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あなたが知らない「絵の具職人」の1日 8時間ずっと、同じ色を見つめ続けて...

横田 絢

横田 絢

2020.01.18 08:00
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1日8時間、同じ色の絵の具をつくり続ける

そんなこだわりの絵の具を作っているのが、鈴木竜矢さんだ。

もともと月光荘の社員として働いていたが、3年ほど前から職人として絵の具作りに携わっている。約40年間にわたって絵の具をつくり続けてきた職人が高齢になってきたため、後継者として職人に転向したそうだ。現在は、師匠と弟子として、2人で絵の具を作っているという。

投稿された映像は、鈴木さんが「ライトレッド」という色の油絵の具を作っているところ。

赤い土のような色の「ライトレッド」
赤い土のような色の「ライトレッド」

「顔料っていう粉と、バインダーっていう、油絵の具だと油ですね、油と防腐剤とかそう言ったものを配合して、粉状のものを粘性のある絵の具にしていく作業です。
顔料と顔料がくっついていると、固まっちゃったりするので、なるべく均一にローラーで分散させています。
ローラーから出てきたやつをホーローの鍋に入れて、全部出てきたらまたローラーに乗っけてっていう作業を何十回も繰り返して、絵の具にしていきます」(鈴木さん)

1度に作る絵の具は6リットルほど。1色の絵の具を完成させるのは、一日がかりの仕事になるそうだ。何回ローラーにかければよいか、というのは絵の具の様子を見ながら判断するという。

「冬と夏でも変わってきますし、顔料を同じメーカーから取り寄せても、ロットによって色が違ったりとか、そういうのがあるので。色が違っている場合は、他の色を足して調整したりとか、微調整をします。 見本として前回つくった絵の具と新しく作っているものを、両方ともキャンバスに塗ってみて、判断しています」(鈴木さん)

鈴木さんによると、色を見なくてもつくれる絵の具(白色など)の場合は同時に2色作ることもあるが、ほとんどの色はつきっきりになって様子を見る必要がある。顔料によって固まりやすかったり、熱を持ちやすかったりという特徴もあり、状況を見ながらローラーのかけ方を変えているそうだ。

1人が1日でつくれるのは1色で、毎日、足りなくなった色から補充していくという。

順調にいけば8時間ほどで絵の具は仕上がるそうだが、それ以上かかるときもあるそうで、「重たいし、夏はちょっと辛いですね」と鈴木さん。

絵の具を作る鈴木さん(公式ツイッターより)
絵の具を作る鈴木さん(公式ツイッターより)

「顔料にもよるんですけど、結構重たいんです。チタンホワイト(白色の絵の具)とかは異常に重たいのでなかなかの肉体労働になります」(鈴木さん)

そんな過酷な作業を経て迎える絵の具が出来上がる瞬間は、とても印象的なものなのだそう。

「(絵の具を)練っていると、ある段階で表情が変わるんですよ。しっとりと色っぽくなるというか、『あ、絵の具になってきた』という瞬間があって。その時はやっぱりゾクゾクっとしますよね」(鈴木さん)

絵の具の表情が変わる――。それが具体的にどんな現象なのか、言葉にはしづらい、と鈴木さんは話す。

「配合とか、だいたい決まってはいるんですね。この色を作るために、これを何グラム、何グラム、みたいな。でもそれを使って同じようにやっても、毎回同じにはできないんです、なぜか。色は一緒なんですけど、何かが違う時がある」(鈴木さん)

そんな時、どうやって絵の具を完成させるかというと、「最終的には勘になる」。その勘を培うためには絵の具作りの経験を積むことが必要で、鈴木さん自身も「最近はなんとなくわかるようになってきた」という段階。絵の具の完成は、師匠と相談して判断しているという。

「絵の具作りには、こうすれば良いという正解がない。だからこそ、仕上がった時、出来たものが愛おしいですよね。『良い絵の具に仕上がってくれた』と」(鈴木さん)

鈴木さんは、絵の具を作っている時こそ無心で作業に集中しているが、チューブに詰めるときには「これが(絵を描く人に)届けばいいな」と考えているそう。そして、より多くの人に使ってもらえるよう、常に絵の具の「新しい着地点」を目指して研究を重ねているという。

チューブに充填された「ライトレッド」
チューブに充填された「ライトレッド」

「月光荘の絵の具を昔から好んで使ってくださっている方は多いです。いつも考えているのは、前から使ってくださっている方々の期待に添いながらも、よりよい着地点はあるんじゃないかということ。
昔から好きでいてくれる人の期待にも応えながら、新たに使ってくださる方にもちゃんとマッチするような色を作っていきたいと思っています」(鈴木さん)

1色の絵の具を作るために、これほどの手間がかけられているとは...。

図画工作に苦手意識のある筆者でも「こんな絵の具で絵を描いてみたい」と思わされた。すると、「色を重ねるだけでも楽しいですよ」と鈴木さん。

月光荘画材店の絵の具
月光荘画材店の絵の具

月光荘には様々な色の絵の具がある。油絵の具だけでなく、水彩絵の具やアクリル絵の具も扱っている。

数多くの絵の具の中から、自分のお気に入りの1色を見つけてどこかに塗ってみる。たとえ絵が描けなくても、それだけで十分楽しめそうだ。

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