超一流ヨーデル歌手がネタに全力 富山の謎アニメ「ヨーデルの女」に迫る
「ヨーデルの女」というアニメをご存知だろうか。アルプス在住の少女の作品のことではなくて、富山県のテレビ局チューリップテレビ(TBS系)で2017年9月から放送されている、れっきとしたアニメだ。
当初はCM枠で短い尺のアニメとして「高校野球」編、「かき氷」編が放送されていたが、そのあまりに独特でシュールな展開にツイッター上などで話題となり、2018年6月からは富山出身の芸能人、柴田理恵さんが登場する「『ヨーデルの女』天気予報 柴田理恵篇」が放送開始となった。
ちょっと情報量が多すぎて、未見の人は混乱してしまうかもしれない。正直なところ、記者も文章だけでは何を言っているのかよくわからない。
「海のあるスイス」こと富山が舞台
ちょっと説明が難しい「ヨーデルの女」。見れば見るほど疑問が湧くのだが、せっかくなので、Jタウンネット編集部は放送しているチューリップテレビに取材を行うことにした。答えてくれた担当者は次のように話す。
「『ヨーデルの女』は、よく見かける建前だらけの日常に、突然『ヨーデルの女』があらわれ、本音を代弁するかのごとくヨーデルを歌い、去っていくというストーリーのアニメです。富山県をアニメで盛り上げることができたらと思い、地方局と共同で数多くの作品を制作した実績のある映像制作会社のディー・エル・イー(東京都千代田区)と、企画を進めました」
なるほど、確かに最近は地方発のアニメをよく見かける。制作段階から自治体と協力して、アニメの舞台としてうまく取り込まれている作品もあるし、ひとつの地方活性化の手段なのかもしれない。しかし、なんでヨーデルなのだろうか。
「企画を詰めていく中で 『素朴で純真なヨーデルの歌声に、とんでもない歌詞が聞こえてきたらおもろいのでは?』 『最後に"素敵な日~♪"って言えば許されると思ってる純朴なキャラのヨーデルの女が、悪気なしに歌って去っていく。そのギャップを楽しんでもらいたい』 といったアイデアが出され、ヨーデルがテーマになりました」
結構理由もゆるかった。とはいえ、その選択は正しかったようだ。富山県限定で放送されていたにも関わらず、ツイッター上での反響は非常に大きく、担当者も驚いたほどだとか。
実際にツイートを見てみると、内容のシュールさに言及しているものも多いが、「ヨーデルの女」の(ヨーデルを歌っている)声優を務めている北川桜さんが、日本における女性アルプスヨーデルの第一人者であり、プロのヨーデル歌手であることに驚く声もよく挙がっていた。
超一流ヨーデル歌手、北川さんにも聞いてみた
プロが本気でネタに取り組んでいる姿は、とても面白いものだが、北川さんのキャリアをみると、ちょっとすごい。
スイス連邦ヨーデルフェストで2008、14、17年に1級最高級クラス受賞。2018年にはベルンヨーデルフェスト1級最高級クラス受賞。ドイツでは2011年にアジア人ヨーデル歌手として初めてミュンヘンオクトーバーフェストに出演し、2012、13、17と出演し続けている。はっきり言って、本場で認められた超一流だ。
「ちょっとヨーデル歌いません? アニメのネタなんですけど」、と頼める気がしないのだが、なぜ引き受けたのだろう。Jタウンネットはなんと北川さんにもお話を伺うことができた。
「私は楽しいことは大好きなので、このヨーデルの女のお話は面白いなと思い、喜んで受けさせていただきました」
さらに北川さんは、ヨーデルの根底にあるのは「面白い」という気持ちだったのでは、と指摘する。
「そもそもヨーデルも最初は牧童たちのひとりが、変わった発声で牛などを呼んでいたところ、『それ面白いな』と皆が真似をし、そのうちに歌へと進化していった、そんな日常の中の『遊び』から生まれてきたものだとされています。お祈りや合唱にも発展していきましたが、その根底にあるのは面白いという気持ちではないでしょうか。アニメで歌うことも同じだと思っています」
ネタがネタだけに、人によっては結構心に刺さる雰囲気にもなってしまいそうなのだが、北川さんは明るく朗らかに笑い飛ばし、言われたほうも笑える余地を残すことを意識して歌っているという。
「早いテンポなので、きつく攻めた感じにならないように注意しています。ヨーデルの魅力は、人が非日常を感じて、楽しいと思うところ。『人の笑顔が広がる魔法の歌』だと思っています。私は、人の笑顔が広がる瞬間が、何よりも好きなんです」
是非とも北川さんのヨーデルを聞きたくなってくる。そして、本場が認めたヨーデルのネタが楽しめるチューリップテレビ――を擁する富山に、俄然興味が湧いてくるのではないだろうか。