ミレーにこだわる山梨県立美術館 なぜ70点もの名画を集めてきたのか
2018年5月22日、後藤斎(ごとう・ひとし)山梨県知事が定例記者会見の中で、同県立美術館開館40周年を記念し、ジャン=フランソワ・ミレーの作品『角笛を吹く牛飼い』を約8900万円で購入すると発表した。美術品購入などのために県が積み立ててきた美術資料取得基金を利用して購入する予定で、議会での議決を経て、早ければ9月には一般公開されるという。
日本ではもちろん、国外でも人気のある19世紀のフランスを代表する画家ということもあり、なかなかの価格――だが、さらに驚くのはこの作品が山梨県立美術館にとって、なんと70点目のミレー作品になるという点だ。
この点数、ミレー作品のコレクション数が多いとされるアメリカやフランスの美術館と比べても、かなりの多さなのだ。なぜ、これほどミレーを収集しているのだろうか。
ミレーの画風が山梨県の風土にも合っていた
ミレーといえば岩波書店のロゴマークにもなっている『種まく人』に代表される、農村・農民画で知られる人物だ。「バルビゾン派」と呼ばれる自然主義的な画風の一派に分類されており、その牧歌的な作風から母国フランスではもちろん、アメリカや日本で非常に人気がある。
仮にミレーなんか知らない、という人でも前述の『種まく人』や『落穂拾い』といったタイトルや絵画は耳にした、目にしたことがあるのではないだろうか。
作品カタログなどによると、デッサンを除いた油彩画や水彩画などは1000点弱確認されているが、ルーヴル美術館やオルセー美術館などもミレーの収蔵数は30~40点程度で、山梨県立美術館の70点はかなりの規模だ。なんと代表作である『種まく人』も収蔵している。
なぜここまでミレーコレクションが充実しているのだろうか。Jタウンネットが山梨県立美術館に取材を行ったところ、ミレー担当者から回答を得ることができた。まず、そもそもミレーの収集が始まったのは美術館開館前の1978年。
当時の田辺国男山梨県知事が、開館にあたってどのような作品を収蔵すべきか、専門家に相談をしたところ、バルビゾン派の画家、中でもミレーの名前が挙がり、コレクションの中心の1つとして位置づけられたという。
「近代美術を中心的に扱うことが構想された当美術館において、特色を出すべく、ヨーロッパ美術の収集が検討されていました。中でもミレーは豊かな自然の中で、大地からの恵みを受け生活する農民の姿を描き出すことで有名になった画家であり、自然豊かな山梨県の風土に合う画派だと考えられたようです」
地元の金融機関や篤志家などの寄付があり、開館前にミレーの作品の中でも重要な位置づけにあるとされる『種まく人』『夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い』の2作品を入手することに成功。
以降コレクションの中心の1つとして、ミレーの作品の収集を継続しておこなうようになったのだ。現在ではミレー館と名付けたコレクション展示室も用意されている。
直近では2011年に1862年ごろの作品とされる『古い塀』を1億8732万円で購入しているが、購入する作品はミレーだったらなんでもいい、というわけではない。
「最もコレクションに相応しい作品を選ぶべく、検討をいたします。そのときに考慮されるのは、作品の魅力や充実度と共に、作品の主題、制作の時期が上げられます。農民の姿を描くことで最もよく知られるミレーですが、画業を通じて、肖像画、神話画、宗教画、風景画など、多くのジャンルに取り組んでいます。ミレーの画業に見られる多様な側面をご紹介すべく、画業の様々な時期に制作された、幅広い主題の作品を収集することが考慮されています」
現在収蔵されている作品はすべて常時公開されているわけではなく、作品保護の観点から年4回行われる展示替えを通して、入れ替えを行いながら展示している。ただし、油彩画11点については、基本的には通年展示されているという。
最近では国外の美術館から出品依頼も多くなっており、昨年フランスのリール宮殿美術館で開催された大規模なミレーの回顧展に、『落穂拾い、夏』を貸し出したとのこと。
国外からも注目されている山梨県立美術館のミレーコレクション。皆さんもぜひその目で確かめてみてはどうだろう。