クマ駆除に「なぜ麻酔銃を使わない?」と言う人へ その理由を説明した漫画が「勉強になる」と話題に
人里にクマが出没したというニュースが、連日のように報じられている。
毎年のことではあるが、2020年はそんな報道を目にする回数が特に多いように感じる。
10月19日、石川県加賀市のショッピングセンターにクマが立てこもったという衝撃的なニュースも記憶に新しいのではないだろうか。
このショッピングセンターに出現したクマは、最初の通報からおよそ13時間後に、猟友会によって駆除された。こういった報道の際、しばしば見受けられるのが「麻酔銃で眠らせて捕獲すればよかったのに」といった意見だ。
今回、ショッピングセンターに現れたクマに対しても、ツイッターでは
「殺さない方法はなかったのかな。仕方ないのかもしれないけど、かわいそう」
「保護してほしかった...」
「麻酔銃で眠らせて山奥にってわけにはいかないのかな?」
といったコメントが寄せられていた。
確かに、麻酔銃で眠らせて保護をすればいいのでは......と感じてしまうが、どうやらそう簡単なものでもないらしい。
麻酔銃の「理想と現実」を説明した漫画が、話題となっている。
これは、「青なんとかさんと赤西さん」シリーズで知られる漫画家のねんまつたろう(@KITASAN1231)さんが、10月20日にツイッターに投稿した作品だ。
そこには、ねんまつたろうさんが自身で調べてまとめたという麻酔銃の理想と現実が描かれている。
たとえば、こんなふうにだ。
向かって右側が麻酔銃の理想、左側が現実となっている。
まず、理想としては
「遠くから安全に狙って撃てる(100~200メートル)」
とある。だが実際には
「射程距離は約10~15メートル 連射はできない」
ということらしい。
もちろん射程距離は麻酔銃の種類によって変わるようだが、遠くから安全に、簡単にクマを眠らせることはできないようだ......。
周辺住民を危険にさらすリスクも
他にも、麻酔銃の使用はなかなか理想通りにはいかない。
麻酔銃で撃って、命中したら一瞬で薬が効いて眠ってしまう......。そんなふうに上手くいくのが理想だ。しかし、現実は
「命中してから効果が出るまで時間がかかる。(動かなくなるまで1時間以上かかったケースもある)」 「当たりどころによっては効果がでないことも。 麻酔の量が多いと死んでしまうこともある。麻酔が切れて襲われるリスクも」
と、なかなか厳しい。
その上、この麻酔銃は取り扱い自体がそもそも簡単ではない。
普通の銃と違い、殺傷能力がない麻酔銃は、猟師や警察官、役場の職員など誰でも撃てるというのが理想だ。しかし、殺傷はできなくとも薬を扱うものだ。
「麻酔薬を使うことができる免許がないと麻酔銃を撃てないので到着まで時間がかかる」
「免許を持っていても動く熊を撃つ訓練をしたことがある人は少ない」
というのが現実だという。
麻酔銃=安全。そんなイメージもあるが、現実では
「撃たれたことで熊が興奮し、周辺住民を危険にさらすリスクもある」
という。
麻酔銃は人も動物も幸せになれる、メリットしかないアイテム......とは言えないようだ。
「麻酔銃を使うことのリスクを伝えたくて漫画に」
10月21日、Jタウンネットはこの漫画の作者であるねんまつたろうさんに話を聞いた。
この漫画を描いた経緯を聞くと
「『射殺ではなく麻酔銃を使って捕獲できなかったのか』という方達の中には麻酔銃の実態について誤解している部分も多々あると思います。そういった方達に少しでも麻酔銃を使うことのリスクを伝えたくて漫画にしました」
と説明。国や自治体が出している情報を、自身でまとめて漫画にしたという。
実際に、16年3月に環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室が発行している「住居集合地域等における麻酔銃の取扱いについて」を見てみると、漫画の中で説明されていたような麻酔銃のメリットや注意点を確認することができる。
また、麻酔銃の特徴として
「投薬器を飛ばして命中させるため、命中精度は猟銃等に比べて低い」
「投薬器は体積に対して質量が低いため、風の影響を受けやすく、また小さな枝葉にあたっても大きく弾道を変えてしまう」
「装填の際、銃種類によっては銃身を取り外す必要があるなど時間がかかる場合がある」
といった点が記載されており、改めてその扱いの難しさが分かる。
この漫画には22日夕時点で6万2000件の「いいね」が付いているほか、
「めっちゃわかりやすい、勉強になります!」
「あっ...もう麻酔銃使ったほうがよかったとか言いません」
「麻酔銃の現実がとてもよくわかりました」
といったコメントが寄せられるなど、大きな話題に。
こういった反響に対して、ねんまつたろうさんは、
「たくさんの方に麻酔銃を使うことのリスクを知っていただけて嬉しいです。
これをきっかけに、最善を尽くした結果『殺処分』という手段を取らざるを得なかった猟師の方達や害獣対策へ当たる全ての方への批判が減ることを願っています」
としていた。