ケーブルカーを降りると、待ち構えるのは大量の石仏 比叡山にある幻の駅「ほうらい丘」がまるで異世界だった
比叡山と聞いて、読者は何を思い浮かべるだろうか。
恐らく、多くの人は「延暦寺」(滋賀県大津市)だろう。
平安時代初期の僧・最澄が開いた天台宗の総本山だ。あの戦国武将織田信長と対立し焼き討ちに合うなど、日本の歴史上、重要な場所であることは間違いない。
この比叡山に向かうルートに、比叡山鉄道坂本ケーブルがある。大津市坂本から比叡山延暦寺をつなぐ、全長2025メートルのケーブルカーだ。この坂本ケーブルについて、次のようなツイートが投稿され、いま話題となっている。
写真には、赤い前掛けをした多くの石仏が見える。これはいったい何だろう?
それに、「坂本ケーブルの途中わざわざ乗員に止めてと言わないと止まらない駅にそれはある」というコメントが添えられているが、どういうことか?
Jタウンネット編集部は、投稿者の「ジャミラは崩れた」(@sunaaji)さんと、比叡山鉄道坂本ケーブルに、詳しい話を聞いてみた。
焼き討ち被害者供養?
Jタウンネット編集部の取材に、投稿者「ジャミラは崩れた」さんはこう答えた。
「私が訪れたのは、9月6日の午後4時頃です。延暦寺の三塔を見て回った後、ケーブル延暦寺駅から下山する際に、比叡山鉄道坂本ケーブル『ほうらい丘駅』に途中下車しました。ケーブル延暦寺駅にて事前に『ほうらい丘』におりたい旨を伝えると通常通り過ぎる所を止めてもらえるようです」
確かに、比叡山鉄道のウェブサイトにも「ほうらい丘駅に下車される際は係員に、乗車される際は駅設置のインターホンにてお知らせください。連絡のない場合、ほうらい丘駅は通過いたします」とあった。
投稿者は京都在住で、比叡山には今まで3、4回行った経験があるというが、滋賀県側にケーブルで降りるのは初めてだったようだ。
「ほうらい丘」駅について知ったきっかけを聞くと、「この地蔵については、付近のホテル勤務の知人から教えられて知りました」と投稿者。
「山中から工事などの際に出土した地蔵を『焼き討ち被害者供養のものかもしれない』と一箇所に集めたものでしょう。このように開発や造成により出土した地蔵が集められること自体はどこにでもあります。出土して集めた地蔵を管理しやすい山の麓などにおかず、そのための駅まで作る感覚が大変に興味深く思いました」
投稿者は、「こうしたシステム込みで地蔵群を祀る感覚が興味深い」と感じたようだ。
地蔵の由来について、Jタウンネット編集部は、比叡山鉄道坂本ケーブルに電話で聞いた。答えてくれたのは、広報担当者だった。
「坂本ケーブルが建設されたのは大正末期のことですが、その工事中に多数の石仏が発掘されました。この石仏を1ヵ所に安置してお祀りしています。
この石仏は、織田信長の比叡山焼き討ちの際に犠牲になった人々の霊を慰めるため、土地の人々が多くの石仏を刻み、死者の冥福を祈ったものと伝えられています」
霊窟に納められた地蔵の数は、約250体とのこと。なぜ作られたものなのか、実際のところはわからないようだ。しかし、地元に伝説が残されていることは確かだったのだろう。伝説は伝説として、尊重すべきかもしれない。
ツイッターにはこんな声が寄せられている。
「比叡山には徒歩で登ったことあるけど、こんなところあるんだ⁉︎ 知らなかったー...今度行ってみようかな」
「ひとりで行くの怖いな!!ある意味きさらぎ駅みたいや...」
「いとゑもし」
「『麒麟がくる』紀行で出てきそうだ」
比叡山焼き討ちの織田信長勢の武将の中には、大河ドラマ『麒麟がくる』の主人公である明智光秀がいる。比叡山焼き討ちでの武功を認められ、光秀は坂本城の築城を許されることになる。現在、ドラマの中では一介の浪人に過ぎない光秀だが、やがて一国一城の主になるきっかけを作るのが、この比叡山であり、坂本なのだ。
大河ドラマでは、比叡山や坂本がどのように描かれるのだろう。まずは一足先に、比叡山を訪れてみるのも興味深いかもしれない。その時は、「ほうらい丘」駅で途中下車してみてはいかがだろう。焼き討ちの加害者・織田勢と、比叡山の被害者、双方に思いをはせる、ディープな旅になるだろう。