九州の醤油が甘いのはなぜ? 地元の専門家に聞く「3つの要因」
2019.05.18 11:00
「うまい」ことは「あまい」こと
電話取材にこたえてくれたのは、鹿児島県醤油醸造協同組合理事工場長の日高修さんだった。
「鹿児島では、美味しいことを『うまい』と『あまい』と、両方で表現します。江戸時代、長崎県の出島を通して、オランダとの交易で砂糖が持ち込まれ、鹿児島県奄美地方でサトウキビの栽培が盛んになりました。砂糖が入手しやすかった九州で砂糖文化が花開き、甘い料理が好まれるようになったと考えられています。
砂糖は外貨を稼ぐ重要な商品であり、庶民の口に入るのは非常に難しかったようです。鹿児島の甘さを貴ぶ背景には、サトウキビが目の前にありながらそれを口にすることができなかった渇望感が、心理的に影響していると思われます。客を甘い料理等でもてなすことは、薩摩の最高のステータスと考えられています」
甘い醤油が好まれるのには、こんな歴史的、文化的背景があったのだという。
「また、暖かい気候で生活をする人は寒冷地の人より余計に汗をかきます。不足した塩分と糖分を必要とします。必然的に甘辛い料理が好まれ、甘口の醤油が受ける要因となったと思われます。暑いので食べ物が傷みやすいため、ワサビや酢を多用することになり、それには甘口醤油のほうが合うし、砂糖には防腐の作用があり味付けが自然と甘くなったとも考えられます」
つまり、気候的な要因も考えられる。九州は気温が高く、夏場を中心に汗をかき、体力を消耗するため、不足した塩分と糖分を補うため、甘辛い味を欲するというわけだ。また地方によっては、重労働の漁師が砂糖を溶かした醤油を携え、船上で調理時に使った習慣が広まったという説もある。