はだしのゲン作者描く『広島カープ誕生物語』は、今だから読みたい名作!
カープ、優勝おめでとう!――というわけで、今回ご紹介したいのは、広島とカープにまつわる一冊の漫画だ。
その名も、『広島カープ誕生物語』。作者は中沢啓治さん。言わずと知れた、『はだしのゲン』のあの中沢啓治さんである。広島県内の小・中学校などでは、図書館に入っていることも少なくなく、地元での知名度は比較的高いが、他県民にはあまり知られていない隠れた名作である。
「カープきちがい」たちの熱い生き様
タイトルが『広島カープ誕生物語』なので、カープ草創期に活躍した選手や関係者が主人公かな? と思うかもしれないが、そうではない。なにしろ、
「一九四五年八月六日 広島市に原子爆弾が投下され 人も建物もすべてが破壊され無となり 日本の長い戦争の歴史がおわった」
表紙を開くと、いきなり飛び込んでくるのは、原爆のキノコ雲なのだから。
そう、本作は、廃墟の中から立ち上がり、たくましく生きる広島人=「カープきちがい(原文ママ)」たちの生きざまを、カープとのかかわりを中心に描いた作品なのである。
――と書くと、ちょっととっつきにくいと思われるかもしれないが、主な舞台が戦後の平和な時代な分、「中沢節」をむしろ存分に楽しめる。
「シゴウしたるぞ!」「審判を殺せー」
『ゲン』でもおなじみの「シゴウしたるぞ!」「カバチをたれるな」「くやしいのう」といった独特の広島弁や、ヤクザやカープをバカにする東京人たちとのバトル、とぼけたギャグの数々――。
中でもインパクトが大きいのは、主人公たちカープファンたちの過激な応援である。フェンス代わりに使われているロープを引き下げてホームランにしたり、逆に相手のホームランをめぐって「疑惑の判定」が起こったときには、
「おどりゃ審判なんであれがホームランじゃ」
「わりゃ殺しゃげたるぞ」
「石本ー審判を殺せー」
などとブーイングを浴びせた挙句、試合終了後に暴動を起こしたり......。
『広島カープ誕生物語』は″ただのドキュメンタリーでしかない″ことが最高にとち狂ってるんだよなぁ pic.twitter.com/94ChAEB2Ms
— 猫耳幼女のyasu (@Library_Yasu) 2016年9月8日
上記のツイートにもあるのだけれど、(漫画的誇張はあるかもしれないが)それらのエピソードの多くが実話だというのが、またすごい。
優勝したら結婚式を...で40代に
もちろん、いい話も満載である。むしろ、そちらが本題だ。
資金難に苦しみ、解散の危機に立たされたカープを救うため、ファンたちがなけなしのお金を集めた、いわゆる「樽募金」の逸話。移籍が伝えられた選手を引き戻すための猛説得。市民を挙げての新選手の歓迎。まさに「市民球団」カープの姿が、生き生きと描かれている。
物語の舞台となるのは終戦直後から、1975年のセ・リーグ初優勝まで。この間、広島は焼け跡から発展を続け、終盤には立派な市民球場も誕生、そして中心街にはビルが建ち並ぶ。原爆孤児だった主人公も、物語ラストには40代。「カープが優勝したら結婚式を挙げよう」と約束した妻と、ようやく晴れの日を迎え、「カープ誕生物語」は幕となる。
そう、この作品のメインテーマは、『はだしのゲン』で触れられなかった広島の「その後」でもあるのだ。合わせて読むと、なお感慨深い。
1994年に刊行された汐文社版は入手が困難だが、2014年には復刻版が出ており、またKindleストアで電子書籍版も配信されている。1600円とちょっと高いが、おススメの一冊である。