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「崩落事故、もう2度と起こさない」 最新技術で危険を予測...広島県の決意と挑戦

Jタウンネット編集部

Jタウンネット編集部

2020.05.08 12:00
提供元:広島県

広島県内を通る国道191号(山県郡安芸太田町津浪)で2018年6月6日に発生した崩落事故。土砂に巻き込まれた乗用車が脇を流れる太田川に転落し、乗車していた男性が死亡した。

事故があったのは、断崖絶壁と川に挟まれた、まさに難所。広島県の資料によれば、事故現場は異常気象時の通行規制区間に指定され、法面には落石などを防ぐロックネットが施工されていた。

だが、事故は防げなかった。

事前に崩落を予測できていれば――このような痛ましい事故が2度と起こらぬよう、広島県はある挑戦を始めた。

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これまで、崩落事故を防ぐための対策として実施してきたのは、週に1度の「目視」でのパトロール点検や、数年に1度の専門家による斜面チェックなど。その際に異変が確認できれば、都度対応するという形をとっていた。

言うまでもないが、こうした人力での作業には当然限界がある。専門家による確認も日常的ではなく、かといって頻度を上げるにはさらなる費用がかかる。

そこで広島県は、法面崩落の予測を実現する新たな技術のアイデアを全国から募集することを決めた。

県がかねてより展開していた、最新のデジタル技術を駆使して地域課題の解決を図るプロジェクト「ひろしまサンドボックス」の一環としての取り組みだ。公募を見た企業や大学はそれぞれ手を組み、コンソーシアム(共同事業体)となって応募した。

地域が抱える課題に対して、全国の企業・団体から解決策を募るというのは、広島県ではこれまでになかったこと。いったいどのような効果が期待できるのか、Jタウンネット記者は実際に崩落現場を訪れ、県の土木建築局道路整備課に詳しい話を聞いた。

「防げなかった」事故の現場は

20年3月26日、筆者は国道191号の崩落現場を訪れた。

白くなっているのが崩落部分
白くなっているのが崩落部分

山間部とはいえ集落がぽつりぽつりと存在し、交通量もそれなりにある。

最大2メートルの深さまで崩れたという法面はすでにコンクリートで固めてあり、その上からは杭のようなグラウンドアンカーで固定、さらにロックネットで覆われている。工事された箇所は遠くから見ても一目でわかるようになっている。

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固定されている
固定されている

後に県の職員に聞いたところ、「ここまでやれば数十年は大丈夫」とのことだ。

現場から少し離れたところでは「走行注意 落石の恐れ」と電光掲示板が立っている。場所によっては集落のすぐ近くまで山肌が迫り、崩落はけっして他人ごとではない。

「落石の恐れ」と注意喚起
「落石の恐れ」と注意喚起

前回の事故では、亀裂の多い斜面の不安定化が進み、岩盤の緩みが進行。降雨が引き金となり崩壊した。最大深さ2メートルと大きく崩れた岩塊はロックネットの許容量を超え、末端から道路に流出したという。

この「緩み」にもっと早く気づくことができれば、崩壊するまえに対策が打てたかもしれない。

しかし斜面状況や構造物の日常的なパトロールは、職員などが「目視」で行っており、崩落や落石を事前に予測し対応することは困難。そこで県は、各企業や団体の持つ技術力を駆使した、崩落予測を実現する提案を募集したわけだ。

法面の崩落、どうやって予測する?

しかし、具体的にどうやって崩落を予測するのだろうか。Jタウンネットは実証実験の責任者である、土木建築局道路整備課の高月哲さんと飛田祐典さんに詳しい話を聞いた。

飛田祐典さん(写真左)、高月哲さん(同右)
飛田祐典さん(写真左)、高月哲さん(同右)

――なぜ「法面崩落の予測」を「ひろしまサンドボックス」のテーマにしたのでしょうか。

高月さん:2018年の崩落事故では、1人の方が亡くなられました。県としてもこういったことを2度と起こさないためにどういったことをしていくべきかということで、学識経験者等も参加する検討会を立ち上げ、崩落の原因究明、対策工法および今後の法面対策のあり方について検討してきました。

――崩落現場はかなり強力に固定されているようでした。

高月さん:今日行った現場は、ハード対策として検討会で決定した復旧工法でガチガチに工事してありますが、この工法を全部の法面に適用するというわけにはいきません。ハード対策も重要ですが、ソフト対策を充実させる必要があるということで、法面の監視をして事前に危ないところの目星をつけ、崩落を未然に防げればということでスタートしました。

――これまではどのような点検方法をとっていましたか。

高月さん:週に1度、道路パトロールカーで全ての道路を点検しています。その時点で変わった所が発見できれば対応しますが、なかなか人の目で全部を把握するのは難しいです。この他には5年に1度、専門機関に斜面をチェックしてもらうことがありますが、日々の細かい変化には対応できません。その頻度を上げようと思うとお金がかかるので、デジタル技術を活用することになりました。
広島の県道(地図は広島県提供)
広島の県道(地図は広島県提供)

――法面崩落の予測には、全国から集まった提案のうち、4つのコンソーシアム(共同事業体)のアイデアが採用されました。例えば、荒谷建設コンサルタント(広島市)と、広島電鉄・安芸太田町のコンソーシアムでは、どのような実証プログラムを実施する予定ですか。

高月さん:例えば、荒谷建設コンサルタント(広島市)は広島電鉄のバスや安芸太田町のスクールバスに小型カメラを搭載し、岩盤に変化が起こってないかを監視します。

また、目視困難な斜面における遠隔操作ロボットを使った法面調査もアイデアとして提案しています
バスに小型カメラを搭載(荒谷建設コンサルタントの資料より)
バスに小型カメラを搭載(荒谷建設コンサルタントの資料より)

広島県が管理する道路は広島市を除く県道と国道で全長約4200キロ。高月さんは「最終的には一般車両や緊急車両などに装置を付け、より頻度を上げてデータを収集、分析するところまでできるようになれば」と期待を語った。

企業にとってメリットは?

法面の崩落予測について行われる実証実験は、これだけではない。

建設コンサルタントのエブリプラン(松江市)らは、人工衛星の画像を使って地表面の変動を捉え、広いエリアでの崩落予測モデルを構築する。

復建調査設計・広島支社(広島市)らはレーザー測量で取得した法面点群データから「3D道路法面台帳」を作成し、経年劣化や崩落前兆を把握する予定だ。

基礎地盤コンサルタンツ・中国支社(広島市)らはAI内臓小型カメラ等を用いた定点監視により落石や音などの法面崩落の前兆現象を把握。また樹木の頂点を座標とし、その「ずれ」から崩落を予測する。

崩落現場。右手は太田川が流れる
崩落現場。右手は太田川が流れる

今後、提案は県内の道路で実証実験が進められる。崩落予測の実現に期待が高まるが、そもそも今回のように行政からテーマを提示して、提案を募集するやり方は珍しいという。

あえてこの方法をとったのには、何か理由があるのだろうか。

飛田さん:通常、公募を出すときは主に土木業界の方に入札していただくのでIT業界や大学などに発注することはあまりありません。それが悪いわけではなく、今回はデジタル技術を使った新たな取り組みを模索するということで、他の業界の視点が入ってくることでもっと新しいものができるかもしれないと考えて全国的に募集をかけました。業界の壁を越えて手を組んでいただいていることが、一つの大きな違いです。

――なぜこれらのコンソーシアムを選定されたのでしょうか。

高月さん:課題解決に必要な技術が実現性をもって示されているか、革新性があるかなどを審査委員会で判断しました。既存の技術でなく、新しいことにチャレンジされているところは評価が高かったのかなと思います。実験はいきなり広島県全域で行うのではなくピンポイントな場所でやっていきますが、重要なのは県下全域に今後展開できるかどうか、ですね。

――新しい技術となれば、企業への負担が大きいのでは。

高月さん:お金の面ではおそらくどこも赤字だと思います。

――赤字覚悟のうえで参加する企業・団体のメリットはどこにありますか。

高月さん:本来であれば各社で実験してから技術を売り込みますが、今回は行政から「新しい技術を開発してください」と依頼しています。これに対しては各社から「ぜひチャレンジしたい」という声が多く寄せられました。企業・団体にとっては新しいことにチャレンジしている、というアピールにもなるのではないでしょうか。
飛田さん:通常、道路で実験をやるとなると企業側が道路の管理者に許可などをとる必要があります。今回は県から依頼しているので、それが必要ありません。実はやりたいと思っていたことができる、と聞いています。

新しい技術開発のための「実験場所」の提供。そこが参加企業・団体にとって大きなメリットの一つであるようだ。

除雪作業を誰でもできるように

ここまでは「法面崩落の予測」というテーマを中心に話を聞いてきた。

今回の「ひろしまサンドボックス」の取り組みでは、このほかにも「除雪作業の支援」と「路面状態の把握」についても、全国の企業などからアイデアを募集している。それぞれ、どんな課題があるのだろうか。

――「除雪作業の支援」を選んだ理由を教えてください。

飛田さん:除雪は熟練の技術を持つ機械のオペレーターに支えられています。近年、オペレーターの高齢化が進んでおり、若者の担い手も不足しています。運転には技術がいりますし、朝早く寒い中で運転して、という大変な作業になりますので。そういった大変なものをデジタル技術で少しでも支援できるようにしたいと考えています。

例えば雪で路面が見えない場合、熟練のオペレーターであればマンホールの位置を把握しているが、素人ではマンホールに気づかず機械をぶつけて壊してまうことがあるという。そこでデジタル技術を用いて障害物の存在を教えてくれるようになれば、誰でも除雪ができる。最終的には「全自動」になるのが理想だ。

飛田祐典さん(写真左)、高月哲さん(同右)
飛田祐典さん(写真左)、高月哲さん(同右)

――「路面状態の把握」はなぜ選ばれたのでしょうか。

飛田さん:車が走っていると、道路には陥没やひび割れ、穴などができ、それを踏むとパンクしてしまうことがあります。法面と同様、状況を観察して穴が開く前に予測するため、監視方法などを提案していただきました。
高月さん:現在は週に1度の道路パトロールで、目視による確認を行っています。また5年に1度、専用車両でデータをとるなどしていますが、非常に高額です。維持管理の予算はこれからもずっと必要なものですが、どんどんお金を使えばいいとは思えません。できるだけ費用を抑え効果を上げたいと思っています。

法面崩落の予測と路面状態の把握は20年9月、除雪作業の支援は21年3月末まで実証実験を行う予定。行われた実験の中から、テーマごとに1件程度の提案を採用して、事業を継続する予定だという。

道路管理のあり方が変われば、未然に防げる事故が必ずあるはずだ。広島県と各企業・団体の挑戦に期待したい。

<企画編集:Jタウンネット>

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