桑田佳祐、ミスチル桜井、黒柳徹子も... スターが愛した大阪の絶品「忍者鍋」
大阪を代表するビジネス街として知られる北浜。重厚な雰囲気の堺筋から少し外れ、阪神高速の高架を望む東横堀川沿いに「Marilyn's Kitchen(マリリンズキッチン)」はある。
店名にもなっている名女優マリリン・モンローが描かれたピンクの妖艶な看板が目を引く。何でも、サザンオールスターズの桑田佳祐さんや加山雄三さんら大物著名人も愛した絶品鍋があるという。
素材が決め手のシンプル鍋
筆者がマリリンズキッチンを訪れたのは2018年11月15日。大阪メトロ堺筋線北浜駅を降りて店を目指した。この一帯は北浜の金融街だけでなく、小林製薬や塩野義製薬など大きな製薬会社が本社を置く薬の町・道修町もある。
それだけあって多くのビジネスマンが行きかう場所だ。人の波をくぐり抜け、阪神高速の下の東横堀川沿いに入ると、大通りとは打って変わって妖しげな雑居ビル街がある。
そこでピンクの光を放つのが「マリリンズキッチン」だ。しかし、ここに桑田さんや加山さんら大スターが来ているとはちょっと考えづらい。その真相を確かめるためにも地下の店舗へと歩を進めた。
中に入ると少し時期の早いクリスマスソングが流れている。マリリン・モンローさんやオードリー・ヘプバーンさんら華やかな銀幕のヒロインたちの装飾が出迎えてくれる。
少し店内を見渡すとここを訪れた著名人の写真があった。
確かに大物芸能人が来ているようだ。そうこうしているとメイド服姿の店員さんがカセットコンロの準備を始めてくれた。
マリリンズキッチンの名物「忍者鍋」の登場だ。
忍者と呼ばれるのは豚肉の産地が三重県伊賀市の「伊賀豚」であることに所以がある。それにしてもほうれん草の束と豚肉だけとはシンプル過ぎではないか――。
マスターが早速鍋に具材を入れてくれた。
この日は雄大な八ヶ岳を望む信州野辺山で育ったオーガニックなホウレン草のほか、最高級の昆布と言われる北海道・香深の昆布だし。このだしを加えた合わせ醤油に1703年創業の京都祇園・原了郭の黒七味と徹底的にこだわった食材が並ぶ。
また、時期によって食材の産地が変わり、12月になるとホウレン草は和歌山県紀ノ川市にある吉岡農園産のものに切り替わる。最高の味にするためのこだわりに驚くばかりだ。
ある程度煮立ってきたら食べごろだ。忍者鍋の大きな特徴に灰汁がほとんど出ないことも挙げられる。肉の臭みや少なくホウレン草も渋味やいがらっぽく感じる味が少ないことが伺える。
辛いものが苦手な筆者だが、マスターの勧めで黒七味を振りかけていただいた。
普段、皆さんが食べる豚肉やホウレン草の味を想像していただきたい。この忍者鍋はそのすべてを根底から覆しかねない味がするであろう。
筆者は口に入れ咀嚼した瞬間、芳醇な甘みとさわやかさ、黒七味の鼻から抜ける豊かな香り。あまりの衝撃に筆者の顎は震えてしまった。
今回、写真撮影を行うにあたってスタンダードな4人前を出していただいた。しかし、1口食べてしまえば丸で憑りつかれたかのように箸が止まらない。今までに食べたことのない素材の美味しさ。これを目の当たりにしてしまい恐怖感すら覚えてしまった。
ホウレン草が鍋から一旦なくなったところで冷静になる。今起きた「事件」とも言うべき美味をどう表現できるのか。ホウレン草を折って鍋に投入する作業を続けながら考えた。
醤油の程よい塩気がホウレン草の甘さを引き立て、その甘さが豚肉の旨味を引き出す。黒七味は心地よい刺激のいたずらを舌に施した後、香りが抜ける。全てが連鎖して巻き起こる美味の台風に筆者はあっけなくユートピアへと吹き飛ばされてしまった。
数あるメニューの味は日本一
夜の繁盛する時間の準備の合間を縫ってマスターの河村太郎さんが取材に応じてくれた。
数多くの著名人が訪れるマリリンズキッチン。写真にあった加山さん黒柳さん以外に誰がいるのだろうか。
「桑田(編注:佳祐)さんが誕生日会をやってくれたり、ミスチルの桜井なんかも来たりしましたね」
と、ビッグネームの数々が飛び出した。彼らもここへ来た際は必ず「締め」の1品として忍者鍋を食べるという。中でも、2012年に亡くなった森光子さんはマリリンズキッチンの大ファンだったという。
「森光子さんは亡くなる直前まで通ってました。東京でも色々と評判を言ってくれていたみたいです」
あれだけの逸品ならば大女優に天才ミュージシャンも虜になるのも頷ける。
とてもやさしい口調のマスターだが、素材の話になるとプロの口調に代わる。
忍者鍋に留まらず、この店のメニュー全てが河村さんの目利きを通過した「精鋭」たち。中には河村さんの人脈を駆使して手に入れた特別な素材もある。
もっと筆者の胃が大きければ、食べたいメニューがいくつも並ぶ。どれを食べても新しい体験ができそうだ。
大物を魅了した美味――。マスターの「感覚」と素材への深い造詣があるからこそ出せる奇跡の味なのかもしれない。東京では決して味わえない体験を味わうだけに、北浜を訪れるのも一考かもしれない。
(Jタウンネット編集部 大山雄也)