかけられたこともあります。仕方のないことではあるんですけどね」
「黙っていても何も変わらなかった」
小玉さんが6月に投稿した問題提起ツイートには、他県の飲食店関係者からも
「これは私も疑問に思ってたやつだ!! 昔働いていたお店が完全にこれで、当たり前の事だと思って今までもそうしてたけど、、、」
「ふわりずむさんありがとう! 同じ疑問を持ってました!今後 普通に請求することにします!」
「うちも同様。当社の料亭へ取材に来た地域誌は何も言わず(支払わず)に帰り、某新聞社と某テレビ局は正規料金を支払い、礼を言って帰った」
と同じような経験をしている、それに困っていた、というような反応が多く集まっていた。
こうした反響について、小玉さんは次のように振り返った。
「対応に悩んでいたけど、この記事を見てこれからは自分もきちんと断ろうと思います、助かりました、みたいな賛同を多くの飲食店さんからいただいて、同じように感じていた人たちがたくさんいたんだな、と感じました。
僕の発言が心を決めるきっかけになった、みたいな人も結構いたので、発信して良かったです。
反対意見も賛成意見もあったけど、反対意見も参考にさせてもらったし、何より僕の意見に賛成してくれる人がとても多くて嬉しかったです。黙っていても何も変わらなかったと思うので、声をあげて、問題提起をして良かったな、と思ってます」
小玉さんは現在、秋田の美味しい飲食店や名産品を紹介する場を作りたいと考えているそう。
「メディアのやり方に気に入らないことがあるなら、もう僕自身がそういうのを発信すればいいんだな、と思いました。
秋田は美味しいお店も美味しいものもたくさんあるので、きちんと敬意を払って、ちゃんと料理の代金は支払って取材させてもらって、その上で秋田の魅力を発信できるような場を作れたらいいなと考えているところです」