童話の街で愛される"満にら"とは? 岩手県花巻市の「満州にらラーメン」
日本各地に根付いた「麺料理」を求めて、全国を巡る「ご当地ヌードル探訪」。今回は岩手県花巻市にやってきました。ここは今年で生誕120年を迎えた童話作家・宮沢賢治のふるさと。賢治の心の裡(うち)にあったという理想郷“イーハトーブ”の礎となった地として有名です。


そこはかとなく幻想的な童話の世界の雰囲気が漂う花巻市ですが、どこの観光地も名所・史跡を離れれば人の営みが感じられるもの。この街の郊外にも地元で長年愛されるご当地麺がありました。その名も「満州にらラーメン」です。でも、なぜ花巻で満州なのか? 発祥の店「元祖満州にらラーメン さかえや本店」に、確かめに行きました!
■にらだらけのスープは意外にマイルド!
花巻駅から国道4号線を上り方面に車で約10分。田んぼに囲まれた一角に、ドーム型の不思議な建物が見えてきました。ここが1960年創業の老舗ラーメン店、さかえや本店です。


案内してくれたのは、三代目の伊藤陽介さんです。満州にらラーメンの味は、醤油、味噌、塩から選べますが、聞けば一番人気はスタンダードな味の醤油だそう。それでは、今回は醤油を注文してみましょう!

目に飛び込んできたのは緑と赤のコントラスト! 中心に盛られた具材を、鮮やかなにらといかにも辛そうなスープが取り巻いています。
伊藤さん「満州にらラーメンはベースとなる醤油、味噌、塩スープに辛さのあるタレを入れて作ります。タレは創業から注ぎ足して使ってきたものです」
スープの表面を覆い尽くすほどのタレにはラー油などが使われているようですが、詳しい材料は秘密だそう。どれだけ辛いのかと、おそるおそるスープを一口飲んでみると、思いのほかマイルドで飲みやすい! ピリッとした辛さを味わった後に、醤油の心地よい甘さと余韻が感じられます。

麺は細縮れ麺。縮れがとても強いユニークな麺で、たっぷりとスープを絡めとってくれます。やわらかめの食感も独特ですね!
伊藤さん「この細縮れ麺も創業から使っています。スープに合う麺であるのは大前提なんですけど、『安い、早い、うまい』がうちのコンセプト。細麺なのでゆで上がりが早く、すぐにお客さんに提供できるんですよ」
にらラーメンだけに、にらは麺を食べ切っても残ってしまうほどたっぷり入っていますが、その他の具材も存在感バツグン。豚バラ肉は厚めに切ってあってジューシー。うめとしょうがを合わせて作った自家製の“うめしょうが”は酸味が強く、混ぜればスープにさわやかさをプラス。にんにくの芽は醤油に漬けてあり、タレの辛さに負けない塩味を楽しめます。 スープまで飲み干そうとしたあたりで、体が少し汗ばんできました。個性的な具材とともに、ほどよいスタミナ感を満喫できる一杯です!
■常連客に“満にら”と呼ばれて
ユニークな造りのさかえや本店。田園のある風景に突然現れますから、初めて来た客はびっくりしそうですよね。公共施設や天文台のようにも見えますが、元からあった建物を改装したのでしょうか?
伊藤さん「居抜きではないです。2002年に、ここから数百メートル離れた場所にあった店舗を移転したのですが、そのとき二代目が新しく建てたものなんですよ。昔どこかで見た建物を気に入ってモデルにしたと聞いていますが、目立ちたかっただけじゃないですかね(笑)」
店内の装飾もどこかユニーク。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をイメージにした鉄道模型や花巻の方言を集めた張り紙など、遊び心がちりばめられています。

そんなさかえや本店で、満州にらラーメンは創業当時からふるまわれてきた看板メニュー。ルーツはずばり満州にありました。
伊藤さん「初代は店を始める前に、戦争で満州に行っていたそうです。そのとき満州で飲んだスープを参考にして、帰国してから作ったのが満州にらラーメンだと聞いています」
訪れる客のほとんどは常連で、外の駐車場まで行列ができることもしばしば。地元のサラリーマンや近所にある富士大学の学生たちを中心に、満州にらラーメンは“満にら”という通称で熱い支持を受けています。
伊藤さん「常連さんはみんな “満にら”と呼びますね。うちの店、さかえやじゃなくて“満にら”と言われることのほうが多いくらいですもん(笑)」

常連客の多さは、昼どきの店内のオーダーに耳を傾けてみればわかります。メニューには載っていない、「“満にら”ガリガリ」といった独特の符丁が飛び交っているのです。
伊藤さん「満州にらラーメンの辛さのレベルですね。辛め、ガリ、ガリガリ、スペシャルの4段階に調節ができます。ガリガリやスペシャルになると、もう私も食べられないくらい辛い(笑)。緑のにらも真っ赤に染まっちゃうくらいですから」
一方で、年配の客や子どもにやさしい「辛み少なめ」「辛みなし」も用意しているそう。創業から半世紀以上にわたり地元で愛されているのは、きっといつの時代もお客さんと寄り添って歩んできたからなのでしょう。
伊藤さん「花巻で店を続けられるのは、やっぱりお客さんが来てくれるからこそ。“満にら”は赤くて辛そうなイメージがあるんですけど、見た目よりも食べやすいと思います。目でも味でも香りでも、楽しんでいただきたいです!」
花巻市は童話の街として有名ですが、温泉郷という顔も持っています。奥羽山脈を流れる川沿いを中心に12ヵ所の温泉が点在し、自炊できる昔ながらの湯治場があったり、立って入浴する独特の内風呂があったり、バラエティーに富んだスポットが満載。最近は満州にらラーメンを食べに県外からやってくる人も増えているそうなので、観光に来た人も花巻の古き良き一杯を気軽に味わってみてください!
店舗情報 ● 元祖満州にらラーメン さかえや本店 住所:岩手県花巻市山の神1000-1 電話:0198-23-7775 営業時間: 11:00〜15:00LO(無休) http://www.mannira.com/
※記事中の情報・価格は取材当時のものです。
関連記事
麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~ 島の魅力をギュッと凝縮! 香川県小豆島の「オリーブ生そうめん」
麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~ 真っ赤な麺は予想を裏切る味! 新潟県妙高市赤倉温泉の「レッド焼きそば」
麺は口ほどにものを言う~ご当地ヌードル探訪~ 全石川県民が知っている!? 50年愛されるソウルフード「8番らーめん」